眠り姫
夢の中なら何でも出来る!
考えてみれば、なぜすっかり仲間に溶け込んでいたクロコダイルマンが誠を襲ったのか…?
たぶん、この赤毛男の影能力にとって、誠が厄介だからに違いなかった。
僕の透過が厄介なのか?
森を素通りできるからか…?
それとも、透視の力か?
誠は、影の体で上空に浮かんだ。
小百合とユリコが、赤毛男と戦っていた。
前、一瞬幽体になったときに、誠は樹の最先端が顔になった男を発見したが、その時は慣れない幽体だったため、細かく見ていなかった。
見ると、森のあちらこちらに、同じ男の顔が見えている。
それは、現れては消え、森全体を監視しているもののようだ。
枝に、木の実のように男の顔がある。
と、男がニヤリと笑った、と思うと…。
その実が、ポトリ、と落ちた。
レディ、カブトの兄弟は、夢中で森を焼いていた。
男の顔の木の実が落ちたのは、その真っ只中だった。
木の実は、一瞬で黒く焼かると、パチンと爆ぜ、黒い焦げが、まるで蛇花火のように膨らんでいった。
1秒の何分の1かで、それは巨大な爬虫類の姿に変わった。
「はぁ…!
なんだこれは…?」
二人同時に叫んだ。
見た目は、まるでファンタジーのドラゴンだが…?
しかし、背中に羽根は無い。
どちらかと言うと、コモドオオトカゲに近いような姿だ。
燃え盛る木の枝をバリバリと砕いて、そのドラゴンが、火に焼かれながらレディ、カブトの前に立った。
「くだらねぇ…!」
レディは、嬉しそうに呟いた。
「火に強かったとしても、俺の分銅で打ち砕いてやる!」
レディの3つの分銅が、体高3メートルはあるドラゴンの頭と背中に突き刺さった。
だが…。
分銅は、ドラゴンの体が草束だったかのように、ドラゴンを突き抜けてしまった。
「な…、なんだ、こりゃ…?」
レディは唸った。
巨大ロボットは、もう数十本の木を根から引き抜いていたが、段々動きが鈍ってきていた。
「樹怜悧!
バテたのか?」
勇気が言うが、
「違うよ!
足を見て!」
皆がロボットの足を見ると、いつの間にか、ツタのような気が無数に、巨大ロボットに絡みついていた。
「やー、気持ち悪い!」
愛理が悲鳴を上げた。
その悲鳴を、ツタが聞いたものかどうか…。
一気に、蔦がロボットに巻き付いていく。
おわぁ!
巨大ロボは、一瞬でツタに覆い尽くされていた。
ツタに気がついた途端、ツタが一瞬で増殖した…。
そう言えば、クロコダイルマンは蜘蛛に驚いていた。
レディさんが蛇が苦手かは判らないが、この夢は悪夢であり、見るものの不安を増幅させるのではないか?
恐ろしいと思ったものが現れ、不快に感じたものが増幅されるのだ。
つまり赤いドレスの女を想像したのは僕たちの不安であり、最初に森とは危険なもの、と語ったのも福だったのではなかったか…?
この男の能力は、たぶんに植物的なように見えるが、実際は相手の不安を元にして、それを膨らませる能力なのだ。
現実には、森では無いのか…?
もっと集団催眠的な…。
しかし美鳥さんは、はっきりと半径100メートルの森、と感知していた。
美鳥さんもまた、幻惑されているのだろうか?
しかし、美鳥さんと同じ風景は、感知範囲は違うが全員が見ている。
全員が眠っているのなら、もはや、誠たちは全滅である…。
誠は考えるが、ふと、昔話を思いついた。
眠り姫だ。
眠りの森の美女として、ディズニー映画にもなっている。
あれは確か王国が森に包まれ、全ての人が眠ってしまう…。
いや、魔女の魔法で、お姫様に呪いがかかり、その力で王国の全ての人が眠ってしまったため、周りには木が生え、王国を隠す大きな森に育ってしまうのか…。
呪いを解くには、王国の中心にいるお姫様の目を覚まさなければならない。
さしずめ、美鳥さんが眠っているので、森と誤認しているのだろうか…?
いや…。
この森になってから、誠は、1人の女性を見失っていた事に気がついた。
ハマユさん!
こんなにロボットがピンチなのに、ハマユさんが動かないなんて、おかしい…。
まさか、眠っているのはハマユさんなのか?
誠は慌てて周囲を探し、そして見つけた。
ハマユさんは、いつの間にか森にとらわれ、木の枝に抱えられるように眠りについていたのだ。
誠は、影の体のまま、ハマユさんを捉えた木の枝を切断し、皆の元に戻った。
そうか、確かにこの森の中、ハマユさんを見つけ、木々の間を縫って救えるのは誠だけだった。
「ハマユさん、起きてください!」
誠は、影の体で、ハマユを揺さぶった。
だが、ハマユは全く目を覚まさない。
その時。
小百合の髪が硬質化され、束になったものが…。
ユリコの力で、地面に撃ち込まれた。
それは、まるで稲妻が落ちた時のような轟音と共に、森の地面を貫いた。




