幽霊
「いいかい、お前は命を狙われたんだ。
すぐ本部に来るんだよ!」
アクトレスが怒鳴っていた。
「でも着替えと洗濯があって、一度、家に戻らないと…」
「自分の家族まで危険に晒すつもりかい?
着替えなんていくらでも買ってやるし洗濯はしてやる。
そのまま本部に来るんだ。
すぐに車が付くから、大人しく乗るんだよ!」
誠は、判りました、と答えた。
スマホが濡れてしまったが、軍事用のスマホなので銃弾が刺さっても動いていた、らしい。
しかし、よく考えたら自分の汗だらけのYシャツなんて、母さん以外の人に洗われるのは恥ずかしい。
でも、まぁ洗濯機はあるし、財布もキャッシュカードもクレジットカードも持っているから問題は無い。
だが、駐輪場の管理人室と言うのも、いたたまれない場所だった。
老人は良い人だが、寡黙で、ラジオばかり聞いていた。
「おい…」
その声が聞こえた時、誠は臍を噛んだ。
老人と、弱った影繰りがプレハブ小屋に詰めているのだ。
再襲撃を受ける可能性は十分に判ったはずだ。
「おい、そうじゃねーよ…」
誰かが、声を潜めて喋っている。
ふと顔を横に向けると、なんと影の体が、人間一人分、誠の隣に座っていた。
「な…、なんなんだ…!」
誠は驚愕し、問かけた。
「へへ、当ててみろよ、俺が誰かさ?」
影は、特に表情は見えないが、とても陽気そうだ。
「なに?
幽霊的な物なのか…?」
誠は懐疑的に質問した。
本当はそういうものが怖いのだが、懐疑派を気取ることにしていた。
「おー、お前勘が良いな。
その通り、俺は死んでいます。
去年の11月に死にました。
さあ、俺は誰でしょう?」
「…僕の知っている人?」
「イエース、イエース。
君のマブダチです?」
誠にかつて、これほど気安く話す友人はいなかった。
「いや、僕に友達なんていないから…」
「おいおいブラザー。
俺の花を見て、泣いてくれていただろう。
君の心の友達、松崎颯太だよ」
誠は影の顔を見、そして…。
「えー!
何だよそれ!
君が僕の友達な訳ないだろ!
僕は君を殺したんだぞ!」
アハハ、と影は笑った。
「殺されたことなんて、俺っち1ミリも恨んで無いのよ。
どうせ下らねー高校に行くのもウンザリだったしさ。
兄貴はヤンキーだし、足くせーし、俺は馬鹿だしさぁ。
まー小田切君は幸せそうだな、って、ちょっと羨ましくなって突っかかったが、返り討ちにされた。
それはそれで、良い訳よ。
お前の体の中に入って、結構快適だったし、お前、女の好みもまーまーだし」
「ちょ!」
誠は卒倒しそうになった。
「まさか、アレまで!」
「もう少し長持ちしてくれると極楽なんだけどなぁ…、ま、お前は毎日疲れ切っているから、仕方ないと思うよ。
お疲れ様」
何となく、松崎颯太が上機嫌な理由が判ってきた。
「じゃあ君は、僕の中で、のんびり幽霊ライフを満喫している、って訳なのか?」
「まーね。
好きな時に遊びに行って、好きな時に帰って、トレーニング中とかは女の子とか見て、君が疲れて寝ちまったら、ほら、この体でスマホを見たり、ゲームをしたり朝まで楽しく遊ぶのさ」
誠は頭を抱えた。
が、すぐ顔を持ち上げ、
「それが、何で急に自己申告を始めたんだ。
黙って極楽生活を続けていればいいじゃないか?
僕がお寺や神社にお払いに行かない、とでも思うのか?」
「思うから出て来てやったんじゃない。
俺っちを思うさま使えば、お前はもっと強くなる。
俺様を頼れ、小田切誠!」
影は椅子にのけぞって高笑いをした。
「え、どういう意味?」
「だから、お前ひとりじゃあ命の危険があるときにあれだろ。
俺っち運命共同体として、手を貸してやる訳さ。
さっきみたいに」
「さっき?」
「そうさ。
居眠りしている管理人を叩き起こして助けたんだよ、お前の事。
だからさぁ、ゲーム買ってくれよ~」
影の松崎颯太は甘え始めた。




