赤毛男
青々とした緑の中を、誠たちは悠然と歩いてた。
ここは新宿御苑。
前総理大臣ともゆかりの深い有料庭園であり、現在、むろん閉園していたが、だからこそ誠たちには安全に移動できるルートになりえた。
四谷四丁目の交差点の奥から新宿御苑の塀を透過し、巨木の生い茂る御苑の外周通路を、誠たちは千駄ヶ谷方面に向かっていた。
「新宿には、SNSで集められた影繰りがまだ集結している可能性もあるかるからな。
千駄ヶ谷辺りで高架を抜けて、新宿を迂回して山手通り辺りまで出ちまう方が良いだろう」
渡辺龍がルートを選んでいた。
「だけど、まだ電話がつながらないって事は、Aの作戦もまだ終わってない、って事よね?」
美鳥は、警戒してごく少数の蝶を飛ばしていた。
「死体の運搬、ぐらいなら良いのですが、彼らの行う作戦はテロと変わりません。
あのゾンビたちの事もありますし、まだ続きがある場合もあり得ます」
と誠は言った。
テロとは、政治的な主義主張のために起こした人的災害を言うので、言ってみれば人的災害を引き起こす科学実験ともいえるAの犯罪は厳密にはテロとは呼べない。
ただし、標的になった側にとっては区別は全くない。
「ゾンビなんだけどさ…」
ユリは呟く。
「死体って、この気温だったら数日で腐るよね…」
ユリは、キエフの町で沢山の仲間の死を看取っていた。
死体は腐る。
ついさっきまで生きていても、死と共にただの腐肉と変じてしまう。
ユリの体に染みついた現実だ。
「冷凍保存しているのでなけりゃあ、新鮮なうちに何かやらかすって事か!」
良治が唸った。
「どこを襲うのか…」
ユリコが呟いた。
「影の効かない化物どもで…」
誠は、その言葉で体に電気が走った。
「まさか、内調本部!」
「確かに影繰りの天敵じゃあな。
電磁波爆弾をホムンクルスに言って分解させてたわけだし、筋は通るな」
とレディは頷く。
「しかし、通話が出来ないのよ」
美鳥はスマホを恨めしそうに見つめるが。
「子供は知らんか?
公衆電話?
意外と便利なんだぞ?」
と渡辺龍。
誠たちはピンときていなかったが、バタフライは、
「おそらく駅なら、1つや2つ、あるだろうな」
とにかく千駄ヶ谷駅で、公衆電話なるものから内調に連絡する、ことになった。
「こうしてみると、都心にこれだけの森があるんだから、日本もまだまだ捨てたもんじゃねーな」
と初めて来たというアイチは、かなり御苑が気に入った様子だったが、
「こんなの森じゃ無いべ」
と福は鼻で笑った。
「まー、イノシシも住まないような場所だからな。
森って言うのは、もっと虫だらけで蛇もヒルもウルシもあって、気を付けないと命を失うような場所の事さ。
これは公園だ」
と福の兄、大が語った。
大は、鯛の音からつけられた名前らしい。
「その通り。
同じ気持ちを持つ者がいて、微妙には気が晴れたよ!」
森林の、どこかから声が響いた。
「私は本物の森の愛好者、赤毛男だ!
君達には、本当の自然と向き合ってもらおう!」
言葉と共に、誠たちが立っていたその場所が、見たことも無い密林に変わった。
奇妙な鳴き声が聞こえる、昼でも薄暗い森というよりジャングルだ。
「何の鳥?」
小百合が不安げに言うと、福が、
「鳥じゃ無いべさ。
ありゃあ猿だ」
「相当の規模の森が無いと、猿などはいない筈ですね…」
誠は言うが、美鳥が、
「ただの影よ。
相手の見せたいものを見ない事!」
薄暗い森の道は、下生えの草に覆われ、前進すらままならない。
「勇気たちは変身しとけ」
ユリコが鉄パイプで草を薙ぎながら、指示を出した。
と。
どさり、とレディの頭の上に、何かが落ちてきた。
「うわぁ、なんだ!」
思ううちに、それはレディの腕に巻き付いた巨大な蛇であることが判明した。
「動かないで!」
カブトはレディに指示をし、蛇の頭を、ドン、と吹き飛ばした。
「しかし、これ、どうなってるんだろうね?
道は合ってるんだよね?」
とカブト。
周囲は密林のため薄暗く、方向も判断する材料が全くなかった。
「方位は合っているわ。
この森全てが影で作り出したものよ」
美鳥が、急速に蝶を量産しながら教えた。
「敵の本体は判らないのか?」
良治はナイフを浮かべながら聞いた。
「影を見つかるのを恐れて、蝶を少なくしていたのが失敗だったわ。
今、可能な限り範囲を広げているんだけど、見つからない…」
「随分大規模な影ですよね?
どの程度を森にしているんでしょうか?」
誠の問いに、美鳥は、
「それは大したことは無いわ。
きっかり、私たちを中心に半径100メートルだけを森にしているのよ」
誠たちが、1歩進めば、森もそれだけ動いているらしい。
「じゃあ、敵はこの森の中にいるの?」
小百合が、気味悪そうに言った。
「たぶんいるだろうぜ。
俺をちゃんと見て、頭の上に蛇を落としたんだと、そんな気がする」
レディが憤懣の表情で語った。
女装はするが、小柄な事を侮られるのは、レディは我慢ならないのだ。




