表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シャドウダンス3魔弾の射手  作者: 緑青ゆーせー
PR
117/220

調子を合わせて

「おいおい、リングごと吹き飛ばそうか?」


ワインレッドのドレス姿のレディが、分銅を振り上げた。


「よしなさい。

あたしたちまで蒸し焼きになるわ!」


と、美鳥。


そこは巨大な扉を抜けた先、誠がコンクリートを落とした奥にある通路だった。

穴は急速に狭くなっており、なるほど韮山反射炉のように熱を集めそうだった。


リングはその通路一杯に広がっており、ここを素通りしては先に進めそうもない。


「じゃあ、僕が戦おうか?」


とカブトは楽しそうに笑うが、


「止めておけ」


とクロコダイルマンが止めた。


「おそらく、あのリングそのものが奴の影だろう。

たぶん、あのリングの中では、本物のモハメッド・アリにでも全盛期のマイク・タイソンにでも、奴はなれるはずだ。

ヘビー級のボクシングチャンピオンって言うのは、どんな近接戦に長けた影繰りより、リングの上なら強いぜ」


「えー、ただのアスリートになんて負けないよ!」


とカブトは抗議するが、


「いや。

あれはヤバいぜ!」


とバタフライが教えた。


「あれは、陣形型影繰りだ」


「あー、なんか聞いたことあるな?

