音速の悪魔
スカイウォーカーが、愕然と、今はもう見えない目を、左右に向けた。
「なるほど面白い能力だ。
視力を潰された。
だがな…」
スカイウォーカーは、虚空を見るように目の動きを止めながら、凄んだ。
「私は、鷹の目と同じ感知能力を持っているのさ。
だから、どうしたところで、私の視界は塞げはしないのだよ!」
言いながら、スカイウォーカーは、なお急上昇を続ける。
確か、鳥はとても人間より視力が優れていて、遥か上空から一匹のネズミも発見し、捕獲するという。
空中行動に有利な感知能力を、スカイウォーカーは具えているので、目つぶしに意味は無かったのだという。
誠は、颯太と真子と繋がりながら、スカイウォーカーと共に急上昇した。
が…。
不意に誠の意識が、とろり、と濁った。
「あ、あれ…」
「ハハハ。
これだけの急上昇を続けているのだ。
君はもう、ブラックアウトしかけているのだ!」
ブラックアウト…!
誠も、それは聞いたことがあった。
急上昇により、体内には物凄いGがかかる。
急速に上昇すればするほど、体内には下方向にG、重力がかかってくるのだ。
固体であれば、重力がかかっても問題は無いが、人間の体には液体、血液が巡っている。
心臓から脳に送れれる血液に一定以上のGがかかると、血が脳に到達しない、という現状が起こってくる。
それがブラックアウトだ。
垂直離陸などを行うジェット戦闘機やロケットによる大気圏離脱時などに、この現象が起こるのが知られていた。
マズい…!
誠は焦った。
スカイウォーカーは、いわば経験を積んだ宇宙飛行士であり、誠は全くの素人だった。
平地での戦いなら互角とはいかなくとも誠なりには戦えるとしても、空中では、やはり戦いは歩が悪かった。
垂直上昇時のGなど、誠は考えたことも無いのだ。
このままでは誠は意識を失い、戦いに負けてしまう。
仲間全員が凄惨な死を迎えることになってしまう。
それは駄目だった。
なんとか、出来なければ全てが終わる。
確か…。
専用のスーツがあったはずだ。
思い出せ…。
誠は茫洋とした頭脳で、なんとかGスーツの機能を思い出そうとした。
そうだ、確か…。
圧迫するのだ。
体の下に溜まっている液体を、全身を圧迫することで上に強引に上げるのだ。
誠は、影の手を全身に伸ばして、自分の体を圧迫した。
胃などは、かなり苦しいが、しかし…。
気のせいか、頭ははっきりしてきた気がする…。
だが、このまま相手ペースに持ち込まれたら、決して誠はスカイウォーカーには勝てない。
空では、一日の長がある、どころでは無かった。
だが誠はそもそも凧のようにスカイウォーカーに掴まっているだけで、独自に飛行する能力は無い。
このまま、ともかく接近して、スカイウォーカーの体に傷をつけ、体力を減らすしか戦いようがなかった。
真子と颯太が、スカイウォーカーの肉体を、切り刻んでいく。
内臓もかなり切ったし、そこも急所だと思い、男根にも攻撃をした。
痛がる反応は感じ取れ得るが、しかし…。
思うほど、敵の力が弱まらない。
腱を切ったはずの足も、空中にいるためだろうか、ただブランと揺れるだけだ。
気は進まなかったが、誠はスカイウォーカーの男根を透視した。
すると…。
殆ど、血も出ていない?
スカイウォーカーにも、等しくGはかかっているハズで、鍛えてあるとはいえ、下半身に血液は集まるはずである。
その状態で、誠がさっきから影の手で攻撃している内臓や下半身の傷の状態であるならば、それこそ血が全身から噴き出してもおかしくない筈なのに、普通に見てもスカイウォーカーの衣服は、綺麗なものだ。
凧としてぶら下がっている誠にも、殆ど血などは流れてこない。
なんだ?
傷を防ぐ力でも持っているのか?
思い、よく見て見ると、傷はある。
男根と玉の片方に切断面はある。
微かな出血はあるのだが、しかし。
傷が、どういうカラクリなのか、ぴったりと、圧迫止血をしているように、止まっていた。
薄い出血は下着を染める程度で、深刻なダメージには、全くなっていなかった。
誠の影の手のような力とは違う。
なぜなら、傷は見えるままなのだから。
だが、切断面は、上下から、ぴったりと貼り付いている…?
貼り付く?
それは、気になる言葉だった。
最近、そういう能力と出会っていた。
まさか…。
反発と引き合う力で、スカイウォーカーは空を飛んでいるのか?
誠は驚いた。
いや、確かに、あの少年の力よりは高性能なのかもしれなかったが、基本はあの、磁石の反発と引き合う力なのかもしれない。
つまり、地面に反発の力を使えば、高々と空に舞い上がる力となる。
そして、地平線と引き合えば、そのまま空が飛べる理屈だ。
空中に制止するのは、沢山の反発と引き合いを上手く操っているのかもしれない。
だから、傷と傷を引き合わせ、最小の出血状態を維持しているのだ。
傷の止血などは、まさに歴戦の勇者ゆえの巧みな影操作であり、また…。
超音速戦闘機とのドックファイト。
これも、戦闘機と引き合えば、つまりスカイウォーカーはマッハ3で空を飛び、うまく反発を使えば、瞬間、スカイウォーカーはマッハ六で逃げられる。
そして、あの空気投げ!
音速で飛んでいる戦闘機に反発を付けてしまえば、戦闘機は斜めになる。
すると。
音速の壁、にぶつかる。
戦闘機はミサイルのように細い体で、頭から飛んでいるから音速の速度で飛べるのだが、体勢を崩した瞬間に、空気が壁のように戦闘機を潰すのだ。
これは撃墜王でも仕方がなかった。
まさに、音速の悪魔がここにいた。




