91話 合流
91話 合流
「ここは…ノームの西の森のようだが………まさか本当にお前達が転移出来るとは思わなかったな」
精霊王ノームを連れて地下空間から一ここに転移し、ヒルダ達が向かって来るであろう道を進み始めた。ここよりノーム寄りの道では既に兵士が待ち構えており、近づくと何をされるか分からなく危険だったのだ。
「?。お主はあまり驚かないんじゃな。今までの者達は皆、驚き声を失っておったのじゃがな」
精霊王も驚いてはいたが、転移そのものではなく転移出来た事に驚いているようだった。
「普通の者達ではそうであろうな。だが、我々精霊王ともなれば単独で転移が出来るのだよ。………だが、周りの者も連れての転移は不可能だから、その事に関しては感心しておるぞ」
「元々こういうように使う予定ではなかったんだけどね。まー魔力は大量に使うけどそれに見合った性能はあると思うよ」
「それにしても<ノム>よ。お主はその姿でいくつもりなのか?」
マオの疑問は今の精霊王の姿だった。人の世で生きて行くと決めた精霊王は<ノム>と名乗ると決め、50代ぐらいの中肉中背の男性の姿をしているのだ。その姿には威厳の欠片もなく、町で通り過ぎても誰も振り向く事がないぐらいに特徴のない顔だった。
「これで良いのだよ。我は人々の生活に溶け込むのが目的だから目立つ必要はない」
「…お主がそう言うなら何も言うまい。妾達はこの件が終わったら、次は北へ向かう予定じゃ。<シルフィード>に出会う事があった時、何か伝えて欲しい事があれば聞きうけるぞ?」
僕達はノーム国のゴタゴタにケリが着いたら、北にあるシルフ国に向かう予定にしたのだ。そして南のノーム、東のウンディーネと同じように北のシルフにも<シルフィード>と言う風の精霊王がいるとの事なのだ。
「…あの子は気まぐれの強い者だから、変な事を考えていないか心配だ。……もし…悩んでいるようなら我に会いに来るように伝えてくれ」
「そうか、出会えたら確かに伝えておこう!」
まるで自分の子供の事を心配するような顔で話すノムさんに、マオは少しでも元気になるようにハッキリと答えてあげていた。
そうして半日ほど歩いた所で上空から先を見ると、ディーナからの進軍が確認出来たので待つ事にした。
「皆の者。進軍を止めよ!」
ヒルダは突然全軍に声を掛けて進軍を止めた。
「?。ヒルダ様、いったいどうしました?」
ヒルダの側近の兵士長は突然の進軍停止に疑問に思い戸惑っていたのだ。
「…なに、ここらで一度休憩だ。皆の者にその旨を伝えて来るのだ。…それとリドル、2人で話があるから着いて来てくれ」
「は、はい!?」
急に声を掛けられたリドルもまた戸惑いながらも、ヒルダの言葉に従い部隊から少し距離をあけた。
「突然どうしたんですかヒルダ様?」
部隊には声が届かない所まで離れた後、リドルは疑問を問いかけた。
「なに、今回の依頼人が来たようなのでな。姿を見せやすいように兵と距離をあけたのだ」
「依頼人?………まさか!?」
「今の合図で良く分かったのぅ。リドルも久しぶりじゃな」
リドルが気が付いたタイミングで、アルファの魔法で姿を隠すのをやめた。ちなみにマオが出した合図は姿を消して近づき、直接馬に乗っているヒルダの足を手で叩いただけだったのだ。
「大樹ちゃん、マオちゃん、タマちゃん!?……こんなに近くにいても気が付かないなんて、相変わらず貴女達には常識が通じませんね。でも、国を救えるかもしれない機会をくれた貴女達には感謝しています。本当にありがとうございます」
三人の登場に驚いた後、リドルは馬から降りて頭を下げた。
「リドルよ。頭を上げるのはまだ早いぞ。私はまだこの者達から報酬を受け取っていないのだからな」
「ヒルダ様、確か報酬ってミスリルの盾100個ですよね。普通に考えると不可能な話ですが……この人達なら出来そうな気がして怖いですね…」
「怖いとは失礼な奴じゃのぅ。もちろん用意してきたに決まっておろうが」
リドルの半信半疑の状態で口にした怖いと言うセリフに、マオは腰に手をやり少し怒ったような態度を見せた。
「本当に用意してくるとはな……。ところでその御仁は誰なんだ?」
半分呆れたように驚いているヒルダは、見覚えのないノムさんの存在に気が付いたのだ。
「彼はノムさんです。少し前に出会った人で、ノームで暮らす予定だから一緒に連れてきました」
…嘘はついてないよね。本当の事を言えばノムさんも困るかもしれないし。
