134決闘
SNSの発信者が、近くにいるのかもしれない!
それは、もし倒すことが可能であれば、誠たちの行程には強い希望の光が差し込むことになる。
今回のテロには、SNSが最初からとてつもない影響を与えていた。
あれが無ければ影繰りが新宿に集結することも無く、穴の被害もずっと少なかっただろう。
特にAが、なにか人間の死体と、影繰りの死体を集めようとしている状況では、あれはエゲツない撒き餌のように作用していた。
「Aなのかな?」
ユリが緊張する。
ユリは、数か月前まで、Aの機関で大量殺人マシンとして育成されていた身なのだ。
その期間は、生まれてから殆ど楽しいことなど無かったユリの人生の中でも、どぶ川の底でもがくような日々だった。
「おそらくな。
こんなタイミングであかの他人ってことは無いだろ?」
良治は断言した。
誠もそう思った。
「ユリ。
クロコダイルマンの話していた、ミヤギって人間、知らない?」
誠は聞いてみる。
「主力部隊に、予知をする少年がいる、という話は聞いたことがあったけど、それがミヤギとはさっき知ったんだよ。
僕は、とても主力とは言えなかったから、そんな事は知らなかったよ」
ユリはとても強い能力を持っているが、コントロールは苦手だった。
今は3匹の虫のコントロールも不安なのだ。
虫が暴走したら、ユリにも止められず、何人も死者が出た。
東京攻略のメンバーには選ばれたものの、それはユリの暴走を期待しての選抜だった。
「本部に知らせた方が良いかもしれないわね」
美鳥は、レジで両替をし、コンビニの外にあった緑電話に向かった。
「自衛隊は駅を使って東側と西側を分断しているみたいね。
こっち側には今のところ、特段との注意ははらっていないようよ」
美鳥の報告をうけ、誠たちは新宿西口を歩きだした。
小さな飲食店がビッシリと並ぶ地味な繁華街であり、そこから甲州街道と青梅街道を結ぶ大通りを抜けると、高層ビル街に入っていく。
飲食店は、だから高層ビルのビジネスマンたちの胃腸を満たす重要な意味を、地味ではあるが持っていた。
今は無人の、薄暗い狭い通りである。
その先に無数の高層ビル群が立っているとは、とても思えない小さな店の連なりだ。
その道に、つつっ、と、凄い速さで、小さな生き物が走った。
「…あれ、ネズミだよな…」
ユリコが引き攣る。
地下からの脱出通路でも、子供たちと共に、ユリコは小動物の恐怖を肌で感じていた。
「こーゆうところでは、あーゆうのは多いんだ。
あまり気にするなよ」
アイチが教えた。
「どうも、嫌な音が聞こえるようっすよ…」
と川上。
「嫌な音って、なぁに?」
カブトの問いに、川上は…。
「生物っす…どうも半端ない量の小動物がこの辺に集まっているようっす…」
「半端ない量…?」
アイチは首を傾げるが。
「あー、君はボカシて発言しようとしているが、もし僕の思う通りなら大事件だからハッキリ聞くんだが…」
と渡辺龍は緊迫する。
「それはつまり…。
ネズミが、途方もない量、ここに集結しつつある、って事で良いのかな?」
一瞬で、誠たちは事の重大さに思い至った。
ネズミの群れは、アヒルやニワトリの群れとは意味が違う。
その規模によっては、誠たちを充分全滅させ得る事態だ。
彼らは小さくとも、鋭い牙を持ち、小さいがスピードも速い。
1対1ぐらいなら何の問題もないが、それが万、億と集まったとしたら。
到底、影の力ぐらいでは相手にならない。
「…はい。
ネズミに間違いないっす。
この辺一帯に、大量のネズミが、俺たちを包囲してるッス」
一瞬で血の気が引く。
「飛んで逃げましょう!」
誠は即座に、皆を影の手で掴み、建物の上に跳んだ。
が…。
「うわぁ!」
雑居ビルの屋上には、一面に小さな黒い生物がひしめいていた。
「まずい!」
別の手を、先の8階建てのビルに伸ばす。
だが、ギャァ! と叫んで、ネズミの群れが飛びかかってきた。
薩摩芋之介が、剣でネズミを払った。
「高層ビルまで飛んだ方が良い!」
渡辺龍が指示した。
誠は、腕を爆発させ、KDDIビルに跳んだ。
「…死ぬかと思ったぜ…」
ユリコは、引き攣った顔で唸った。
ビルの屋上の、コンクリートの上で、全員が呆然とへたばった。
ついさっきコンビニで休んだ事も、ほとんど忘れ果てた。
誠もジムの購買で買ったハーフパンツで、コンクリートに座ったが。
「小田切誠!」
へ、と声のする上空を見上げると、一人の男が、空中に浮かんでいた。
老人と言ってもいい白髪の、だがビルドアップされた肉体の男が、空中で、誠を見下ろしていた。
「私はスカイウォーカー!
小田切誠、お前は、我が盟友、マッドドクターを殺した。
故に、私は、決闘をお前に挑む!」
スカイウォーカー。
トムキャット戦闘機とドックファイトを演じた、という高名な影繰りが、誠に勝負を挑んできた。




