138死か全てか
だが誠は、それが磁力の力と判っていれば、影能力を解除する能力があった。
問題は、能力の解除と治癒が同じ作業だという事だ。
もしかすると、磁力の解除と共に、誠はスカイウォーカーの傷を治してしまう可能性があった。
それは意味がない。
能力だけを解除できれば、スカイウォーカーはおそらく、Gにより大出血を起こすはずであり、それなら誠は勝利に断然、近づく。
だが、フルで傷を回復されてしまったら、スカイウォーカーは、二度と誠を近づけさせずに、殺しにかかるはずだ。
それでは能力の解除より、大きなメリットを敵に与えてしまう…。
しかし…。
ともかく一瞬は、敵は飛行状態を解除されることにはなるはずだ。
仮に傷を治したとしても、その一瞬の隙があれば、誠たちは今までを上回る量の傷だってつけられるはずだった。
このG中でなら、足にちょっと傷をつけるだけでも、ただでは済まない。
誠は、スカイウォーカーの磁力を、解除することに決めた。
老人の全身を透過状態にする。
そのまましばらく透過を持続くする。
と…。
スカイウォーカーの上昇が止まった。
やはり、磁力だったか!
次の瞬間、スカイウォーカーは全身から血を吹き上げ、絶叫を上げた。
誠は驚いた。
てっきり影能力の解除と治癒を、同時に行ってしまうものだと、つまり、2つの力は、同じ1つの力だと思っていたのだ。
影能力を治癒するから、能力が解除される。
そういう一直線上にある力かと、誠は考えていた。
だが、それは元々誠の操れる、別の力であったようだ。
しかし、そうなると新たな謎も出てくる。
影能力解除とは、いったいどういう力なのか、という問題だ。
スカイウォーカーは、もはや破れた風船も同じだった。
おそらく、一瞬で絶命したものと思われた。
そうか…。
別に影能力解除がどんな力か、考えるだけ無駄だった。
誠は、高度数千メートルから落下するのだ。
仮にどこかのビルに手をかけたとしても、それは地上数百メートルの話である。
ちょっとただでは済まないだろう。
誠は、スカイウォーカーの力により、しばらく失速しながら上昇し、やがて停止した。
雲の下に、東京の町の全てが見渡せていた。
美しい。
しかし、後は落ちて砕けるだけだ。
思ったが。
不意に誠は、滑空スーツを思い出した。
それはパラシュートではなく、手と胴体の間に翼を、おそらくパラシュート素材で作る、という技術だった。
上手く風に乗れば、かなりの速度で滑空できる。
グライダーのように、速度と風の力で、飛行するのだ。
誠は、影の手を無数に広げた。
鳥の羽のように、それは広がった。
影の手が、風を受けた。
下からの強風が、誠を一瞬で数百メートル、上空に運ぶ。
思ったより、ずっと、これは飛行だった。
なんとか高所まで飛び上がる術さえあれば、誠はこういう形でなら、今のままでも飛べるのかもしれなかった。
空中で弧を描き、誠は渋谷周辺まで滑空していた体を、新宿方面へ向き直った。
はるか下に、スカイウォーカーの遺体が落下していた。
飛行する悪魔が、墜落するのだ。
と…。
フワリ、とスカイウォーカーが浮き上がった。
出血多量は明らかな皮膚の色だ。
だが、彼は再び、飛行を開始していた。
化物か…!
おそらく、ギリギリわずかに残った血を、彼は必至に傷を塞いで保持したのだろう。
おそらく、ほとんど意識も無いのではないか?
だがスカイウォーカーは、腰からサバイバルナイフを引き抜いた。
戦わなければ…。
真っ直ぐ逃げれば、もしかしたら命を取り留めるかもしれないのに…?
せっせと傷を塞いだのは、生き残るためではなく、誠と戦うためであるらしかった。
この人は…。
何故、そんなに戦いにこだわっている?
「私は、最初から飛べたわけでは無い。
殺し合いを続けるうちに、飛行できることに気がついたのだ!」
スカイウォーカーが叫んでいた。
「君も知っているな。
影繰りは、相手の血を吸う程に影能力を増していく。
私は、殺して今の力を手に入れたわけだ!」
ある種の魔剣のように、誠はスカイウォーカーを感じ始めた。
血を吸う魔剣…。
徳川家の血を吸う、魔剣村正など、その手の呪われた剣は、話だけなら実在する。
「死か。
全てより、もっと多くか!
それが影繰りと言う生き物なのだよ!」
言うが早いか、スカイウォーカーは誠に突進してきた。
誠は、片方の翼を畳んだ。
大きく左に旋回する。
こうなった以上、相手は僅かづつでも回復していくだろう。
この高度では、それほどGがかかるとも思えない。
致死ダメージを、スカイウォーカーに与えなければならなかった…。
ただし、誠は、そう自由に空を飛べている訳ではなかった。
片方の翼を畳めば、旋回する。
おそらく両方の翼を畳めば、落下する。
その程度だ。
スカイウォーカーは、まるでUFOのように自在に飛行が可能だった。
凧対UFO…。
到底、勝負にならなさそうだが、しかしUFOは瀕死であり、その分は誠にも優位がある。
だが、避けた誠の背後で、スカイウォーカーは、一瞬で旋回し、背後を狙ってナイフを振り上げていた。




