107扉
「俺は渡辺龍、こっちはアイチだ」
二人の成年男性は爽やかに自己紹介した。
「小田真子です」
真子も、新宿で彼らはチラッと見ていた。
しかし、新宿にいたという事は、賞金目当て、という事だ。
しばらく、小田真子は存在し続けることになりそうだった。
レイナちゃんと愛理ちゃんと再会した勇気たちは、しかし。
「え、樹怜悧は一緒じゃないのか!」
ちょっと最悪の再会になっていた。
仲間の一人、眼鏡の樹怜悧は、誰とも一緒では無かったのだ。
小学生が、誰も傍にいないで、このカオスの中、生き残っているのだろうか…。
「まだ判らないぜ。
俺だって一人だったけど、真子さんと一緒にいたからここまでこれたんだし!」
と福が慰めるが、ユリコたちは責任を感じてうつむきがちだ。
「そんな顔をするなよ。
あんたたちは、今日会ったばっかりの子供たちを皆、必死で守ったんだ。
大丈夫。
樹怜悧君もきっとどこかで君らを探しているよ」
渡辺龍は少女たちを励ました。
「とにかく、じっとしていても始まらないわ。
小百合さんは半径1キロ内なら樹怜悧君を探せるんでしょ。
先に進みましょう」
美鳥が言い、真子たちは、一度は歩いた、明治通り側まで歩いてみることにした。
もし、樹怜悧が動けなければ、端にいる可能性もあるからだ。
「あの地下鉄は行かないからな!」
ユリコは念を押した。
あの動く死体に襲われた時間は、まさに悪夢だった。
真子も、よく生きて戻れた、と今は思う。
あの地下道の恐怖をユリコが語り、勇気は、
「あそこにはいない。
あそこに一人で入ったりしたら…」
全員は黙り込んだ。
「半径1キロの範囲で探査できるのなら、そこに取り残されている以外は、もちろん入る必要は無いわ。
いない、と判るところまで歩きましょう」
およそ駅から明治通りまでが1キロぐらい、と言えた。
だから本来は全て判るはずなのだが、穴は、計算して、地上に1キロの穴が開くように作られた大穴なので、それよりずいぶん広大らしい。
真子たちはしばらく歩いた。
道の先に、穴の端が見えてきた。
「あれ…」
勇気が呟くが、心の中では、真子も思っていた。
「こんなじゃ、なかったよね…?」
穴の終わりに、いかにもな、石組みアーチの巨大扉が浮かび上がっていた。
「何かの影でしょうか?」
真子は警戒するが、クロコダイルマンが、
「いや、どうやらモノホンの石と分厚い木の扉のようだ」
と感嘆したように言った。
木の扉、というが、縄文杉でも使ったのか、というような大きさなのだ。アーチの中に納まった木のドアは両開きで、周囲の瓦礫の車のサイズから考えると1枚が幅十五メートル、高さは二十メートル以上あった。
「本物の木なのか?」
義郎は、少し興奮して問い返す。
どうやらゲームなどのダンジョンを連想し、ワクワクしているらしい。
美鳥は蝶を飛ばし、
「確かに本物の扉のようだけど、前は無かったの?」
真子たちは顔を見合わせ、頷いた。
「物が現物だとしても、どっちにしろ影が絡んでなきゃ、あんな馬鹿々々しい物は作らないだろ」
アイチが言う。
「ちょっと遊びが過ぎて、気味が悪いぜ」
確かに、ちょっとブラックすぎるジョークのような気もした。
だいたい、誰に見せるつもりの門なのだろうか?
「あれだけの物、金額にすれば何千、もしかすると何億も、本物の木と石、となればかかるのでしょうが、だとすると、その額を出しても装飾すべき理由があるハズです」
真子は言った。
「いや、そういう事じゃな無くて、さっき無かったよね? ってことじゃね?」
ユリコは言うが。
「おそらく、意図して、表に土の層を作っていたのではないでしょうか。
そうすれば、ロープを混ぜ込んででも置けば、それを引くだけで巨大扉を出現させられます。
土より加工しやすいモルタルなどであれば、もっと簡単だったかもしれません」
真子は言った。
ユリコは目を丸くして、
「そんなコ〇ン君みたいなこと、実際できるのかよ…?」
と唖然とするが、
「ユリコ、この穴の方が、よっぽど大規模だべ」
と小百合が、ガムを噛みながら教えた。
「この穴を作るついでならば、この扉くらい、技術的にはなんも難しい事は無いべ。
ただ、メチャクチャ金がかかる、それに皆は驚いてる」
噛み砕いて教えられ、ユリコも、
「な、なるほど…」
と唸った。
「まぁ、でも今は人命の救助の方が…」
真子は言うが、小百合が、
「真子ちゃん。
どうやら、いるようよ…」
と、緊張した声を出した。
「ええ、樹怜悧がか!」
勇気たちは驚くが、
「ええ。
しかし、この扉の向こう側とはおだやかじゃないわね」
小百合は、激しくガムを噛みながら言った。
「敵に掴まっている…、か…」
小百合は、どこで拾ったのか、重そうな鉄パイプを肩に担いで、薄っすら笑った。




