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シャドウダンス3魔弾の射手  作者: 緑青ゆーせー
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治癒

治癒が間に合えば良かったのだが、一瞬ユリコの鉄パイプは、少年の治癒が完了する前に少年と接触していた。


ヒョン、と少年は鉄パイプから逃れた。


が、そのまま地面に落ちた。


遅れて、磁力を誠が治癒したのだ。


「き、貴様っ!

俺に何をした!」


背中から、明治神宮の砂利道に落ちた少年が、悲鳴のように叫んだ。

まさか自分の肉体の磁力を治癒された、とは、咄嗟には思いつくまい。


何らかのカウンター攻撃を受けた、と受け取ったようだ。


だが、むろん磁力は少年の影能力であり、新たに磁力を結ぶことは可能だった。

しかし一度切れた磁気関係は、すぐには再び結べないようで、明治神宮代々木口からよく見える、尖塔型の高層ビル、NTTドコモ代々木ビルと自分の間に磁気を巡らせた。


一気に少年は高層ビルに飛んでいく。


「ユリコさん、運ぶよ!」


誠は影の手でユリコを掴み、もう一本の手でNTTドコモ代々木ビルを掴んだ。


「お前も飛べるようだな!」


少年は笑った。


「だが、手を伸ばしているのが丸見えだぜ!」


確かに。


誠は、影の手を伸ばしているだけなので、影繰りには手が見えてしまう。


磁気は、そういう少年の妄想の産物ゆえ、方向は見えなかった。


「だから、こういう真似も出来るんだよ!」


真っ直ぐ空に突き出された巨大な針のような、先の尖ったビルから、ふいに少年が曲がった。


どうやらニトリ辺りに磁力を伸ばしたらしい。


誠も影の手を伸ばすが…。


どうも空中戦では、磁気に敵わない…。


誠も、それは感じていた。


「誠、俺を放せ!

ぶっ叩いてやる!」


ユリコが叫んだ。


「え、でも、この高度で飛んで大丈夫なんですか?」


高層ビルに飛ぶ途中だったので、地上百メートルぐらいはある場所だった。

普通、影繰りでも無傷で落ちられる距離ではない。


「問題なーい!

俺はエルザタワーも一っ跳びだからな!」


エルザタワーは知らないが、要するに高層ビルもジャンプで上ったり下りたりできるらしい。

これは想像以上のパワー型影繰りだった。


「じゃあ、お願いします!」


誠一人では磁気少年を追いきれないが、ユリコもいるのなら、誠は前のように治癒を狙えばいい。

これならば、磁気少年を倒せるはずだった。


ユリコが、影の手からミサイルのようにジャンプした。


確かに一跳びで高層ビルにも乗れそうだ。


鉄パイプを、ブン、と振り回し、空中で位相まで変えられるようだ。


少年はJR新宿駅方向に飛んでいく。


彼は、そこに巨大な穴があるのを知らないのかもしれなかった。


眼前には、JR線路を縦断するイースサイドスクエアの広い橋が見えて来ていた。


二度目のジャンプで、ユリコは磁気少年を捉えた。


が、少年と鉄パイプは、まだ磁気関係が結べていた。


ひょい、と少年は横に飛んだ。


が、誠もそれは予測していた。


少年の体を透過状態に固定した。


このまま数秒間状態を固定できれば、少年の磁気は一時的にではあるが治癒される。


その一瞬、磁気少年はただの人間だった。


「風が変わった!」


少年が驚いている。


おそらく、透過状態にある少年の体は今、物質であって物質ではない。


風は体にぶつからず、通り過ぎていく。


なるほど透過状態なら、そう感じるのか、と誠も初めて知った。


「俺に何かしているな!」


少年が叫んだ時、少年の磁気が切れた。


少年は落下し、その背中に、ユリコの鉄パイプが、背骨を折る勢いで、振り抜かれていた。





まずい!


少年の背骨が、肋骨の下で本当に折れていた。

その状態では、人間は即死である。


誠は即座に少年の体を透過状態にして、影の手で捕まえようとしたが、透過状態の物質は、さすがに誠でも捕まえられなかった。


少年は影の手をすり抜けて、真っ逆さまに落ちていく。


「任せろ!」


ユリコが叫んだ。


JR線路の上だ。

今、新宿東口に大穴が開いてしまっていたので、全ての電車が停まっていた。


ユリコは、その線路の上を、弾丸のような速さで走っていく。


ユリコが少年を抱える瞬間までは透過を続けられるが、タイミングを逃せば少年は地下に落ちていく。

地下は埼京線などのホームがあり、その下にも何層もの地下構造物が作られていた。


治癒が間に合わなければ、少年は即死のままだ。

間に合っても、ユリコの手を逃れれば、地下構造物に叩きつけられて重症を負う。


タイミングは、ギリギリだった。


透過状態が、続けられていく。


1秒…。


2秒…。


ユリコが、列車並みの速度で走っている。


3秒…。


ユリコが加速した。


あそこから加速できるのか…。


さすがに誠も唖然としたが…。


ユリコが少年に触れた。


透過を切った。


ずん、とユリコは沈んで、砂煙を上げて、少年を抱えていた。


「よぅっし!」


明るい午後の日差しが差し込む、広い線路の上に、少年が降ろされた。


「こいつ、すげー軽いの。

40キロ無いんじゃないか」


本当に小柄な少年だった。


だが、二人の仲間に、おそらく加速の力を付加しながら、誠とユリコと同時に手玉に取って戦った猛者である。


誠は体の隅々まで透視をして状態を調べる。

治癒は成功していたはずだった。

そして、現在、少年は呼吸も普通で、血圧、心拍数などもすべて健康体そのものだった。


だが…。


少年は眠り続けていた。



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