88話 精霊王 ノーム
遅くなりましたが本日の分の投稿です。
88話 精霊王 ノーム
大輝達が見付けたミスリルの塊はかなり地中深くに存在した。普通の人がここまで掘り進む為には、何十年と掛かっても不可能かもしれないほどの場所だった。
「ずいぶんと深くまで来たもんじゃな…」
封印されていた力を開放してから、はや半日は進んでいたのだ。
「道なき道を作って進んでいるからモンスターの危険はないけど、……思っていたより深いね」
大輝達が感じ取った反応は漠然とした方向と大きさだったので、正確な位置は分かっていなかったのだ。と言うより、ミスリル鉱石の反応が大き過ぎて距離を見誤っていたと言った方が正しかった。
「まーあと一時間もすれば着きそうじゃが……これは、城並みの大きさかもしれんのぅ」
マオも僕と同じ予想をしているようだ。
「タマには分かりませんが、…なんか嫌な気がします…」
魔力感知が出来ないタマはミスリルの反応は分からないようだが、野生の感とでも言えばいいのか少し不安に思っているようだ。
「こういう場合の感は当たる物じゃから、気を引き締めて行った方がよいの」
マオもタマの言葉を真剣に受け取り、もう少しで着くという時には真剣な顔になっていた。
「ここは?」
「…ずいぶんと広い空間じゃな……それに空気もあるし光も照らされておる…」
そう、大輝達が進んだ先には巨大な空間があったのだ。ただこれを空間と言って良いのかは分からないが、ここには天井から光が差していて明るく、植物も育っており空気もあったのだ。
「地中にこんなスペースがあるとは……流石に想像もしてなかったよ…」
僕はその景色を見ながら感動していた。
「くんくん。…ご主人様、ここには水も流れており生き物も生息しています」
タマは水や生き物の匂いを感じ取り教えてくれた。どうやら人の姿になっていても鼻は利くようだ。
「生き物ってモンスター?」
「いえ、違います。普通の生物が数多く生息しているのです。むしろモンスターがいません」
「モンスターがいない場所だって?そんな所があるなんて驚きだよ」
町など人が意図的に排除している場所はともかく、瘴気さえあれば無限に生まれ続けるモンスターが存在しない。そのような場所がある事に大輝は驚いていたのだ。
「ここでじっとしている訳にもいかないし、とりあえずミスリルを探しに行こうか…」
「そうじゃな、目的の感じもこの空間からだし進むとしよう」
そうして暫く進むと目的の物が見えて来た。
「…まさかそのままで存在しているとは思わなかったよ…」
僕が驚いたのも無理はない。てっきり岩の中や壁の中に埋まっていると思っていたのだが、ミスリルそのままが山のようにそびえたっていたのだ。
「じゃがここならモンスターもおらんし、落ち着いて作業が出来るのではないか?」
「そうだね。目の前にはミスリルもあるし、さっそく作業に入るよ」
まさに作業に入ろうとした時、僕達以外の第三者の声が話しかけて来たのだった。
「…こんな所にまで来るとはどんな奴らかと思ったら、…なんなんだ?魔王に聖剣、魔剣、魔獣の組み合わせとは?………お前ら、いったい何の目的でここに来た!」
その声の方を振り向くとそこには三頭身の老人が浮いていたのだ。
「……お主こそ何者じゃ?そもそも生物なのか?」
マオの疑問ももっともで、宙に浮いている老人は微かに透けていたのだ。
「貴方は精霊王<ノーム>!?なんで貴方がこんな地中深くにいるのですか!?」
「なんじゃアルファ?知り合いか?」
「この方は精霊王ノーム…大地の精霊の王です。本来ならもっと南にいたはずなのにどうしてここに?」
「ノーム?あの国と同じ名前だね。偶然?」
まさに大輝を召喚し、これから戦おうかと思っている国の名前と同じ精霊王。これをただの偶然とするのはちょっと無理があった。
「偶然ではないわ。もともと精霊王ノームが祭られていたから、あの国はノームと名乗っていたのよ」
「ならなんで西の方にいるの?」
アルファと同じ質問だが、僕も気になりノームの質問した。
「……あの国はもう駄目だ。大地を汚し、人が人を貶し、異世界の者まで巻き込み神や精霊を誰も信じなくなっておる。あのままでは腐敗し続ける一方だからな、………だから我はもうあの地を離れる事にしたのだ。
