112乱戦
誠は、影の手をすぐに引き戻そうとした。
それは空中飛行にも使う、誠にしてはかなり早い能力のはずだが…。
女が、誠の影に手を伸ばした。
「しまった!」
樹怜悧を掴んだまま、影の手は誠の元へ戻ってくる。
そこに、小さくなった女が掴まっているのだ。
「大丈夫よ!」
真子が言った。
「切断!」
誠の影の手の一部が、切断された。
真紅のドレスを着た女が、スカートの裾をひらめかせて落ちていく。
誠は、樹怜悧を抱えたまま、
「行きましょう!」
さっき作った通路を、再び開いた。
誠たちは懸命に通路を走るが、同じ岩盤の中だからか、ごぅ、とあの巨大な木扉が開く音が聞こえてくる。
「ち、兵隊を出すつもりだ!」
影繰り用兵装をした軍隊は厄介だが、動きが判っている分、能力が謎の影繰りと戦かうよりは幾分気が楽だ。
が、敵の数は多く、そして誠たちには5人の小学生がいる。
岩盤を抜けると、誠は扉を閉じた。
そこを通って余分な兵士が出てくるのは、マズ過ぎるからだ。
兵士は、すぐに瓦礫の影に身を置き、対物ライフルを構えた。
コンクリート壁ぐらいは、容易に打ち抜く大口径のライフルだ。
誠たちも手近な瓦礫に向かって走るが、そこまでは十数メートルあった。
「先に行け、俺は対物ライフルなど平気だ!」
クロコダイルマンは、その巨体で皆の壁になってくれようとしていた。
美鳥は蝶を大量に発生させた。
蝶は銃弾を包んで落とす力があるが、対物ライフル相手にどれだけの効果があるかは疑問だ。
ユリコや小百合、ハマユは子供たちを瓦礫に逃がす。
渡辺龍が、ヌーヌーを出現させた。
兵士たちが、ふわり、と空中に浮き上がり、じたばたと暴れた。
「おお、おっさん、サンキュー!」
クロコダイルマンに言われ、渡辺龍が苦笑した。
全員が瓦礫に飛び込んだが、兵士の数は多い。
おそらく死体回収に、100人近い兵士が集められていたらしい。
対物ライフルも、1発2発なら受け止められたとしても、100人規模の兵士の十字砲火となると、ちょっと話が違ってくる。
銃器は、武田騎馬軍団の例を引くまでもなく、集団による十字砲火が最も危険で殺傷力が強くなる。
これは虐殺、と呼ばれる事もある、逃げようのない攻撃だ。
「樹怜悧、大丈夫か!」
勇気が眼鏡の少年の肩を揺すった。
「うん、なんか眠ってた気がする…」
誠は眉をひそめた。
「確か青山さんも、眠っていた、と言っていましたね…」
「ようは、赤い服の女の力の内に、眠らせる、事も入っっている、と…?」
美鳥は言う。
「簡単に誘拐するには、そういう力も必要かもしれません。
迂闊に相対するのは危険です」
「まー、今は別の危険を考えようぜ」
とアイチは笑った。
扉側の兵士はヌーヌーで戦闘不能にしていたが、兵士はどんどん出てきており、当然ながら横に回り込んでの狙撃を狙っていた。
「よし、俺たち合体するぞ!」
勇気は言い出すと、ちょっと! 慌てる小百合たちの腕をすり抜け、戦隊ヒーローに変身した。
「よし、合体だ!」
謎の体操的ポージングと共に、5人の子供たちはちっちゃな車に乗り込み、兵士の群れに突っ込んでいった。
ち、と舌打ちし、アイチはスケボーで子供を追う。
誠は影の手を伸ばし、子供を狙う兵士を吹き飛ばした。
美鳥は、蝶を固めたミサイルを、兵士たちに撃ち込んだ。
兵士は、子供仕様の乗り物に対物ライフルを撃ち込むが、子供たちの乗り物は予想外の防御力で銃弾を弾いた。
「合体!」
F1カーが頭になり、義郎のブルドーザーが胴体になって子供たちは巨大ロボットに変形した。
兵士たちは、急に現れた5メートルほどの巨人に慌てながらもライフルを撃ち込むが、ロボットはカンカンと銃弾を弾いていく。
まさに重戦車の装甲で、巨大ロボットは、兵士の群れに風穴を開けた。
アイチが、その穴にスケボーで飛び込んで兵士たちを破壊していく。
「しゃーねいな!
ブチかますか!」
ユリコは金髪の髪をなびかせ、長い鉄柱を肩に担いで、兵士の群れに飛び込んだ。
ハマユの両手が、端正な顔の前で、バチン、と合わさった。
と、ブルーの可愛い、しかし3メートル程の熊が現れ、兵士たちを殴りつけた。
この熊は、別に打撃ダメージを与えるのが攻撃の目的ではない。
殴られた兵士たちは、一瞬で凍りついた。
身軽に瓦礫の上に登った小百合が、高校在学時には多くの男子生徒を虜にした長いストレートの黒髪を四方に広げた。
全ての髪の毛は、兵士の喉に絡みつき、一瞬で彼らの息の根を止めていた。
だが、兵士たちは小百合の瓦礫に取り付こうと走り込む。
しゅ、と福が身軽に兵士の前に飛び出して、
「毒の霧!」
猛毒の黒い霧を吐き出した。
良治はナイフを連続して撃ち出し、遠くで狙撃しようとする兵士を倒していたが、ユリは唸った。
ユリはまだ、3匹の虫をコントロールすることしか出来ない。
今、ユリは無力だった。
「ユリ、あの赤い服の女が必ず来る。
君はそれを注意して!」
誠は言うと、颯太に体のコントロールを任せた。
誠は、小型の豹になったように、兵士の群れにしなやかに突っ込み、次々と兵士を倒していく。
だが、いかに皆が善戦しようと、扉は巨大であり、兵士たちは際限がないようだった。
もしかすると、これも既に赤い服の女の影能力なのかもしれなかった。
良治がナイフを投げ、小百合が髪を飛ばす瓦礫は、クロコダイルマンと福が守っていたが、そこに兵士が集まり出していた。
兵士たちは福の毒に突っ込む愚を知り、横の瓦礫に拠点を築こうと集まるが、その瓦礫が爆発した。
「おい、誠!
逃げるなよな、探したじゃないか!」
今は女子高生姿になっているレディが、カブトと川上、そして見慣れない男と共に姿を現した。




