赤いドレスの女
「まー、そうなると、あの扉を開けなきゃならない訳だが、ヌーヌーは別に力持ち、って訳じゃ無いんだよな…」
敵を無重力にするヌーヌーは、クッキー色のゆるキャラ的な巨体なので力がありそうだが、そうでは無いらしい。
「僕の影の手で、ある程度は出来るかもしれません」
真子は話した。
「ま、俺も力なら自信あるよ」
とクロコダイルマン。
真子たちは巨大な扉に接近した。
「でけぇ!」
義郎は、その扉の大きさに感嘆する。
近づくと、それは古社の大鳥居のように、予想外の巨大さを実感させた。
「しかし、何の意味があってこんな扉を作ったのかだよな?」
勇気が難しげに腕を組む。
「大きいものが出るんじゃねーか?」
義郎の答えはシンプルだが、少しゾッとするものを含んでいる。
「あの怪獣が出るのかも!」
愛理ちゃんが閃いた。
あの土砂で出来た恐竜が出入りするには、確かにふさわしい扉だが…。
確かに、意味不明な大きさの扉だった。
中世の城郭など、軍隊が行軍する扉は大きく作られる事がある。
だが、これほどの大きさはさすがに不必要だ。
穴自体は、元々この空間を作るための掘削作業の土砂を地下鉄のトンネルを利用して運ぶためにあったのかもしれないが、それにこれほど豪華、かつ無意味な装飾をする意味はまるでない。
「このトンネル自体、ちょっとどんな重機で掘れば、これほどの穴が出来るんだ、という謎を持っています」
真子は唸るように話し出した。
地下空間は、真子の趣味だった。
それは地下鉄トンネルだけに限らず、東京に幾つも掘られている雨水貯蔵用のトンネル、なども真子は自分の影を利用し、何度か見物に行った事があった。
「それらは普通、地下鉄と同じ要領で作られるんです。
つまり、これほどの巨大な穴は、現代の科学技術では作りえないんです」
地下鉄は、現代では回転する掘削カッターを動かして掘り進む。
だから真円の穴が基本になる。
だが、この意図的に新宿に巨大穴を出現させた地下空間は、直径で100メートルに近い円筒の穴を1キロにわたって掘っている。
そんな巨大カッターは、そもそもどこからも運べない。
通常は縦穴を掘り、カッターを入れ、そこからトンネルは掘り進むはずだからだ。
「なに、それじゃあ、この扉から怪獣が出て来て、穴を掘った、って言うの?
ちょっと変態が過ぎてるわよ」
美鳥は誠の趣味も知っているので、クールにせせら笑った。
「しかし真子ちゃんの言う通り、こんな巨大穴は並大抵の技術で作れるものじゃない。
この扉と巨大穴には、なにか関連がありそうだし、言下に否定はできないだろう?」
と渡辺龍は言う。
「影で作ったに決まってるでしょう。
私たちが相手にしているのは影能力者なのよ」
美鳥は、年上の渡辺龍にも食って掛かった。
「しかし、これを作るって、どういう影能力だろうな?」
アイチも巨大空洞を見上げて言う。
「たぶん、好きなだけ物を巨大に出来るのではないか、と思うんです。
それならば、円形カッターを100メートルまで巨大化できればいい」
真子の言葉に、美鳥は、
「そのカッターをどこから持ってきたのよ!」
と怒るが、真子は、
「たぶん、ポケットにでも入れて、じゃないですか?」
皆が、黙った。
「大きさを、自在に操る…」
美鳥は、真剣な顔になり、
「まさか。
青山君を誘拐した、あの女って事?」
赤いドレスの女を美鳥も見た。
その手に持つ、小学生用の習字セットのような革製の箱に、青山一郎を入れて運び去ったのだ。
「それは、つまり、あの女、中国の要塞を陥落させた軍隊も箱に入れていた、って事で良いのね?」
真顔で話し合う真子と美鳥に、渡辺龍は、
「あんたら、いったい何者だ?」
美鳥は、レディの店で学生服に着替えたジャケットのポケットから一等陸士の階級章を出した。
「内調よ」
真子は昨日からの事件を話した。
「つまり、品川駅を爆破したのと、この大穴を作った奴らは同じで、去年、東京で大暴れした奴ら、って事か」
アイチは唸った。
「実は、さっきの烏賊男も同じメンバーだったんで、僕らが巻き込まれているのは全て、あのゾンビも含めてAのしている事なんだ」
ち、とユリコは舌打ちし、
「そんなフザけた毛唐なんざ、ぶっ飛ばして樹怜悧を助けるぜ!」
と前に出た。
「俺、前に内調とやり合ってんだよ…」
どうやら、それだけは良治も覚えていたようだ。
「過去の事は水に流しましょう。
ずいぶん助かったわよ」
美鳥はおおように良治をねぎらった。
「僕、Aを知ってるよ…」
ユリも言う。
「被害者を処罰は出来ないよ」
真子もユリを慰めた。
「まぁ、そんな事よりも、相手は実戦を積んだ影繰りも一瞬で箱に入れてしまう腕利きの影繰り、そして軍事施設までたった一人で潜入し、そこで軍隊を箱から出して奇襲をかける戦いのプロ、と判っているの。
当然、銃なり爆薬なり、当たり前に使う相手よ。
気を付けて」
美鳥が警告した。




