92話 アダマンタイトの長剣
92話 アダマンタイトの長剣
ヒルダと約束したミスリルの盾を無造作に出していったので、結構な音が鳴り響き休憩をしていた兵にも聞こえてしまったようだ。
「ヒルダ様!今の音はなんですか!?」
その音聞き、慌てた様子で兵士達がこっちに近づいて駆けつけてのだ。
「不味い!?アルファ姿を見えなくして!」
「仕方がないわね。<ミラージュミスト>」
アルファの光魔法で姿が消えて行く。その様子をヒルダ達は茫然としながら見ていると兵士達が到着した。
「ヒ、ヒルダ様!?先程の音は!?こ、この大量の盾はいったいどうしたのですか!?………!?。ま、まさか!こ、これはミスリル製の盾!?それも、全てが!?」
兵士達はヒルダ達の目の前に置かれているミスリルの盾に驚いていた。
「これはリドル殿が用意してくれた盾だ。言ったであろう?この者の伝手は馬鹿に出来ぬと」
兵士達の中ではノームから来たリドルの事を信用してはいなかったのだ。
それもそのはずで、名も知れてなく後ろ盾の話も聞かない。そんなリドルが自分達の女王の隣にいて納得出来るはずがないのだ。
「ならその者がリドル殿の仲間という事ですか?」
そう言った兵士の視線の先にはノムさんが1人いた。姿を消す時にノムさんはあえて残していったのだ。
その事を聞いていなかったヒルダは、兵士達には分からないように小さく舌打ちをして、
「……あの者達め。…そうだ、その者がリドル殿の協力者でノム殿と言う。それより盾の配布を始めるから親衛隊と盾部隊を呼んで来い!あ、それと突撃部隊長の<ジャーキー>も連れてこい!」
「は!」
ヒルダは何もいわずにノムさんを置いて行った事を小声で文句を言っていた。
「どうせノームで暮らすのじゃ、少しぐらい上の人間と顔見知りになった方が暮らしやすいじゃろ?それに突然盾が現れたらどう説明するつもりじゃ?」
兵士達がいなくなったのを確認した後、マオは声だけでノムさんを置いて行った理由を話した。姿は消していて見えないが、僕達はさっきの位置から動いてはいないのだ。
「確かにそうだが、今後は事前に説明する事を要求する」
ヒルダもノムさんを残してくれた事で助かった事は自覚しているので強くは言えなかったのだ。そうして兵士達が戻って来てミスリルの盾の配布を始めた。
「…まさか俺もミスリルの盾を持つ事が出来るなんてな……」
「ああ、親衛隊は分かるが俺たちみたいな一介の部隊にまで回って来るとは…」
「いったいリドル殿の後ろ盾はどれほどの力を持っているのだ?」
「…ヒルダ様が紹介してくれた時は、とてもじゃないがそんなに力があるとは思わなかったが…こんなにミスリルの盾を用意出来るなんて、相当の力を持っているぞ…」
嬉々として盾を受け取った兵士達は、一生持つ事のないであろう装備をもらい、興奮が覚める事がなかった。
そうしてもう一人、ジャーキーと呼ばれた男もまた驚き興奮する事になる。
「ヒルダ様、只今まいりました」
礼儀正しく礼をしてヒルダの下に来たのは、他の兵より一際体格の良い筋肉質な男だった。
「うむ、お主にこれを渡そうとしてな。雑に地面に置いていて悪いが、お主に相応しい武器だと思ってな」
そう言ってヒルダは足元に置いてあるアダマンタイトの長剣を指差した。
「はあ…見た所、少し長めの普通の長剣のようですが?」
「持ってみれば私が言った意味も、地面に置いてある意味も分かる」
ヒルダは口で説明しても信じる事はないと思い、自分でさっさと体感してもらう事にしたのだ。
「……分かりました」
ヒルダの言葉では意味が理解出来ないので、やや戸惑い気味に長剣と取ろうとしていた。
「!?。な、なんですかこの剣は!?見た目からは判断出来ないほどの重さだ!」
剣を持ち上げたジャーキーはその重量感に驚いていた。
「お主は前から自分にあった武器がないと嘆いておっただろう。だがそれならば満足のいくはずだ」
ジャーキーは元々かなりの筋力があった為、大剣を装備していたがそれでも軽く感じてしまい納得のいく武器を探していたのだ。
「確かにありえない重量感!まさに探していた感じに近い武器です!……いったいこれは何で出来ているのですか?」
自分に合った武器を探していた過程で、鍛冶屋に出入りし様々な材料、形状を作ってもらっていたジャーキーにはこの金属の正体に興味が湧いたのだ。
「詳しい話はリドル殿の協力者、ノム殿に聞くが良い」
実は材質については何も聞いていなかったので、ヒルダはノムを紹介した。
「リドル殿がこれらを用意したと……いや、それよりこれは何で出来ているのですか?」
ジャーキーもまたリドルには何も力がないと思っていた1人だったのだが、その驚きよりも武器の正体の方が気になっていたのだ。
「それはアダマンタイトの長剣。災害獣と呼ばれるアダマンタートルの甲羅で鍛えられた長剣です。その特徴は感じてもらっている超重量と超硬度で、たとえミスリルの剣とぶつかっても刃こぼれ一つしない武器です」
その説明にジャーキーはもちろん、ヒルダやリドル、声が聞こえていた他の兵達も動きを止めるほど驚いていた。
「ア、アダマンタートルと言えば、その体には傷一つ付ける事が出来ず、出会ったら逃げる事しか出来ないと言われているモンスターではないですか!しかもその中で甲羅の硬さは段違いだと聞いています。
…その甲羅を手に入れて尚且つ鍛えたとは……にわかには信じられません」
ジャーキーが信じられないと思う気持ちは、ノム本人も目の前で事が起こらなければ信じられなかったので理解出来た。
「ならどうでしょう。先程お渡ししているミスリルの盾と試しにぶつけてみるのは。それだけで証明になるとは思いませんが、硬度などの証明にはなると思いますよ」
「…なるほど、確かに武器の性能が分かれば材質の正体など些細な事ですね。よしお前!持っているミスリルの盾を構えて攻撃を受けろ!」
「え!?自分ですか!?……わ、分かりました」
突然ジャーキーに指名された兵は、先程ミスリルの盾を貰えて喜んでいた者だった。
「大丈夫ですよ。もし盾が壊れたら新しいのを渡します。……そうですね、満足のいく証明が出来たら槍もセットで用意しましょう」
もしかしたら折角貰ったミスリルの盾が失われてしまうかもしれない、そう思い気落ちしていた兵士の気持ちを読んだノムは安心させるのとやる気を出させる為に、勝手に話を進めていった。
「ちょ、ちょっとノムさん!何を勝手な約束をしているんですか!」
僕は周りに聞こえない大きさの声でノムさんに抗議した。
「貴女が我をこんな形で巻き込んだのだ。それぐらいの自由はあってもよいだろう?」
「…確かにそうですけど……は~、分かりました。木の影にでも隠れて作ってきます。でもあまり変な約束はしないでくださいね!」
そう言って僕はこの場から離れて行く。
「あ、あの!槍ってまさかミスリル製ですか?」
「もちろんそのつもりですよ」
「ジャーキー様!ここで構えていればいいですね!」
「あ、ああ。そこで構わない」
ミスリル製の武器は国の鍛冶師でも製作に時間が掛かっている為、親衛隊が持っているぐらいしか出回っていないのだ。
それが手にはいると聞き指名されて兵士は、さっきまでの気落ちぶりが嘘のようにやる気に満ちていた。その豹変ぶりにジャーキーも戸惑いながらも自分の言った言葉の意味、せっかくの装備を差し出せと言ってしまった事を反省していた。
「気合いを入れろよ!……いくぞ!」
その掛け声と共に遠心力の乗った強力な一撃が放たれた。
「な!?」
剣が盾に触れた瞬間、耐える事が不可能と分かってしまうほどの一撃で、はるか後方へ盾ごと吹き飛ばされてしまったのだ。
「……凄い…いや!?それより彼は大丈夫か!?」
一瞬その攻撃に見惚れてしまったが、予想以上に吹き飛ばしてしまった者の事を思い出して様子を見に行かせた。
「な、何とか無事です!……もしミスリルの盾でなければ…命はなかったかもしれません。そして、これが盾のなれの果てです」
そう言って見せてくれたミスリルの盾は真ん中で大きくへこんでおり、その衝撃の大きさをハッキリ示していた。
「今の攻撃だけでも凄かったが、ミスリルとぶつかっても刃こぼれ一つ起こさないとは………確かにアダマンタイトと言われても納得が出来る硬さだ」
ジャーキーが剣を見ながらそう呟いている。
「どうですか?…と、言っても聞くまではなさそうですね」
「自分はこの武器を求めていた。…そう確信できる武器です」
自分の待ち望んでいた相手と出会ったように、ジャーキーは手に持っている武器を穴が空くほど見入っていた。
「それは良かったです。……ですがその剣は決して最強ではありません。少なくとも二つ、その剣を両断してしまうほどの武器と出会っています。…その事を忘れないでください。それとこれを先程も者にわたしてください」
ノムさんは僕から受けとったミスリルの盾と槍をジャーキーさんの隣にいた兵士に渡した。
「この剣をも斬る武器…ですか…にわかには信じられない話ですが…」
「そんなに不思議な話ではありませんよ。なにしろ私の目の前で甲羅を斬りとっていましたからね」
「ならアダマンタートルと戦った者がいると言うのですか!?信じられません!いったい誰なんですか?」
驚き戸惑っているジャーキーは当然戦った者の事が気になったようだ。
「それは言えません。ですがリドル殿とヒルダ様を結びつけた者で、その剣を鍛えた者でもあります。…ですがこれ以上の事は言えませんし、詮索もしない方が良いですよ。彼女達は自由ですからね。もし嫌われて攻撃されたら……おそらく戦う事も出来ずに国が終わるでしょうね」
「国が!?そんな大袈裟な。いくらなんでもそれは言い過ぎですよ」
個人ならまだしも、国が終わると言ったノムさんの言葉があまりにも現実感がない話だったので、ジャーキーも信じる事は出来なかった。
「ノム殿の言った事は大袈裟な事ではない。もしあの者達が害をなそうとしていたなら……私の命も既になくなっていただろう。あの者達は姿を消す事や空を飛ぶ事ができ、さまざまな道具を持ち、その実力は国の暗部が手加減されて無力化されるほどの腕……見た目とは裏腹に化物なんだよ。
だから私からも詮索は禁止する。もしおこなったら、…厳重な罰を与えるからその事を肝に銘じておけ」
……声に出せないからって、2人共好き勝手言っているよ。
「まあ、詮索されない為じゃから仕方がないのぅ」
「…そうだけど…化物はないでしょう、化物は…」
「今の妾達は魔王の集団みたいなものじゃからな。案外間違いとは言いきれぬがな」
庇ってくれているのは分かるが、素直に納得いかない言い方に小声で愚痴をこぼしていた。
「ヒルダ様にそこまで言わせる女性ですか……分かりました。部下にもそう伝えておきます」
そう言ってヒルダに一度礼をして部隊の中に戻っていった。




