130高速
ユリコの振り抜いた鉄パイプは、今度こそ小柄な少年の頭頂部を直撃した。
が…。
少年の頭頂部にパイプが触れる瞬間、少年は一瞬で動いたのか、鉄パイプを両手で掴んでいた。
30センチ、動いた?
誠は、唖然と思った。
確かに頭を直撃するはずだった鉄パイプの真下で、少年は一瞬に加速して30センチ程、横に動いて攻撃を交わしたのだ。
ただの高速移動とは別な力なのか?
誠は考えた。
影の力は、当人の潜在意識や願望も交じって様々な形を取っていく。
同じ火の影でも、レディとカブトでは、全く違う現れ方をする。
この小柄な少年も、ただ早く動ける、という力とは別の、なにか特殊なものを持っているようだ。
おそらく誠の透過も、同じように避けたものと類推できる。
想像だが、完全に攻撃を食らう、となった瞬間に、この力は発動し、身体を数十センチ動かすのではないだろうか?
しかし、そんな動きが出来るのでは、直接攻撃であれ、誠の透過のような遠距離攻撃であれ、この小柄な少年にダメージを与えることは出来ない…。
「おめぇ、変な動きすんな?」
ユリコが、鉄パイプの上に軽々と直立した少年に聞いた。
「そうさ。
俺は瞬間移動ができる。
だから、俺にはどんな攻撃も当たらないのさ!」
ニタリ、と少年はユリコの鉄パイプの上で、腕を組んで勝ち誇った。
「そーかよ!」
ユリコは、切れ気味に薄笑いをし、
「それじゃあ!
その瞬間移動とやらが出来なくなるまで、切り刻んでくれるぜ!」
と、鉄パイプを振り回した。
が、ユリコのスピードでは余裕で交わせるものらしく、少年は背後に連続バク転を決めながら、逃げていく。
誠も、透過を随時、混ぜることにした。
もう少し、よく観察すれば、何かヒントが見つかるかもしれない。
バク転で空中にいる隙をついて、透過をかける。
絶対に落ちる状況だったが…。
少年は、不意にジャンプをした。
おかしい!
誠は思った。
足元に地面は無かったのだ。
視覚的には変わらぬ地面が見えているが、その部分は確かに誠の透過の穴になっていた。
が、少年は、その穴に落ちることなく、その場で、あるハズの無い地面に踏み込み、大きく跳んだのだ。
足場を作る能力なのか?
考えるが、それではユリコの鉄パイプを交わした動きが説明できなかった。
足場を作るのではなく、踏み込むことなく、磁石の反発のような力で動いたのだろうか?
磁力!
確か、身体の大きな中学生も、自分は電気には耐性がある、というようなことを言っていた!
磁力の反発の力により、小柄な中学生は攻撃を交わしているのだろうか…?
そうだとすれば…。
同じS極の磁力なら反発するが、逆のN極の磁力なら引き合ってしまうはずだ。
つまり…。
彼らの高速運動は磁力の力であり、引き合って速度を速め、また一瞬で電極を入れ替えることで反発、瞬間加速する。
ただし、髪の長い少女と大柄な男には、そこまで繊細な磁力のコントロールは出来ない模様だ。
その点から見て、たぶん3人の高速移動は、この小柄な少年が2人に付加している能力なのではないか、と誠は感じた。
髪の長い少女は銃、大柄な少年はパワーが本来の能力の気がする。
おそらく、この小柄な少年を倒すことが小学生チームを援護する近道だと、誠は直感した。
だが…。
磁力を自在に扱う敵と、どう戦ったらいいのだろうか?
今、ユリコは持ち前の超人的なパワーと運動能力で小柄な少年が跳んだ先に追いつこうとしてた。
それは、明治神宮の鳥居の中だ。
誠もユリコを追って、影の手で鳥居を掴み、飛んだ。
もはや明治神宮の境内で、ユリコは少年を追い回していた。
だが、少年は楽しげに、何かは判らない鼻歌を歌いながら、逃げ回る。
この速度があるのなら、攻撃に回ることもできるんじゃないか?
ふと誠は疑問を持った。
考えると、少年は都会の森、とも言うべき神宮の森の中へどんどん入り込んでいく。
引き付けて、何かをするつもりだ。
おそらく、磁力に関係した能力に違いない。
誠は、急いで2人へ追いつき、少年を落とした。
また反発を使って、少年は軽々と木々の中へ飛び込んだ。
「ユリコさん、奴は何かするつもりです!」
誠は言うが、
「だーかーら、仕掛けた時が、一番のチャンスじゃねーか!」
ユリコも理解はしていたようだ。
だが…。
「奴は磁力を操っている!
皆から離れて、奴の罠にはまると厄介です!」
「磁力?」
ユリコは考え、
「なーる程ねー。
どおりで、鉄パイプが重くなったり軽くなったりするわけだ」
笑った。
そうか…。
磁力なので、引き合う力にすれば、ユリコのパイプは軽くなり、反発する力にすれば、その分パイプは軽くなるようだ。
二人は、明治神宮内の結婚式場の傍まで移動してきていた。
「ハハ!
バーカめ!
ここで小田切誠の首は頂くぜ!」
お守り売り場の上で、少年は叫んだ。
と、同時に、誠とユリコは、ズン、と、石敷きの地面に、引きずられて、倒れてしまった。