「…お前達が一緒にいる以上、どうせ普通の人と言う訳ではないのだろう?」
「そこまで特別な存在ではないぞ。ただの地の精霊王と言うだけじゃ。…それよりお主に買い取って欲しい物があるのじゃが」
僕が濁して説明した事を、あっさり無駄にしてマオが正体をばらしてしまった。
マオはまったく気にしないで話を進めようとしているが、ヒルダさんとリドルさんはその正体を聞いた事で驚き固まっていた。もちろんばらされたノムさんも額に手を当てて俯いている。
「ま、いいや。ヒルダ様、ミスリルの盾とは別に買い取って欲しい武器があるのですが……」
僕もばれた以上は気にしても仕方がないので、開き直って話を進める事にした。
「ちょっと待て!何をサラッと話を終わらせているのだ!地の精霊王と言えば4大精霊の王と言う事だろ!?なぜそんなに普通でいられるのだ!?」
今までに散々非常識な事を見せていた為か、ヒルダが我に返るのは早くなっていたが動揺はしているみたいだ。
「?。別に地の精霊王がいたからと言って、何かが変わる物でもあるまい。それにこの者は町で暮らし、人々の声を直に聞くのが目的だから今は普通の人じゃ」
ヒルダ達が何を驚いているかが分からないようで、マオは首を傾げながら説明をしてあがていた。
「なぜそのような事をする必要があるのですか?」
リドルもようやく我に返り、精霊王が人として生きる意味を聞いて来た。
「単純にノームの人々に呆れた為に土地から離れ、引き籠っておったのじゃが考えが変わったらしいぞ」
「!?。精霊王様にノームが見捨てられたって事ですか!?そんな…ならノームはもう……」
マオの説明で事の重大性を理解したリドルさんは落胆したように落ち込んでしまった。
「これこれ、そんなに落ち込むでない。確かに一度は見捨てたが、この者達に説得されて今度は直接見て聞いて話して判断しようと決めたのだ。……もちろんその結果ではまた離れる事になるかもしれないが、この者達に認められたお主がどうにかするのだろ?」
ノムさんがリドルさんを励ますように、もう一度チャンスを与えると言った。
「!?。はい!必ずノームをまっとうな国に変えて見せます!」
「その意気で頑張るが良い!」
ノムさんの話で顔を上げたリドルさんの顔はやる気に満ちていた。
「まったくお前達は驚かせる事しかしんな……そんなお前達から買い取って欲しい武器となると……どうせとんでもない物なんだろうな…。しかし買い取って欲しいとは、お金が必要になったのか?」
「この件が終わったら、北の方へ旅に出ようと思っているのでその資金集めです。それでこれがその武器です」
そう言って取り出したのはアダマンタイトの長剣だ。一日装備を強化していた時に一本だけ作っていたのだ。
「なんだ?普通の長剣にしか見えないのだが?」
アダマンタイトの長剣には魔力が籠っておらず、見た目は2メートル近くあるただの長剣なので、ヒルダは拍子抜けだと思っているようだった。
「お主の兵士で一番力がある者でなければ、扱えないほどの超重量武器じゃ。持って見れば分かるぞ」
「…とてもそうは見えないのだがな」
ヒルダは信じられないと思いながらも馬から降りて、僕からアダマンタイトの長剣を受け取った。
「な!?なんだと!?」
僕は普通に持てるので重くは見えなかったのだろうが、受け取ったヒルダはその重さで構えた状態から動けなくなっていた。
「どうじゃ?その武器を振り下ろされた時の攻撃力が想像出来たじゃろ」
動けなくなったヒルダからヒョイと剣をマオが持ってあげた。
「…なるほど、その見た目から盾などで受け止めようものなら、そのまま吹き飛ばされてしまうであろうな。……分かった買い取ろう。いくら必要なんだ」
ヒルダは超重量の剣が勢いよく振り回された時の、防御不可の攻撃を想像して買い取る事を決めたのだ。
「これが相場でいくらかは分かりませんが、とりあえず一ヶ月分くらいの生活費をもらえれば満足です」
実際この世界でお金を使ったのは、ノーラさんの宿で使ったぐらいなので物価などの知識はないのだ。
「金額は了承したが、今はそんなに持ち歩いてはいない。この戦が終わったら城まで取りに来てくれ」
「分かりました。それではこれが報酬のミスリルの盾100個です。それとここから徒歩1日ぐらいの所でノームの兵士が待ち構えているので注意してください」
忠告と共にマオにミスリルの盾を取り出してもらい、道端に次々と重ねて置いていった。




