118ジャングルの影
森は、みっちりと草が身の丈ほども生い茂り、その中に樹齢何百年なのか、というような大木が林立する大森林だった。
誠たちは草を掻き分け歩いていくが、プールを歩くように体力を奪われる。
「毒虫とかもいるかもだぞ!」
と、大が警告し、手ごろな枝を折って、先頭に立って草を薙いだ。
「森の全てを再現している影なんでしょうか?」
誠が首を捻る。
「これも一種の陣形型影繰りだろう。
さっきはリングでタイマン勝負を要求したが、今度のは多人数を危機に陥れるタイプだ。
おそらく半径100メートルの内のどこかで、俺たちを観察し、細かく攻撃してくるだろう。
さっき蛇を落としたのも、目視か、何か感知能力を使ってか、狙っての行動のはずだ」
と、海外での戦闘経験も豊富なバタフライが教えた。
レディが、
「ちきしょう!
俺を狙ってたって事か!」
普通の男用スニーカーを履くと、レディは誠より低身長だ。
それを見て、狙われたのか、と思うと腹が立つ。
「まだ、敵にとってはジャブの応酬、ってところだろ。
各自に色々仕掛けてくるはずだ。
こういうジャングルは、人類史上もっとも戦いにくく、アウェイが不利な場所だ。
動物だけではなく、トラップもあるかもしれないぞ」
バタフライが警戒を呼び掛ける。
「トラップ?」
ユリが首を傾げた。
「お前、ランボーとか見てないのかよ!
矢が飛んでくるんだぜ!」
戦隊ヒーロー姿の勇気が、ナイフ一本で軍隊と戦う初期ランボーを語り出した。
「ナイフだけで戦うの!
凄く強いね!」
ユリは喜ぶが、
「透過して空中を移動しましょうか?」
誠は脱出方法を模索していた。
「いや、たぶん陣形型影繰りの影の中なら、簡単に外には出られないはずだ。
下手に動くと、余計な罠が発動する恐れもある。
今は慎重に動こう」
とバタフライ。
わっ、とクロコダイルマンが叫んだ。
「どうした?」
薩摩芋之介が聞くと、
「でっけー蜘蛛が、気がついたら腕に乗ってたんだよ。
本当にビビったぜ!」
巨体で、蜘蛛の恐怖を語るので、渡辺龍は笑ってしまった。
「虫、見たいな!」
樹怜悧はむしろ楽しみなようだ。
誠はさっきから透視をしているのだが、樹や草は、影で出来ているのだろうが現実に存在しているらしかった。
障害物だらけなので、敵を見つけることが出来ないでいる。
美鳥も、半径100メートル、とまでは見抜きながらも、敵は発見できない。
「川上君、なにか判らないかな?」
まだ発達中の川上の耳に賭けてみた。
「音は周り中からしてるッスよね。
ただ、俺もジャングルなんて初めてだから、その音の音源が判らないっすよ」
確かに、未経験のジャングルでは、聴力だけでは何も判らないのは無理もない。
「日蔭さん。
日蔭さん、アラブにいたんだ?」
レディが聞いたが。
「ああ。
僕はあっちで、若い頃はずいぶん危ないことをした。
イスラム教の信者になっていたんだ。
当時は正しいつもりでいたが…。
ま、そんな話はいいね。
あの辺は暑すぎて、こういう熱帯雨林は無いんだ。
雨が少ないからね。
ただ…」
皆が、歴戦の勇士の話に耳を傾ける。
「こういう陣形型影繰りっていうのは、いわば相手を攪乱しているうちに仕留める、という攪乱戦術の一つなんだ。
夜襲や、放火戦術なんかに近い。
だから、すぐに襲い掛からなくてはいけない筈なのに、さっきから蛇だ蜘蛛だ、って、どうも戦う気が無いように見えないかい?」
「なるほど、ジャガーぐらい出て来ても良いのにな」
芋之介は、微笑しながら語る。
本当にジャガーと戦いたいようだ。
「そうだとすると、時間稼ぎって事かしら?」
美鳥は考え込む。
「これがAの影繰りであれば、こちらに合体ロボットや大漁丸までいる事が知れていて、迂闊に手を出せない、って事かもですね?」
誠は大人に聞いた。
「ありうるな。
渡辺のヌーヌーだって、俺の攻撃だって、敵にしてみたら相当怖いはずだ」
とアイチ。
「まずいな」
とバタフライは唸った。
「って事は、敵は仲間を呼んでいて、俺たちの足止めをしている訳だ」
「早くやっつけなきゃならないのに、敵は攻撃する気が無いから、俺たちにしても敵の居所が知れない、ってことか」
緑のジャージ姿の大が、草を薙ぎながら唸った。
「火、つけるか」
レディの目に不穏な光りが宿る。
弟のカブトは、今は兄に素直に従う人格になっているから、すぐ同じ目になる。
「止めてよ、森に迷っているのに火を点けてどうするのよ」
美鳥は言うが、誠は、
「でもいっそ、そのくらいしないと、Aの仲間が殺到しますよ」
「なら、ロボットで壊しちゃえ!」
同じくらい不穏に、簡単になれる5人の小学生が踊るようにはしゃいだ!
一瞬、誠たちが迷った沈黙を肯定と理解して、子供たちは自動車を出してしまった。
むろん、森の中では車など動けないが、合体は出来るようで、すぐに巨大ロボットが大木と格闘を始めた。




