119森の戦い
大木を、身長数メートルのロボットが、メキメキと折り倒していく。
影で出来たもののはずだが、根から引き抜かれた大木がドスンと倒れると、濃厚な土の臭いがした。
「もう、仕方ないか!」
薩摩芋之介は、腰に手を当てる。
別に鞘に入った剣を常備している訳ではないが、芋之介は、スラリと剣を抜き放った。
一閃で、数本の大木が切断された。
「よーし、あたしも参戦するか!」
ユリコはヤマネコのように駆けだし、鉄パイプで木を殴った。
グシャリという音と共に、木が折れた。
小百合や良治、ユリは、木を切り倒すようなパワー型では無いため、美鳥と共に成り行きを探っている。
誠も、透過で一本の木を根から浮かせて、影の手で倒してみた。
誠たちの周囲の木は折れたが、密林なので全体にさほど影響は無いようだ。
誠は、折れた木を、地下に透過し、排除した。
「おー、風通し良くなったな。
火も燃えやすいぜ!」
とレディが喜んでいると、川上が、
「待つっす!
微かな音が、聴こえる!
こりゃ、もしかするとヘリかもしれないっす!」
赤いドレスの女は死んでいなかったらしい。
戦闘ヘリは元々、極めて狭い隙間でも入れるように設計されているが、小さくなれれば十分ジャングルでも侵入できる。
「ち、奴らに大きな目標を作っちまったか?」
大が悔しがるが、誠が、
「もう仕方ない。
レディさん、カブト、火をつけてください。
僕たちは木を倒します」
軍隊を展開され、森の影繰りと協闘されたら、さすがに勝ち目はない。
その前に、局面を打開しないといけなかった。
「脳天ミサイル!」
合体ロボットがミサイルを撃ち込んだ。
遅れて、レディが三つの分銅を周囲にばらまきはじめた。
カブトは体の周囲に凝縮した炎を浮かべ、壊れていなさそうな場所を狙って爆破する。
この兄弟のコンビプレイは、かなり厄介だった。
「川上君、敵の動きは判る?」
誠が聞くと、
「ああ。
右から回り込んでくるようっす」
ロボットが左側で暴れていたので、逆に向かったらしい。
誠は、周囲の木を、数十センチだけ、落とした。
バン、と軽い爆発音が響いたが、それが敵の音であるかどうか誠にも判らない。
「川上君、ローター音は?」
川上は耳を凝らすが、回りでは合体ロボットもレディも盛大に暴れている。
はっきりとは判らないらしかった。
とにかく、こうなったら攻撃し続けるしか方法はない。
違う木を少しだけ落としたり、攻撃し続けるしか方法はない。
「誠、まずいわよ。
右のローターはおとりで、本命はこの穴をめがけて、現在、急速に大きさを復元しているみたいだわ」
と美鳥。
ち、と舌打ちした誠が空中を見上げた時。
背後から、誠の胸を、分厚い爬虫類の爪が貫いた。
「ちょっとあんた!」
小百合が髪を伸ばすが、クロコダイルマンは防ぎもせずに、
「悪いな、今まで騙していて。
俺はAの人間なんだよ。
わざと透明人間と戦っていたんだ。
小田切誠には暗殺命令が出ていたから、どうしてもこうするしかなかったんだ。
君達は、素晴らしい人間だ。
あの極限の状況で、子供を守り、仲間を信じ、しっかり手を繋ぎ合っていた。
だが、俺は、そこのユリみたいに、簡単に組織を抜ける訳にはいかなかったのさ」
言うと、ユリコの髪の中で、クロコダイルマンはグシャリと潰れた。
「誠、しっかりしなさい!」
美鳥が抱きしめるが、大量の血が土に染み込んで広がり続けていた。
「おーい、お前が死んじゃ困るじゃないか」
颯太が、幽体になった誠に文句を言う。
「大丈夫だ。
僕はまだ、死んではいない」
誠は影の体を小野真子にして、怪我の治療を始めていた。
まず潰された心臓を復元し、内臓の汚れを取り除きながら失血を抑える。
命を繋ぐ最低量の血液を既に失ってはいたが、今の誠は傷を縫合するのではなく、一旦透過状態にして融合する事が出来る。
治療と治癒は、全く別物の技術であり、治癒した体なら、血液が少なければ増産すれば良いだけだった。
「すいません」
真子は話した。
「僕はしばらく戦えないのですが、敵のヘリはお願いできますか?」
ヘリは皆で広げた森の穴に、漆黒に塗られた姿を見せていた。
「残念ねぇ。
こんどこそ、あんたたち皆、蜂の巣にしてあげちゃうわぁ!」
笑い声で、赤いドレスの女が語った。
「問題ない。
俺が切る」
芋之介が影の日本刀を左下段に構えると、一瞬で上空へ切り上げた。
ヘリは、斜めに割れ、赤い炎が吹き上がった。
誠は、だるそうに身を起こした。
「おい、誠ッち、生き返ったのか?」
川上の言葉に、
「うん。
一瞬幽霊と会話したよ」
薄く笑ったが、まだ立ちあがるのは無理らしい。
「俺が背負うよ」
と福が誠を背負ってくれた。
「ちょっと赤い服の女の出方が異常です。
なにかのブラフかもしれない」
誠が囁く。
「あんたを殺したと思って、あっさりやられたんじゃ無いの?」
美鳥は言うが。
「幽霊になった瞬間に見えたのですが、森の左側の上に、頂上が男になった木がありました。
あれが、おそらく影繰りです…」
「木の上か。
下から燃やすか?」
レディは言うが。
「あたしがやるわ!」
小百合は、パラリと長いストレートの黒髪を絹のように伸ばし、森に広げると、自分の体を宙に浮かべた。




