114戦闘ヘリ
エンジンを切断された戦車は、ごぅ、と火を噴き、爆発するが、扉の奥ではローター音がますます速度を増してくる。
そして、扉はゆっくりと、だが確実に開き続けていた。
扉の外では、あらかたの兵士は倒していた。
「おい、合体を解け、ヘリの目標になっちまうぞ!」
とユリコは、ロボの足を叩いた。
「大丈夫だよ!
出てきたらビームを撃つ!」
勇気たちは迎え撃つつもりのようだ。
ち、とクロコダイルマンは巨大なコンクリート片を持ち上げ、
「こうなりゃあ、出るところは判ってるんだ、出鼻に攻撃してやろうぜ!」
と宣言する。
「一度、ヘリを切ってみたいと思ってたんだよ」
と薩摩芋之介。
確かに、出るところが判っているなら戦闘ヘリでも勝負になる、と誠は思った。
だが、それもおかしな話だ。
相手は、自在に物を出し入れする箱の持ち主なのだ。
そんなに真正面から、被弾覚悟の勝負などをするだろうか?
そう考えると、この音はあえて、盛大な音を響かせているのではないか、と思える。
それなら敵の本体は…。
「皆さん、この音は罠です!」
誠は叫んだ。
なに! と叫んだ、ユリコの頭上を機関砲の銃弾がかすめた。
ほほほっ、と赤いドレスの女が、戦闘ヘリから半身を乗り出し、ドレスの裾を風に躍らせながら、
「よく判ったわね、小田切誠。
でも、ちょっと遅かったわよ」
戦闘ヘリは、驚くほど静かに、全員の背後を取って浮上していく。
それは、ドローンほどの音しか発していなかった。
「小さくなっていたんだ。
そして、背後を取った。
この力は、とてつもなく、ヤバイ…!」
誠は唸った。
大きくできる方に目が行きがちだが、本当に恐ろしいのは、むしろ小さくなる能力だった。
戦闘ヘリでさえ、全く気配が消えてしまう。
軍隊でこれをやられたら、どんな精鋭部隊でも勝負にならないだろう。
「標準セット!」
とうとつに、子供たちの声が響いた。
「脳天ミサイル、発射っ!」
えっ、と誠は驚いて、巨大ロボットを見つめた。
その頭部が開き、もうもうと白煙を吐き出して、ミサイルが撃ち出されていく。
どうやら子供たちは、背後を取られたときのことまで考えていたようだ。
「何をしているの、あのロボットをぶち殺しなさい!」
赤いドレスの女が、操縦席の兵士に怒鳴った。
そう、ロボットのミサイルは、影の力。
影繰りが絶命すれば、ミサイルも姿を消すだろう。
「兄ちゃん!
俺らも合体しよう!」
福が叫んだ。
「おう、久しぶりにやってみるか!」
緑のジャージの兄も叫び、がし、と腕を組むと、
「合体、大漁丸!」
と叫んだ。
と…。
ロボットと戦闘ヘリの間に、巨大な、極彩色の旗が広がった。
赤く太陽が染め抜かれ、そこから赤い光の筋が四方に広がっている。
地の青は、青空だろうか、海だろうか。
太陽の斜め上に、身を逸らせた巨大な真鯛が、ピンク色に輝いている。
そして、一番上には大漁、の二文字が筆書き字体で黒々と浮かび上がる。
「はっ?」
赤いドレスの女が叫んだのだが、誠も同じ言葉を叫んでいた。
と、その旗の日輪の中から、純白の船が走ってくる。
漁船である。
ほぼ、七福神が乗っているような、絵にかいた漁船だ。
その、大きく風を掴んだ帆に描かれているのは、
「大漁丸!」
という縦書きの文字だった。
ばさり、と大漁旗がはためくと。
空中に、純白の漁船が浮かんでいた。
その広げた帆には、大漁丸、と墨痕太々と描かれ、その帆の後ろでは、あの大漁旗がはためいていた。
「え…。
空を飛んでいる…?」
呆然と誠が呟く。
「福ー!
調子はどうだ!」
操舵室から、兄が叫んだ。
福は船首で、据え付けられた銃器のようなものを構えている。
「兄ちゃん、完璧だぜ!」
赤い服の女が叫んだ。
「とにかく、撃ち落せ!」
「行くぞ!
投網銃!」
バン、と福が撃ったのは、投網だった。
投げるときはマトまっているが、空中で四方に広がり、丸い網に広がる銃だ。
「あ…」
赤い服の女が、空中に広がった網を見て、唖然としたとき、戦闘ヘリに合体ロボの脳天ミサイルが突き刺さった。
ド…。
暗闇に、紅蓮の炎が浮かび上がった。
黒く戦闘ヘリはシルエットで、ミサイルの爆発か、投網の破砕か判らないが、空中でポキポキとゆっくり折れていき、やがて瓦礫の中に沈んだ。
誠は、岩壁に貼り付いていたため、即座に気が付いた。
「皆さん、扉が小さくなっていきます。
たぶん、この先が出口なはずです!
扉へ早く!」
合体ロボも大漁丸も瞬時に消え、皆は微かに唸りながら小さくなっていく扉の中に飛び込んだ。
「あの女、死んだのかしら…」
美鳥は訝るが。
「今は、そこまで考えていられません。
いつまで穴が持つのか、判らないんです!」
誠は皆を急かした。
が…。
「おっと。
確かに、この通路の先が出口だが、お前らはここから逃がしはしないぜ」
2メートルを超える黒人の大男が、立っていた。
それは、純白のリングだ。
大男の手にはボクシンググローブが嵌められ、リングの赤コーナーで、ニィ、と笑った。
「ここに上がれるのは誰か1人。
心配しなくとも、影は使える。
だが、必ず1人で、俺と戦う事になる。
OK?」
テカテカに光ったボクシングチャンピオンが、弾ける笑顔で誠たちに白い歯を光らせた。




