131治癒
磁気の、引き合う力か…!
誠は、地面に押し付けられていた。
力はとても強く、誠は指一つ動かすことは出来なかった。
おかしいな…。
誠は思う。
これほどの強い力なら、さっさと使えば、もっと楽に戦えるはずじゃ無かったか?
隣のユリコも、力に逆らおうとしているが、あの超パワーをもってしても磁力の力には勝てないらしい。
少年は、たぶん敢えてこの場所に誘導したのだ。
ここが、彼の力を最大限に発揮できる場所なのだろう。
しかし、なぜ明治神宮なのか?
誠は考えるが、地下を見ると納得した。
この地下には、人口物はなにもなく、地下十メートルには巨大な岩石があった。
この宅地一軒分程もある大岩を、たぶん、あらかじめ磁化していたのだろう。
ただし、ここで言う磁気とは、影繰りを引き、また跳ね返す力のことであり、現実の磁石とは、違う。
いわば影を引き、また弾く、性質を持った影能力の事だ。
ただし、磁気という言葉とのイメージの親和性からか、影繰りが鉄だった場合の磁力とほぼ同じように作用する力だ。
そのようなイメージで、影を作った結果なのだろう。
シンプルだが、決まればとても強い力だ。
小柄な少年は、なんと日本刀を取り出した。
「これは宝物殿にあったここの日本刀だぜ。
これでお前を切断する!」
ギラリ、と太陽の光を反射し、日本刀が銀色に光った。
ヒヒッ、と少年は笑い、
「俺の磁力で鉄の剣を振ったら、どうなると思うよ…。
超電導で剣を振れるんだぜ…、ヒヒッ。
お前らなんて、みじん切りだぜ…」
まずい…。
透過すれば、誠は日本刀ぐらいで切られることはないが、しかし磁力を何とかしない限り、いずれは追い詰められるだろう。
だが磁石を狂わす事が出来るとしたら、電気ぐらいの物だろう…。
と、考えてから、誠は、この力が厳密には磁力では無いことに気がついた。
影の力だ。
影ならば、誠が、もしかしたら治療の能力でなんとかできないものだろうか?
少年はお守り売り場から軽く飛び降り、日本刀を持って、ゆっくりと誠に近づく。
時折、剣を振っているが、確かに…。
斬撃の金属の光りは、ギラリと一瞬きらめくが、太刀筋など見える速度ではない…。
誠は、急いで巨大な石を透過状態にした。
傷ついた身体を、一旦透過状態にすることで、融合させる。
それが、最近誠が身につけた、治癒、の力だった。
縫合する、よりも早く、完全に傷を治す。
同じように、巨大な岩を、全て透過状態にし、しかしその位置から落とさないようにする。
しばらくその状態を維持すると、不意に…。
磁力は消えた。
ハァッ!
叫びと共に、ずっと立ちあがろうとしていたユリコが、飛び上がるように立ち上がった。
「なに!
俺の磁力をどうした!」
少年は驚愕した。
どういう理屈か判らなかったが、誠は岩の治療に成功したのだ。
「こんのクソ餓鬼!
ブチのめしてやる!」
ユリコは、怒り狂って少年に鉄パイプを振るが、少年はユリコの鉄ハイプを磁化していた。
鉄パイプと少年の体は反発しあうので、絶対に触れない、という理屈のようだった。
そして少年は、巧みに地面や周りの森林と、反発、引き合う力を駆使していたので、人間の速度を超えて空気のように軽やかに逃げていく。
事実、彼は己の筋力をほとんど使っていなかった。
物質では、とうてい少年を捉えることは不可能だった。
影ならば触れられるはずだが、少年を掴もうと物質化すると、前もそうだったように指に乗られてしまう。
そしてたぶん、少年が手を触れれば、その物質と少年は磁力、という因果で結ばれてしまうのだ。
物質化して掴むのではなく…。
あの岩を直したように、少年を治癒させてしまえば…。
そうしたら、少なくとも新たに因果を結ぶまでは、少年は磁力を操れないかもしれない…。
磁石がただの鉄になれば、その一瞬でユリコさんなら少年を仕留められる。
誠は、少年を透過した。
だが、少年は、虫を追う燕のような速度で変則的に揺れながら、今は空を飛んでいた。
ずっと透過状態を維持することが、難しかった。
飛ぶか…。
誠も少年と並走すれば、多少は透過しやすくなりそうだ。
影の手を伸ばし、誠は宙に浮かんだ。
無数の影の手を伸ばし、あちこちの木を掴み、滑らかに飛行する。
おおむね、少年と同じ速度で飛行が出来た。
攻撃されると、その瞬間、反発が起こるので加速するが、そうでなければ少年の速度は、誠の飛行とあまり変わらなかった。
驚くべきはユリコで、2メートルの鉄パイプを振り回しながら、誠や少年の速度に追いついてきている。
鉄パイプは、作業現場で足場を組むときに使う、きわめて頑強なものだ。
2メートルであれば、相当の重さがあるハズだ。
「ザケンなクソ餓鬼!」
叫んで、ユリコが振り下ろした鉄骨が少年に触れた時、誠の透過は、少年の磁場を治癒していた。




