121木を見て森を見ず
巨大ロボットが踏む荒らす、森の地面の下で…。
ロボットが踏み潰す重量により、地下の草の根が幾つにも分裂し、同時に活性化を始めていた。
またレディ、カブトの兄弟が丹念に爆破粉砕し、同時に焼き払った炎の中で、森は環境に適した新たな植物たちが目を覚まし、誠たちの目の届かない草の影で、新たな胞子を膨らませていた。
みんなの闘いを見つめながら、小田切誠は、福に背負われて、しかしまだ釈然としないものを感じていた。
主に、赤いドレスの女の動き方の不自然さが誠の心に引っ掛かっている。
しかし、血を失い過ぎた誠は、治癒の力で死はなんとかまぬがれてはいたが、到底、頭以外は動かせる状態ではなかった。
小百合は、手の甲に貼りつけていたガムを、舌を使って再び口に戻した。
奥歯でガムを噛みしめて、目の前の、自称、赤毛男を睨みつける。
「つまり、あんたをブチ殺すには、樹をいくら倒してもダメって事だべ」
男は、勝ち誇ったように笑い、
「賢いお嬢さんで助かる」
と、尊大に笑った。
「下らない。
たかが200メートルの森の全ての木ぐらい、一気に潰すのは訳はない!」
叫びと同時に小百合のストレートの黒髪が、一気に広がった。
木が大木であるほど、1メートル平方に占める木の数は減っていく。
これほどのジャングルであれば、樹の間隔は1メートルどころではなく最低でも3~5メートル平方はあるだろうから、単純計算で、おおよそ10000本と考えられるだろう。
その程度の数であれば、1本の木に小百合の髪1本と考えれば、全く問題ではない。
敵の本体は、必ず近くで仲間の様子を見ていたはずだ。
ようは、それを見つけて、抹殺さえすれば、木を折る必要など全く無い訳だ。
「ハハハ、面白いお嬢さんだが、私は樹ではなく、森なのだ、とはさっき語ったはずだがな」
小百合は眉を潜める。
樹の、集合体が森では無いのか?
思うが…。
木を見て森を見ず、か…。
そういえば、こいつのした攻撃は、蛇を落とした事と、大きな蜘蛛を体に乗せたことぐらいだな…。
木が本体、というよりは爬虫類や虫まで含めた、ある自然環境そのものが森、なのかも知れない。
しかし、だとすると、その本体はどこにあるのだろうか?
「よー、小百合、お前にしちゃあ時間がかかってるな!」
小百合の背後に、ユリコがジャンプしてくると、樹の上に立った。
「あら、こっちなら私で充分だったのに。
なして追ってきた?」
「あー、誠が、赤い服の女もいるかも知んねーから、1人じゃ危ないってな」
そういえば、確かに一瞬姿を見たようだが、撃退されたのか、女の姿が無い。
「女の姿が無い…!」
小百合が何かに気がついたころ、小田切誠も思い至っていた。
「もし、本物の赤いドレスの女がいたのなら、迷わず機銃掃射をしていたのではないだろうか…?」
つまり、そういう幻影を見せることを含めての、陣形型影繰り、が、この赤毛男なのではないか?
ある意味、全てが幻想だし、しかし彼の攻撃が通れば、おそらく現実のダメージになる…。
元々、そういう性質の影なのか…?
「なるほどね。
あんたは森だから、いくら木を攻撃しても痛くも痒くもない、って話していたのね」
森というのは、確か轟兄弟の大が言っていたが、毒蛇や毒虫、猛獣もいて、うっかりすれば命を失うような場所、なのだという。
まぁ、観光地化されたグランピングなどと浮かれている者には判らないだろうが、確かに日本の山でも毎年熊の被害が報告され、報道されないが毒蛇や毒虫、水難事故など、浮かれていると命を失う真に危険な場所が、本当の森と言える。
だが、森という言葉は、ほぼ日本では、山、と置き換えられる事も多いだろう。
赤毛男の影能力は、おおよそ、だから山、と言い換えが可能だ。
山ならば、と小百合の思考は滑らかになって来た。
正体は簡単だ。
岩の塊であり、岩をコアとして土や植物が乗り、動物や昆虫や爬虫類が住み着いた場所、それこそが山だった。
小百合は、一万にばらけていた髪を一つにまとめ、巨大な杭にした。
「ユリコ!
これを一気に叩くんだ!」
「おう、任せろ!」
叫んでユリコが木の幹ほどもある硬質化した髪の毛の塊に、助走と共に渾身の一撃を放った。
ガキン!
金属的な音と共に、小百合の髪が地面に突き刺さっていく。
「つまり、陣形型影繰りなどでは最初からなかったんだ…。
夢を見せる、それがこの影の本当の能力…」
誠は呟いた。
しかし、夢の中にいる誠が、夢を見ている影繰りに、どう攻撃したらいいのだろう…?
誠は悩んだ。
が、なにか聞いたことがあるような気もしていた。
たしか…。
明晰夢…。
そう、それは自分が夢を見ている事に気がつき、そして夢の中でなら自由にふるまえる事を自覚することから始まる。
そうだ。
これは夢なんだから、僕は影を使う必要なんかない。
何でも出来るんだ…!
誠は、心に唱えた。




