9拘束
まさか、生きてるときもお金を脅し取ろうとしていたが、死んでも憑りついた挙句、ゲームが欲しいとか言い出すとは思いもよらなかった。
が、誠は現在、疲弊していた。
卒業式が終わってからずっとアクトレス教官に本気モードでテストをされ、さらに桜庭学園で川上と対戦し、今は水中メガネの影繰りに殺されかけたのだ。
「…判った。
ゲームは買ってあげるよ…。
でも1つだぞ」
「おー、お前、最初からそうだったら、俺たちほんとにマブくなれたのにさぁ♪」
もしかすると、誠は松崎颯太を誤解していたのかもしれない。
なんだか今話している松崎は、至ってお気楽な奴だった。
「お前、でも色々悪い噂があっただろ?
虐めをしてるとか…」
「そーなんだよ。
俺っち、兄貴と違って弱いじゃん?
だから、強いんだぞ、って見せねーとさ、ただのバカじゃん?
秀才の誠君には判らない苦労があるのよ」
誠は口ごもった。
「必死に生きていただけなの、か?」
アハハ、と影は笑って、
「そう深刻ぶるなって。
今、俺はパッピーなんだから、それでいいじゃん!」
人間、死ぬと色々吹っ切れるものらしい。
松崎颯太は、ほとんど別人格だった。
「でもアレを覗かれるのは、ちょっと嫌だ…」
「馬鹿言うなよ!
お前、あれは物凄い大切な事なんだぞ!
俺ちゃん、今やお前を通してしか、体験できないんだぞ!
毎晩どれだけ楽しみにしているか!
なのに、お前ときたら、たまに疲れてサボる時があるだろう!
俺は断固、1日1回はすることを要求する!」
幽霊の松崎颯太は糞真面目に頼んでいた。
どうやら、それを馬鹿にするとか、そういうものではないらしい。
誠は、影を見つめた。
「どっか、よその人に憑けばいいだろ?
僕ぐらいの年頃なら、誰だってやることだ?」
影は俯いた。
「駄目なんだよ…。
お前ぐらいシンクロできる肉体は、多分この世に2つと無いんだよ。
まぁ、見るだけならできるよ。
でも、肉体が無いと、全然つまらないじゃん?
俺っち、本当に霊体だからさぁ。
こんな、影の肉体とかある奴だってお前しかいないし、他の影繰りじゃ、蝶もカラスも使えないんだよ」
「え、まさか、あの人たちにも憑りついてたのか?」
「うん。
でも、他の影繰りは居心地が悪いんだよ。
お前と俺っちはベストパートナーな訳さ。
ね、だから、仲良くしようよ!」
今度は縋り付いてきた。
はぁ、と誠は溜息をついた。
そもそも、誠が殺してしまった魂だった。
「もしかして、僕が寝たとしても、颯太が起きて見張っていてくれるか?」
「それだ!」
と影は喜んだ。
「それ、してやるから、俺のお願いは聞いてくれ!」
確かに、頭は全く松崎颯太のようだった。
誠は、寝入りながら呟いた。
「じゃあ、頼むぞ…」
誠は消えるように寝入った。
思いのほか、深い眠りに入っていたらしい。
「誠! 誠!」
と影に揺すられ、目を覚ました。
「ん、何分ぐらい寝たんだ?」
誠の問いに、颯太は、
「14、5分だ。
俺っち、幽体で見張ってるけど、お前が起きないと戦闘力は無いからな、悪いけど起こしたぜ!」
誠は目をこすり、
「謝んなくても良いよ、颯太。
どうしたの?」
「ああ、誠。
あのライフル男が逃げそうになってるぜ」
あ、と誠は気が付いた。
3階から落としたライフル男のことなど、すっかり忘れていた。
透視をしてみると、男は相当体を痛めている様子だったが、階段に体を預けるようにして降り、1階にジリジリと降りて来ていた。
「武器は持って無いのかな?」
調べてやる! と颯太は誠の肉体から離脱した。
言われなければ判らなかったが、それと判れば、颯太が抜け出したのが誠にも感じられた。
透視で男の動きは判ったが、さすがに幽霊は見えない。
変に見れても困るだけだが…。
男は、黒いパーカーを着た少し太めの男だった。
歳は30代も半ばぐらいではないか。
おやじになりかけ、贅肉が付いたがまだ自分では若いつもり、といった風だった。
ふ、と颯太が戻ってきた。
「大丈夫だ、誠。
奴は丸腰だ。ポケットにはスマホと財布があるだけだ」
誠は自分の体を動かしてみた。
やれるだろうか?
だが、奴を逮捕できるのと出来ないのとでは、今後の対応が全く違った。
誠は透過してプレハブ小屋を忍び出ると、足音を立てずに走り、鉄階段を透視で見、射程距離まで走ると、男を落とし、コンクリートに首だけ出すように拘束した。
と、管理人が窓から顔を出して、叫んだ。
「坊や。
お迎えが来たようだよ!」




