89話 アダマンタートル
89話 アダマンタートル
アダマンタートルに向かって行った大輝達を、見守るように佇む精霊王ノーム。
「…魔王が人の為に戦うとは………それに勇者を支援していた我を、怨む事無く普通に接する。あの者の懐の大きさか、それとも年のせいかは分からぬが、確かに話をしてみないと分からない事もあると言う事か……」
魔王の力を持つだけで人類の敵として判断していた自分を恥じ、自分の目や耳で聞いて判断しろとマオに言われた事を実行しようと決意したのだった。
「マオは分かっていると思うけど、アダマンタートルの体面ある鱗はかなり硬いわ!私を使えば何とか斬れるけど、致命傷には全然届かないの。だからまずは身に纏っている鱗を剥がすように攻撃をしてからトドメを差すのよ」
実体験から来るアドバイスをアルファから受けた。
「………今の言い方だと俺はお前に劣るように言われた気がするのだが……アルファ、どういう事だ?」
不満そうにしているオメガには、「私には斬れるけど、私より劣る貴方には無理よ」と言われているような気がして引っかかっていたのだ。
「……斬れるかどうかは分からないけど、私に劣るのは間違いないからしょうがないじゃない。だって最強は私、貴方は良くて2番目よ?」
「なるほど、一度ハッキリと決着をつけないといけないようだな。勝負だアルファ!どちらが多くの鱗を剥ぎ取れるかで決着をつけるぞ!お嬢ちゃん、気合いを入れて行けよ!」
見事に巻き込まれたようだな……。
「良いでしょう。身の程を分からせてあげるわ!…マオ、しっかり私を使いなさいよ!」
アルファも勝負に乗る気になっているようだ。
「…妾はやらぬぞ?別にお主が劣っていても構わぬからのぅ」
魔王と聖剣の2人の関係を考えると、マオが素直に従う訳がなかったのだ。
「……そうよね、貴女じゃ私を上手く使えるはずがなかったものね。あーあ、普通の人でも私を使えば片手間で勝てるのに、…貴女の腕では無理よね~。良いわよ無理をしなくて~」
そんなあからさまな挑発に乗るはずがないよ……
「なんじゃと!?妾の腕が普通の人以下だと言うのか!……良いじゃろう、妾の腕を見せてやる。大輝よ!手加減は無用じゃ!」
乗っちゃったよ!?
アルファの挑発に簡単に乗ってしまったマオは、僕を置いて行くように速度を上げて進んで行ってしまった。
「!?。お嬢ちゃん、急ぐぞ遅れをとるなよ!」
「分かったよ…タマは斬り落とした鱗を、邪魔にならない所に運んでおいて」
「分かりました!任せてください」
聖剣や魔剣を持っていないタマには厳しい相手なので、僕達が戦いやすいようにしてもらう指示を出し、マオを追いかけるように速度を上げた。
アダマンタートルの近くに来た時、すでにマオは攻撃を始めていた。
「大輝よ、遅いぞ!このままだと勝負は妾の勝ちで決まってしまうぞ!」
アルファの挑発に乗ってやる気を出したはずだったが、すでにマオ自信が勝負に集中していた。
「お嬢ちゃん不味いぞ!?。急ぐんだ!」
そして僕も参戦し、鱗を斬り取るように攻撃を開始した。
「!?。何とか斬れるけど硬いな……」
「確かに硬いがいけるぞ。アルファには負けるなよ、お嬢ちゃん!」
僕とマオでドンドン表面を斬り落としているが、アダマンタートルは気付いてすらいないように歩みを止める事はなかった。
「今はまだ神経の走っている所まで届いていないわ!…本来なら土魔法の使い手を沢山集めて壁を作り、足止めをしながら攻撃するのだけど……ないものねだりはしてもしょうがないわね」
「…アルファ。この鱗って金属っぽいし、落ちる時に凄い音がするけど武具に出来るのかな?」
アダマンタートルの鱗を僕達が斬り落とした後、かなり重量感のある大きな音がなっているのだ。