…もちろん<ウンディーネ>の許可もちゃんと貰ってここにおるから、精霊自体があの国に疑問を持ち始めておると言っても過言ではないぞ」
「…私もあの国の一部を見てきましたが、…確かに信じられないほどに穢れていました。……ですが…」
アルファはそれ以上の言葉を続ける事が出来なかった。
アルファの立場からすれば、精霊王ノームを説得し南の地を守って欲しいと頼むのが本来なのだが、自分の置かれた境遇、城で聞いた声、村で見た兵士達の横暴さ。それらを見聞きして来た為に、説得する根拠を見失っているのだ。
「じゃがお主がここにおると、南の土地に精霊王がおらぬ状態になり、他の精霊も力も弱まって土地が衰退する結果に繋がってしまうじゃろ。それでは人々が生きてはいけなくなってしまうではないか?」
「確かにそうなるだろうが……精霊王が見捨てて、聖剣も迷うほどの者達の為に魔王が心配をするとはな。……お前は人間を怨んでいないのか?むしろ魔王なら喜ぶべき事ではないのか?」
精霊王ノームは今のマオの言葉が信じられず驚いていたのだ。
「…怨んでいないと言えば嘘になろう。じゃが、人間全てが腐っておる訳ではない!それは大輝達と旅を続けた事でハッキリと確信を得ておる。…お主もここに籠っておらず、世界をその目で見て回って見ればよかろう」
「我が…自分の目で?」
「そうじゃ。一部の人だけを見ているから考えが偏ってしまうのだ。自分でいろいろ回り、人々と話てその考えを聞くのも良いぞ。時には自分から教えるのも良いかもしれんしのぅ」
「フ、フフフ。ノーム、貴方の負けのようですよ。この魔王はその考えを実行して旅を続けています。ここに籠っている貴方では言い負かす事は無理だと思いますよ」
何故笑われたのか分からないって表情をしているマオをよそに、アルファは精霊王ノームに敗北を宣言した。そしてしばらく考えさせられた結果、
「……確かに籠っているだけでは何も変わらぬか……しかしそれは聖剣アルファ、お主にも同じ事が言えるがな」
そう悪戯っぽい顔をしてアルファの方を見て笑っていた。
「!?私は魔王なんかに負けないわ!変な言いがかりはやめなさい!……でも、考えは変わったようね」
アルファは精霊王の言葉にむきになって言い返したが、それはどこか本気ではなく優しさまで感じる声だった。
「…ああ、我はもう一度この目で見極めてみようと思う。結論を出すのはまだ早過ぎたのかもしれん」
どこか吹っ切れたような清々しい顔をした精霊王がいた。
「なら、最初はファスト村に行ってください。あそこの人達なら安心ですから」
「確かあの国の南にあった小さな村だったな。…分かった、そうしてみるとしよう………なんだ?何かがこの空間に迫って来ておる?」
笑顔で話していた精霊王は突然遠くを見つめ出した。そこ後大きな地響きと共にこの空間自体が揺れ始め、大輝達はこれを起こした原因に気が付いたのだ。
「あれは亀?」
「あれはまさか!アダマンタートル!またずいぶんと懐かしいものを見たのぅ」
どこか懐かしい者を見るような顔で、マオは巨大な亀、アダマンタートルを見ていた。
「…厄介な相手と出くわしたわね」
「2人はあれを知っているの?」
「…あれは動く災害。その体表面は非常に硬く、雑食で大食らい。一度動き出したらお腹が満たされるまで食べるのをやめず、満たされたら長い眠りにつくのよ。…もちろん雑食だから人も食べてしまうわ」
アダマンタートルはその全長が50メートルはあり、人ぐらいなら簡単に飲み込んでしまうだろう。
「…精霊王様、あれをどうにか出来ますか?」
「無理だな。…我の力は大地の力。あ奴の属性も大地の為、我の力がほとんど通用しないんだ」
「精霊王と言う割には大した事がないのぅ……じゃがほおって置く訳にも行かぬ!大輝、タマよ。選択肢はなさそうじゃぞ」
精霊王は痛い所突かれ「グッ!」と項垂れているが、マオは無視して話を進めていく。
「地上に出すとどれだけ被害が出るか分からないし、ここで出会ったのは幸運と考えようかな」
僕もマオの考えに同意した。
「表面は堅そうですが、中身はおいしいのでしょうかね…」
タマの中では食料の一つに見えているようだ。
「結論は出たな。とりあえず戦うとするかのぅ」
そうして僕達はアダマンタートルに向かって行った。




