切断
なぜ、僕は落ちている?
誠は、空中を落下しながら、呆然とした。
今さっきまで、確かに誠は、スカイウォーカーの糊のきいたズボンを、しっかりと掴んでいたのだ。
だが…。
一瞬で、誠は空気に投げられでもしたかのように、虚空へ吹き飛ばされていた。
何かの技を、スカイウォーカーは持っているのだろう…。
誠は、戸惑いながらも、自分を励ました。
歴戦の勇者なのだ、誠が、スカイウォーカーの技の見当がつかないのは当たり前だった。
相手は何十年も、戦闘の専門家として、音速の影繰りとして武功を重ねてきた怪物なのだ。
とにかく、ここで誠は終わる訳にはいかなかった。
四方に、影の手を伸ばす。
影の手は、もちろん影繰りであるスカイウォーカーにも見えている。
肉体に貼り付いている誠を、空気のように投げ飛ばすスカイウォーカーの技術なら、避けるのは容易い。
ふらり、と踊るように手を避けたスカイウォーカーの眼前で、手が爆発した。
爆発し、射程一杯から無数の手を新たに伸ばすのが、誠の、影の手の射程を劇的に伸ばす工夫だった。
その何千の腕のいくつかが、スカイウォーカーのジャケットを掴んだ。
誠は、瞬間、スカイウォーカーの頭上に飛び出した。
スカイウォーカーの飛行は、まるで空中に浮かぶ石であるかのように盤石なものだった。
体重をかけて引き落とすつもりが、自分がスカイウォーカーよりも高い位置に浮かんでいたのだ。
あれだ…。
誠に微かな勝算があるとすれば、日蔭さんの戦い方。
同じ事が誠に出来れば、もしかすると天下に名をとどろかせた勇者に、まだ高校に入学してもいない小僧が、勝てるかもしれない。
スカイウォーカーは、眼だけで誠を追っていた。
スカイウォーカーの背後に、颯太が現れ、真子の力で内臓を切断した。
ガッ!
とスカイウォーカーは震えた。
その隙に、誠はスカイウォーカーに接近し、眼を潰しにかかった。
が。
さっきと同じ、現象が誠を襲った。
誠は空中に投げられ、一瞬方位を見失った。
(誠、こっちだ!)
颯太が教えてくれた。
スカイウォーカーは、一気に高度を上昇させていた。
接近されたら危険だ、と判断したのだろう。
だが、颯太は影の肉体を持って、スカイウォーカーの背中に貼り付いていた。
即座に、誠は颯太と影の手を連結させた。
誠の影と、同じ誠の影である颯太であれば、射程外であっても一瞬で連結、だけなら可能だ。
今まで、それが出来なかったのは、誠が颯太の存在を知らなかったからだ。
第二の肉体を、今、初めて誠は理解し始めていた。
今、誠は、誠、颯太、真子の三つの体を持てるようになっていた。
これを駆使すれば、日蔭さんに似た戦法を取れるはず、と誠が発想したことが、誠と颯太の連結を可能にした。
「このクソ餓鬼が!」
スカイウォーカーを追いかけて上昇する誠を見て、歴戦の勇士が叫んだ。
敵が感情的になってくれたのは良い傾向だった。
誠は、スカイウォーカーの耳の中に影の手を忍ばせた。
三半規管。
これは耳の中に、石のような物が入る形で存在している。
つまり、この石が動くことで、人は天や地を知り、自分の位置や状態を知るのだ。
三半規管を、誠は揺さぶった。
「はっ!」
スカイウォーカーは叫んでいた。
故意にこれを揺さぶられると、人は天地が回転するような幻惑感を覚える。
酷く頭を打った、等の場合と同じだ。
一瞬、自分の位置を見失ったスカイウォーカーの体内の数カ所を、誠はカットした。
眼を潰す!
誠は、マッドドクターの頭に、風を切って接近した。
だが…。
誠は、再び、空中に飛ばされていた。
「あれだろ?
同じ日本人の、ヒカゲだったか?
あんなことがしたいんだろ?
だが、彼が恐ろしいのは、自分の肉体を、彼は消せるからなんだよ。
だから自分は傷つかず、相手を一方的に切り刻む、という恐ろしい能力になる。
だがね。
君は、常に君の肉体から逃れられないんだよ、そこが全く判ってないわけさ」
日蔭さんを知っていた!
確かに、スカイウォーカーも国際的に名をはせた影繰りなら、日蔭さんも同じだ。
知っていて当然だった。
(誠!
奴の言葉に惑わされるな!
お前は透過が出来るはずだ!)
颯太が叫ぶ。
だが、あの空気投げの原理が、誠には判らない。
何をされているかも判らない状態で、誠は何を透過すればいいというのか…。
だが、諦める訳にもいかなかった。
スカイウォーカーの肉体を、誠は確かに、かなり痛めつけてはいるはずなのだ。
まだ決定打は与えられてはいないが、敵は嫌がっている!
誠は、今度はスカイウォーカーの足に貼り付いていた、真子の影と連結し、再び上昇した。
「何度でも飛ばしてやる!」
スカイウォーカーは、手を誠に突き出した。
その瞬間、背中に付いた颯太から出た影の手が、スカイウォーカーの体内と透過して、老人の視神経を、確かに切った。




