101透明人間
敵は五人いる?
それは真子の想定を越えていた。
福が向かっているのは、おおよそ新宿駅方面、とペペへの地下通路から割り出した推測で真子は考えた。
どのみち、ペペへの側道は遥かに先で、福の向かう方向には、おそらくビルとビルの間に道があったのでは無いか、と思われるはざまが出来ている。
巨大な岩が頭を覗かせており、そこに崩壊した複数のビルの残骸がうず高く乗っているのだが、その先に谷が生まれている。
その、思いのほか深い谷に、美鳥の言うには五人の敵が潜んでいるらしい。
その5人が、たぶんは透明人間のはずだ。
5人もの人間が、同質の力に目覚める、等という事があるだろうか?
それとも、1人が他の4人を含めた全員を透明にしているのか?
それが一番考えやすい。
ただ考えやすいから、正解、とは限らない。
透明人間のようにハッキリ知覚できない敵を、こう、と決めつけるのはとても危険だった。
「美鳥さん、敵を攻撃できますか?」
「おおよその位置は判るのだけど。
見えないと言うのは厄介ね…」
「体の一部に蝶が貼り付くだけで良いのですが。
目印さえあれば、僕らも攻撃できますから」
真子やユリコ、勇気に義郎も攻撃に参加できる。
相手が例え5人であっても、位置さえ判れば攻略は可能だった。
「やってみるわ…」
言いながら漆黒の蝶が谷地の5カ所に集まっていった。
真子以外の4人も、これに光明を見出した。
だが…。
蝶が、消えた。
おおよそ蝶の消滅地点は判るものの、透明人間に貼り付いた途端、蝶もまた透明になってしまうらしかった。
「あ、そうか。
裸ってことないしな」
勇気は妙に納得していた。
確かに。
この瓦礫の山のような場所で、裸足で歩けるわけがない。
足元には、ガラスの破片も大量に落ちていた。
敵の5人は、むろん衣服のまま透明になっているのだ。
「しかし、これじゃあ戦いようがないぜ!」
ユリコは唸った。
義郎との戦いで、足は大丈夫と確信したようだ。
敵が5人いると判れば、むろん福の援護を真子たちがしたいのだが、いかんせん見えない敵と戦う、というのは想像以上に難しかった。
実際、見えないために、彼らがパワーファイターなのか、何らかの武器を携帯しているのかも判らないのだ。
当然ながら、武器を持つ敵と、素手の敵では戦い方も変わってくるし、攻めてくるのか逃げているのかも判らないのでは戦いは難しい。
「早く背の低い餓鬼のところにいくぎゃ!」
ホムンクルスは、真子の中で叫んでいる。
当然真子はレディと合流したいが、しかし、目の前の相手を素通りする訳にはいかないし、そんな事をすれば透明人間に背後を襲われるだろう。
「そうだ、ホムンクルス。
レディさんをここまで連れて来てくれないか?
レディさんなら、透明人間にも有利に戦えるはずなんだ!」
真子は気づいた。
レディは爆発する分銅を半径30メートルに撃ち込む、豪快な影繰りだ。
見えない5人の敵、等の場合、絨毯爆撃のような攻撃ならば、透明だろうとあまり変わらなかった。
ホムンクルスは一瞬考え込んだようだったが、彼も不器用ではあっても知能は従人並みにある。
真子たちが動けない状況は見て判っていた。
「判ったが。
レディを連れてくるが!」
ホムンクルスが、真子から出て行った。
真子は援軍が来る、と伝えたかったが、そうすれば透明人間もそれを知る。
当然、襲ってくるだろう。
「不思議なんです。
奴らは、俺の感じでは、もう既に仕掛けている。
それはさっきから感じているんだ。
なのに、現実には襲ってこないんです…」
福が、皆に語った。
確かに変な話だ。
透明になる、と言うのは大変強い力だ。
無敵に近い。
ただクロコダイルマンや福、といった特殊な感知を持つ相手には、やや手こずる。
だが真子たちは、全く敵の存在すら知覚できないのだ。
圧倒的に有利な状況なのに、なぜ敵は手をこまねいているのだろうか?
福の毒を警戒して、とか、今はビルの上で状況を見ている感じのクロコダイルマンの存在を恐れて、動けないのかもしれなかったが、しかし敵は5人いるのだという。
ならば、福やクロコダイルマンを牽制しながら、真子たちを殺しに来るのは、むしろ常識的な戦法のはずだ。
将棋であれば、ガッチリ守られている王は牽制しながら、外れた桂馬辺りを狙いに行く、といったところだろう。
なぜ、それをしないのか、真子は理解に苦しんでいた。
攻撃を仕掛けている感じはしているらしい。
ただ、目立った動きは感じられない…。
攻めるための準備に入っている、的な事だろうか?
真子は考えた。
この透明人間たちは、衣服を着ている。
だが衣服がどんなものか、それは透明だから判らない。
もしかすると…。
何か武器を携帯している可能性もあるのかもしれない。
しっかりした装備を背負った兵士であっても、おかしくは無い。
そして、何かの準備を必要とするのだとしたら…。
影繰りのバトルが将棋と一番違うのは、相手の予想もつかないコマを、敵が持っている可能性がある事だろう。
例えば、厄介なクロコダイルマンも含めて、全てをいっぺんに殺す気でいる、とかも有り得るのだ…。




