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シャドウダンス3魔弾の射手  作者: 緑青ゆーせー
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137/220

135落ちる

雲一つない青空に浮かんでいるのは、カーキ色のジャケットを着た、老人である。

髪は真っ白だが、グレイのボルサリーノをスタイリッシュにかぶっている。


老人は、まさに空に浮かんでいた。

雲一つない空に浮かぶ雲のように、全く揺らぎもせずに、高層ビルの上空にピタッと浮き上がっている。

艶やかに光る白とベージュの革靴は、まるで戦闘機のボディのようだ。


戦えば死ぬ。


それは誠にも判っていた。


相手は、超音速戦闘機とドックファイトをする影繰りなのだ。

皆を乗せてフワフワ飛ぶ誠とは、同じ空を飛ぶと言っても、意味が全く違った。


目の前に浮いている老人が最先端音速機であるなら、誠は気球だ。

話にもならない。


だが老人は、名指しで誠に決闘を挑んでいた。


平地にはネズミの群れ。

そして上空にはスカイウォーカーが誠たちを上下から挟撃していた。


勝てない…。


空を飛ぶことに特化した影繰りがスカイウォーカーなら、誠は昆虫のようなものだ。

一応、無様な姿ではあるが、飛ぶ能力もある。


だがそれは、甲虫が弾丸のように一直線に飛び、壁にぶつかって落ちるように、限定的な力なのだ。


新宿は、高層ビルが並んでいるから、何とか影の手を伸ばして、狭い範囲は動けるが、その外側にあるのは、摘かむところの何もない空気の連なりでしかなかった。


音速で飛ばれたら僕は…。


思うが、しかし、決闘を断ればスカイウォーカーが何をするかは明白だろう。


誠は、よろり、と立ち上がるしかなかった。


あの防犯カメラの映像が頭に浮かんだ。


カメラの一コマに映り、次の一コマには既に飛び去る影だけが見えた。


おそらく、眼で追う事すら出来ない…。


(奴を掴め、誠)


颯太が囁く。


まぁ、確かにそれで誠も音速で飛ぶことは出来る。


ただ、それでは凧のように引っ張られているだけなのだが…。


しかし、眼でも追えないよりは、凧になって引っ張られる方が、いくらか戦っているような形になるのは事実だった。


本質は、機能が全く違っているので、話にもならなかったが…。


誠は、空を飛んでいるのではない。


何かを掴んで、移動中、その区間の間、足が浮いている、程度のものだ。


このスカイウォーカーは、今、現在も、空中に雲のように浮かび続けていた。

まさに飛行する影繰り、なのだ。


影繰りは、そのイメージによって能力が変わってくる。

おそらく、スカイウォーカーの飛行は、アメコミの超人の飛行と同じような現象なのだろう、とその姿を眼前にした誠は思う。


誠が何とか食らいつくには、颯太の言うように、スカイウォーカーに掴まるしかなかった。


しかし…。


どう戦えば良いのか、誠には全くイメージがつかめなかった。


誠が負ければ、後のメンバーがどうなるのかは明らかだった。

だから誠は、どんな卑怯でもイカサマをしてでも、スカイウォーカーを殺さなければならなかった。

勝負に勝っても、実質的に性能が違いすぎる以上、スカイウォーカーを生きて返す訳にはいかない。


だから誠がするのは、殺し合いだ。


なんとか誠が、スカイウォーカーを殺さなければ、仲間は全て皆殺しにされてしまう。


とにかく、音速で飛行されたら最後、誠は何もできずに死ぬことになる。

やはり、颯太の案に乗る以外、方法は思いつかなかった。


誠は、影の手でスカイウォーカーを掴んだ。


「ほう?」


薄く、老人が笑った。


「戦おうとするだけ、多少の骨はあると見える」


僕一人の死なら、既に諦めていたかもしれなかった。

だが、さすがに小学生まで道連れにする訳にはいかない。

どんなに無様でも、とにかく戦いには勝たなければならななった。


誠は、一気に距離を詰めた。

貼り付いてしまえば、そのまま内臓の一部でも破壊できれば、だいぶ何パーセントかでも、勝利の目は出てくる。


だが、老人は、鋭い蹴りを放った。


誠は、硬い老人の革靴の先端で、背中を蹴られた。


「動きが直線過ぎるんだよ!」


ガァ、と痛みに誠は叫ぶ。


が、影の体が老人の足を捉えた。


カット!


それは小野真子の、ささやかな影能力だ。

だが、誠の透過と融合すれば、決してささやかではない破壊力を持つ。


誠は、老人の強靭な左足の太ももに走る頑強な靭帯を、切断した。


ングッ!


老人は、叫びを飲み込んで、上昇する。


逃げられてはいけない!


上空に颯太を飛ばせて、老人の脳天に踵落としを敢行した。


が、靱帯断絶の痛みに耐えながら、老人は首を横に傾けた。


老人の、ビルドアップされた肩の筋肉が、颯太の踵を、マットレスのように受け止めた。


駄目だ!

逃がせない!


老人の背筋を、カットする!


グァ、と老人は背を反らせた。


影の手を伸ばして、老人の体に誠は這い上る。


内臓だ!


それは致命ダメージになる!


誠は右腕で、靱帯断絶して、ぶらりと垂れ下がったスカイウォーカーの足にしがみついた。


が…。


「君はなかなかだよ。

だが、それじゃあ、私には勝てないな…」


誠の腕は、確かに老人の足を掴んだはずだった。

だが。


誠は、いつの間にか高度千メートル近く舞い上がっていた空中から、なぜかツルリと、滑り落ちていった。

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