「確かに貴女なら加工出来るかもしれないけど、重くて装備出来る人は限られてくるわよ。それに鱗も硬いけど、武具にするなら甲羅がおススメね。甲羅から取れる鉱石は<アダマンタイト>と言われていて、オリハルコンには劣るけど硬度は最高ね。……でもやっぱり重たいわよ」
「オメガ、勝負の途中で悪いけど甲羅も狙いに行くね」
「ちょっと待て!それじゃあアルファに負けてしまうじゃないか!?」
「大丈夫!鱗より硬い甲羅を切り裂ければ、オメガの斬れ味の証明にもなるよ。むしろ得点が高いぐらいだよ」
「…そうか。そうだな!行くぞお嬢ちゃん、甲羅を剥ぎ取るぞ!」
どうやらオメガも乗る気になってくれたので、僕は甲羅に向けてアダマンタートルの上に登りオメガを振り下ろす。
「少し刺さったけど斬れない!?」
オメガを甲羅に振り下ろしたが、剣先が少し刺さっただけで勢いは止まってしまい、とてもじゃないがこのままでは切り裂く事は出来そうになかったのだ。
「…私だって一撃では切り裂く事は出来ないのに、貴方に出来る訳がないでしょう」
確かにこのままでは時間が掛かり過ぎるな……。
「オメガ、<強化>のスキルで一気に行くから、無理そうなら早めに言ってね」
「!!。いいぞ、それでアルファに勝てるなら遠慮は必要ない!」
オメガの了承も得られたので、僕は一撃ごとに強化のスキルで攻撃力を上げて甲羅を切り裂いていく。強化を使えば何とか切り裂いていく事が出来たが、下に落ちた甲羅は鱗とは比較にならない程、重たい音がして地面にめり込んでしまっていた。
「ご、ご主人様!!これかなり重たいですよ」
下の方からタマの声が聞こえた。どうやら甲羅はタマをもってしても重たかったようだ。
「無理はしないでいいよ。それよりドンドン落としていくから気をつけてね」
そうして暫くは甲羅を切り取っていたが、今だアダマンタートルは気が付いていないようだ。
「大輝よ!そろそろこの空間の終わりに着いてしまうから、<白炎>を使って歩みを止めさせる。上にいると危ないから、一度降りてくるのじゃ」
マオの言葉を聞き、進んでいる方向を見てみると壁に近づいているのに気が付いた。確かにそろそろダメージを与えないと逃げられてしまうので、僕はマオの所まで降りて行き一緒に距離を置いた。
「行くぞ!<白炎>」
マオから放たれた白炎はアダマンタートルの前足に横から当たる形でヒットし、溶かすように穴を開ける事に成功した。
ようやく中まで攻撃が通ったのか、大声で泣くような声を上げていた。
「ようやくダメージが入ったが…白炎でこの程度か…」
マオはそのダメージの小ささに少しショックを受けていたようだ。
「しょうがないよ。マオの白炎は温度は高いけどまだ炎の量が少ないから、あんなに大きい相手には効果が薄いだね」
マオの白炎のレベルは低いから扱える炎の量が少ないのだ。
「……どうじゃ?お主もスキルを試して見ては。雷は甲羅や鱗では防げないから効果が高いと思うぞ」
確かにここなら他の人に迷惑が掛からないし、試すには丁度いいかもしれないな。
「そうだね、使ってみるよ。マオもタマも少し離れていてね。……<魔黒招雷>!」
スキルを使った瞬間、僕の右手から大量の黒い稲妻が放たれた。その稲妻は50メートルはあるアダマンタートルを被い尽すし、地面の爆発と共に周囲に拡散した。その跡地には大きな穴が空いており、アダマンタートルも黒焦げになって落ちている。
「……マオ、アルファ…このスキルってこんなに破壊力があったの?」
右手を前に出したまま固まった僕は、恐る恐るマオ達にスキルの事を聞いた。
「いや、……あんなに巨大な雷は出た覚えがないぞ」
マオも信じられない物を見たように、茫然と跡地にある大きな穴を眺めていた。
「…白炎も火力が上がっていたけど、こっちは洒落にならない事になっているわ。…これは封印されていた影響か、貴女達おかしいのか検証が必要ね」
その後暫く、僕達は稲妻の落ちた跡地を見ていた。




