105目覚め
カラスや猛禽は飛んできたのだろうが、鶏やアヒルはどうしたのだろうか?
新宿に、これほど多量にあの手の鳥が住んでいたとは思えないが…。
「アヒルも怖いのか?」
ユリコが首を捻るが、義郎は、
「襲われると怖いぜ…」
と、意外と苦手そうに言った。
本当に戦うとなれば、鶏、アヒルクラスの体の大きさがあると、戦闘力もそれなりなのかもしれない。
「緑の鳥はいないね…」
とユリ。
緑の鳥、と言うとメジロだろうか。
「都会にはいねーだろ」
良治は言うが、ユリは、
「でも南大島にはいるよ」
「あの辺は猿江公園とかあるから、いるけどもよ」
真子は考え込んだ。
新宿も、新宿御苑、明治神宮、代々木公園などがあり、野鳥は豊富なエリアだった。
真子も、メジロぐらいなら高円寺で見た事もあった。
だが、確かに万の鳥の大群に緑の鳥はいないようだった。
「全ての鳥を集める訳ではない…、のかもしれませんね」
「つまり特定の鳥を大量に操る影繰り、って事?」
と美鳥。
義郎の映像だけを見るとそのように見える。
「動かしていないから操っている、かどうかは判らん感じだな」
クロコダイルマンが唸る。
「ただ二人を包囲しているところを見ると、たぶん歩かせる程度には操っている、と考えて良いんじゃないでしょうか」
真子が言うと、んー、とクロコダイルマンは唸った。
「俺一人なら、突っ込んで鳥なんて引き裂いてやるんだが、小学生の女の子がいる、となると難しいよな…」
確かに。
人質を取られていなければ、相手の大半はカラスや鶏だった。
確かに猛禽は手強そうだが、影繰りが躊躇するほどのものではない。
ただ、怯えた女の子が鳥の中にいるために動きが取れない。
「たぶん敵も、自分に戦闘力が無いのは判っているんでしょう。
だから隠れる事に巧みなのよ」
美鳥は苛立たしく語った。
「まー、本体が見つかったらすぐボコられると判ってる訳だ」
良治が美鳥の言葉に納得していた。
この二人、面識はあるハズなのだが、美鳥がスカートなので気づかれずにいるのだろうか? と真子は首を傾げる。
現在、真子たちが強行突破を躊躇っているのも、Aがどう動くのか判らないためだ。
もし、単に野鳥の群れでしかないのだったら、これだけの影繰りの数がいれば、どうでもやりようはある。
だが、本体が見つからない…。
「義郎君、本体は見かけないよね?」
「ここからは見えないなぁ…。
もっと近づいてみるよ」
ビー玉が瓦礫の地面を、揺れながら進んでいく。
真子は鳥の挙動を注視しているが、暗闇であるからか、静かなものだ。
大群なのに鳴き声すら上げない。
「なぁ、レイナを変身させられれば、鳥に襲われてもそんなにダメージないんじゃないか?」
勇気が言う。
確かに。
変身、というのも聞きなれないシステムだが、ようは影を纏うという事だろう。
それ以上のプラスアルファが彼らの変身にはありそうだったが、とにかく防御力という面では安全性は増す。
「まだ駄目よ。
影繰りが気が付くわ」
美鳥が言った。
今のところは、眠ったままでいて欲しい、それも事実だった。
と、勇気のヘルメットに、
「もしもし、誰かいるの?」
と少女の声が鳴り響いた。
「愛理か!」
勇気が喜ぶ!
「小百合お姉ちゃんのレーダーに、皆の姿が映ったから、今、フラワーカーで移動してるの!」
「早く来てくれ、レイナがピンチなんだ!」
「そうか、小百合は半径1キロ内なら仲間の位置が判る。
助かったぜ!」
ユリコは叫んだ。
「いや、しかし、今の通信、レイナちゃんにも聞こえたみたいです」
真子が緊迫した声を出した。
レイナちゃんは、仲間が来る、と通信を聞き、独断で変身してしまったのだ。
と、同時に、鳥たちが、猫が喉を鳴らすのにも似た、低い音を立て始めた。
「おいおい、鳥が起きちまったか…!」
ユリコが叫んだ。
丸まっていた鳩が、バサリ、と羽根を伸ばす。
鳥たちは、動き始めていた。
「ギャア!」
カラスが、真子もびっくりするような大きな叫びを上げた。
「まずい!
僕が飛び込んで二人を救出します!」
真子は影の手で、地面低く跳んだ。
すぐに瓦礫の山に出た。
無数の鳥が、空中に浮かび始めていた。
スズメの群れが、羽ばたくのをこれほど間近に見たのは、真子も初めてだった。
180の身長があるハマユは、恐怖に顔を歪めながらも、レイナを守ろうと抱き締めた。
ニワトリが、殺されるのか、というような叫びを上げる!
真子は透過しようとするが、なにしろ大群の鳥の群れの中で、2人の姿が見えずらい。
しかし、透視はしたくなかった。
何処を見ても、気持ち良くない解剖図しか見えないのは判っていた。
とにかく、飛び込んで2人に接近するしかない!
真子の顔に、ドン、とアヒルがぶつかった。
アヒルが空を飛ぶとは思わなかったので、真子は体勢を崩されてしまった。