なんだっけ?」


首を傾げるカブトに、バタフライは。


「陣形に入った敵に対して、絶対的な優位を持つ影繰りだよ。

そこでは奴が主人公だ。

ぜったい傷つかないし、絶対負けない」


「無敵って事か!」


レディは唸る。


「ま、蟻地獄はあの砂の穴込みで蟻地獄な訳だ。

引き摺り出しちまえば、なんてことない」


バタフライは言うが、唸って、


「だが、こういう場所に陣形を張られたら、本当に困るのも事実だがな…。

それでも2、3人で入れるなら、例えばユリと一緒なら、何とか対抗も出来るんだが、あそこまでゴリゴリの接近戦専用だとちょっとマズい」


「アタシがぶちのめしてやるよ!」


とユリコが鉄パイプを担いでリングに向かうが、


「無理だ。

ただの近接戦じゃ無いんだ。

絶対に勝てない」


と、クロコダイルマンがユリコを止めた。


「じゃーどーするんだよ。

これ、完全な足止めだろ!」


カブトは抗議するが、


「陣形から出しちまえば、ぜんぜん勝てる相手なんだ。

何とか策を練って、奴を陣形から出すんだ」


とバタフライが教える。


「じゃあ、やっぱり燃やすか!」


にぃ、とレディが不穏な笑顔を浮かべると、弟も同じ表情を浮かべた。


「僕なら、透過を使って逃げ回れば…」


誠が言うが、


「止めろ、お前の顔に傷がつけば、真子が困る!」


とユリコが、真子に同情して言った。


「私が行きましょう」


瘦せた男が呟くように言った。

レディたちと一緒に来た男だ。


「レディさん、この方は?」


誠が聞くと、


「誠、お前も会っただろう、ハニーちゃんの店の2階でスナックを経営している日蔭さんだよ。

この人、控えめに言って、新宿最強の影繰りなんだ」


レディが、瘦せた中年男をほめたたえた。


「いやいや、そんな大したことでは無いんだが…」


と日蔭さんは、普通に照れている。


「日蔭…、何か聞いたことはあるな…、あんた確か、アラブの方で…」


と、言いかけて、バタフライは。


「あ、いや済まん。

詮索する気は無いんだ…」


と、慌てた。


だが日蔭さんは責めるでもなく、静かに笑って。


「昔の事ですよ。

ただ、ここは私に任せてもらえませんか」


クロコダイルマンはポカンと、


「おいおい、大丈夫なのか?」


言っているが、バタフライはクロコダイルマンに。


「この人なら、おそらく大丈夫だ。

1対1に特化した、とんでもない影繰りだよ」


と教えた。


日蔭さんは、誠よりは背が高いが、カブトと大して変わらない程度だ。

白髪の目立つ短髪に、おとなしすぎてジジくさい眼鏡をかけた、強そうなところの何もない人だった。


その人が、別に自信をみなぎらせた訳でもなく、ニコニコと恥じながらリングに向かっていった。


「良いんですか?」


誠が美鳥に聞くが。


「レディがあれだけ言ってるんだから、確かに強いんじゃないの。

仮に負けても…」


肩を竦めて。


「レディの知り合いの事なんて、特にどうでもいいわよ」


とハッキリ匙を投げた。


日蔭さんは、灰色の上着を脱ぎ、薄いセーター姿になった。


そしてリングを上がっていく。


筋肉の塊のような黒人は、ニッカリ笑い、


「勇気ある挑戦者をたたえよう」


と、薄笑いを浮かべながら手を叩く。


男は、赤コーナーから立ち上がり、軽くジャンプしながら、


「もうゴングを鳴らしてもいいかね?」


と、自分の胸ほどの身長の日蔭さんに笑顔で聞いた。


「ええ。

構いませんよ」


眼鏡も取らずに日蔭さんは了解する。


すると、リングの端に設置されていたらしいゴングが、


「カーン」


と、やけに明るく響き渡った。


黒人は、ゴングと同時に日蔭さんの顔面に、鋭いパンチを撃ちおろした。


が、チャンピオンの拳は空を切った。


奥に数メートル離れて日蔭さんは立ち。


「きょう…朝から…ハサミの音もかろやか…」


小さく、どうやらリズムを取りながら、歌い始めた。


「羊かる、その仕事場に…」


チャンピオンは、


「影で瞬間移動という訳か…。

だが、そんな程度で…」


男は、数度トントンと跳ねると、すぐに日蔭さんに接近する。


日蔭さんは、


「…白い、その巻き毛…」


歌っており。


チャンピオンが、日蔭さんの白髪の頭部に、用心深くジャブを放った。


が、日蔭さんは、消える。


と、同時に、チャンピオンの頬に、10センチ程の傷が生まれた。


「調子を揃え…、くり、くり、くり…」


男の真横に出現した日蔭さんは、手に刃渡り10センチ程のハサミを持っており、刃は、今、閉じられたように開きかけ、血の欠片が飛んでいた。


ハッ、と黒人は日蔭さんの顔面を殴ろうとするが、日蔭さんは背後に現れると、


「ハサミの音も軽やかに…」


言いながら、チャンピオンの耳を、ハサミで切り落とした。


ひ…。


ハマユが声を出す。


「おい、子供が見ないようにしろよ」


ユリコは言うが、自分はリングから目が離せない。


「…ざーやかに…」


耳から血を吹き上げながらも、チャンピオンは振り返りながらパンチを放つ。


が、日蔭さんは真横に現れ、チャンピオンの、もう片方の耳をハサミで切った。


「…羊は丸裸…」


キィィィ、とチャンピオンは悲鳴か、怒声か判らない甲高い叫びを上げ、距離を取ろうとするが、その逃げた先に日蔭さんは現れ、ハサミで鼻をジャキンと切った。


「調子を…」


チャンピオンは恐慌し、ドタ、と倒れるが、日蔭さんはリングから上半身を覗かせ、


「くり、くり、くり…」


言いながら、男の筋肉で分厚く装甲された脛を、無造作に、ジャキンとハサミで切断した。


ハサミも、どうやら影の力であり、刃が通る分だけの肉は問答無用で切断できるものらしい。


「ハサミの音も…」


がぁ!


叫び、足を抑えてリングを転げまわるチャンピオンの、片目が切断された。


「…軽やかに…」


日蔭さんは、現れたと思えば、消え、消えたと思えば別の場所に立ち、


チャンピオンは体中を切り刻まれる。


「くり、くり、くり…」


歌が響いた時、リングが消え、血だらけの男が、そこに倒れていた。


男は、2メートルの巨魁でもなく、黒人でもなかった。


さえないハゲかけた白人男だ。


男は血みどろで、大汗を掻き、寝そべっている。


「賢明な判断でした。

もう少し続けたなら、致命的な傷を負わさざるを得ないところでしたよ」


日蔭さんが、眼鏡を光らせ、落ち着いた口調で白人に話していた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