86話 ミスリル鉱山
86話 ミスリル鉱山
ファスト村の東に転移した僕達は、大臣だけに聞こえるように小声で会話をした。
「ここはファスト村の東にある森です。ですのであそこから西に向かえば村に着きます。村長のワンスさんに事情と僕の名前を出せば、分かってくれると思いますのであとはよろしくお願いします」
「…分かった。だが……本当に転移が出来るとは思わなかったな。…さて兵達も異変に気付き動揺を始めているから、ディーナに早く戻るが良い」
「分かりました」
そうして大輝達はまた転移して消えた。
「さて、ヒルダ様がああ言ってくれたが…こんな異常な行為を納得してくれるものか……お前達、目隠しを外して良いが、決して取り乱すなよ」
大臣の言葉で目隠しを外していく兵士達は、さっきまで王座の間にいたはずなのに今は見慣れない川辺にいる事に驚愕していた。いくら厳しい訓練を積んでいても、常識外の異変を前にしては冷静ではいられなかったのだ。
「さっそくミスリル鉱山に向かおうか」
「久しぶりの採掘じゃな。タマも頑張るんじゃぞ」
「はい!とても楽しみです!」
この仕事にはノームやファスト村の命運をになっているとも言えるものだが、三人は既に久々の採掘の事で一杯になっていたのだ。
大輝達はヒルダから地図も貰っていたので、迷わず二日後に目的地の鉱山についた。
「……よりにもよって、ここが採掘場だなんてね…」
まるで何かがあるようにアルファは呟いた。
「なんじゃ?ここに何かあるのか?」
「……いえ、何でもないわ。気にしないで進みましょう」
意味深な発言だったが、恐らく聞いても答えてくれないので進む事にする。
「……魔力の集まっているのが分かるけど……」
鉱山の入口から少し進んだ所で魔石採掘の時に使った、魔力を見る事を試したのだが…
「…そうじゃな…小さいのはその辺りから感じるが……大きい塊はえらく下から感じるのぅ…それに」
確かに周りの壁を少し掘れば、手のひらサイズのミスリルは取れるだろうが、盾100個分を採掘するとなると約束の日までにはとても間に合わないのだ。
「うん…この鉱山の下の方から強い瘴気が感じる……けど、この感じはファスト村の南の洞窟に封印されていた祠と同じだ」
「!?。そうなるとここにも妾の封印された力が眠っていると言う事か?」
「まったく…こんなに早く気が付かれるなんて…あんた達異常よ」
「お主は知っておったのか!?…いや、知っていて当たり前か。お主は封印した時におったのじゃからな」
そっか、アルファはマオを倒した勇者の武器。封印した時にいたのは当然だし、マオが力を取り戻すのに協力をする訳にもいかないだろうしね。
「アルファには不本意かもしれないけど、封印が解けて近隣の村がファスト村みたいになるのは避けたいからね。時間は限られているけど、奥まで潜ってみよう」
そうして大輝達は奥に潜って行く。
ここは瘴気が溢れているから、モンスターの数は多かったが強さは大した事がなかった。主に狼のようなモンスターが集団で襲ってくるのがやっかいだったが、魔法などで連携を分断して個別撃破で難なく突破できたのだ。
「ここの壁の向こうに強い瘴気を感じるから、恐らくボスがいるね」
そう皆に注意してから壁を錬金術で開き、奥へと進んで行くと白いチューリップが咲いていた。ただ高さが2メートルはあり、花の中心には口のように開いて鋭い牙が生えていたのだ。
壁を抜けてそのモンスターがいる空間に入った途端、根元から根のような物を伸ばして来て僕達を捕まえようとしてきた。
「まさかこんな光の当たらない所に、花が咲いているとは思わなかったぞ」
「…どうせなら野菜のモンスターだったら良かったのに…」
タマは違う意味でガッカリしていた。
「とりあえず、植物には火だよね。マオ、タマ、よろしく」
「任せてくださいご主人様!<体炎>炎の爪!」
タマの体に炎を纏わせる体炎。その炎を両手に集めて爪の様な形にしたのだ。
その爪で襲ってくる根を全て焼き切っていく。
「タマよ、やるのぅ。…ある程度削ったら離れるのじゃ。<白炎>でトドメを差すぞ」
「分かりましたマオ様!」
タマは根を焼き切りながら、一気に近づき葉の片方を焼き切った。
「タマ、離れるのじゃ!……<白炎>!」
マオの手から光の様な白い炎が放たれた。白炎が当たったチューリップの花の部分は、何の抵抗もなく通り抜けて茎から消滅してしまった。
「…久々に使ったが…こんなに火力があったかのぅ?」
そのあまりの威力に、自分の放った炎を見てマオは戸惑っていた。
「……明らかに火力が上がっているわ。炎の量は少なかったけど、間違いなく火力は高い……あんな炎を浴びたら勇者といえども防げる物じゃないわよ…」
昔のマオを知っているアルファの驚いている様子から、明らかに強くなっていたようだ。
「これは人には使えんのぅ。まったく加減が出来る気がせんのじゃ」
「…当たったら骨も残りそうにないから、人相手には魔道具で我慢だね」
「普段は灯りとしてしか使えませんね」
折角の攻撃スキルだったが、普段は使えないと分かり、マオは少し落ち込んでいた。
「…さて、気持ちを切り替えて下に進むとしよう」
「ちょっと待って。この部屋には少しまとまったミスリルがあるから、採掘して僕達の装備を整えよう。…もしかしたらファスト村の時みたいに、戦闘になるかもしれないからね」
そうして採掘を始めた大輝は、両手で抱えられる程度のミスリルを集めた。
「僕達は鎧を装備しないから、また布にして服と混ぜ込むよ」
大輝達は目立つ鎧装備を避けているので、防具はいつも服なのだ。ただし使っている素材は、大輝が金属だろうと何だろうと糸に加工して編み込んだ布を服にしているので、防御力はかなり高いのだ。
そうして三人分の服を強化した後、下への道を作り出していった。
「…ここは誰にも見つからないように封印の祠を設置後、埋めて置いたのに…こんなにあっさり道を作られるとは想像もしてなかったわ…」
顔は無いが、アルファの声はどこか遠くを眺めているような声だった。
「まあ、お嬢ちゃんはいろいろ非常識って事だな」
「それを言うなら剣が喋っている段階で、君達の方が非常識だよ!」
「皆さん似たり寄ったりですよ」
僕とオメガの会話にタマがトドメを差してくれた。
そんな会話をしながら下に進んで行くと、横穴が見えてきた。
「どうやらあそこのようじゃな」
見えてきた横穴は高さ3メートルはあろう巨大な物で、ちょっとした戦闘なら十分こなせる広さだった。
その奥の方から流れて来る瘴気は、ファスト村でも感じた物と似ている事から、この先に祠があると確信を持てたのだ。
しばらく進むと、ファスト村で見たのと同じ形の祠が目に入った。
「これが妾の力を封印している祠か……封印している割には随分な量の瘴気が、溢れ出しているように感じるのじゃが…?」
マオの言う通り、ファスト村もここも大量の瘴気が出ているのだ。
「ま、まさか!?封印の力が弱まっているの?この封印術は神の力を使って、人々の信仰を源に発動し続けているのに……ここまで人は堕落したとでも言うの?」
「そりゃあ聖剣の扱いも酷かったし、勇者召喚も奴隷確保に使うぐらいだからね。神を信じる人なんてノームにはいそうもなかったよ」
「……………」
話の内容を聞き、ショックのあまりアルファは黙ってしまった。
「ごめん、ちょっと言い方が悪かったよ。…それでこのまま放置は不味いと思うんだ。
……アルファ、マオに力を返すのは不本意かもしれないけど、安全な封印の解き方を教えてほしい」
聖剣に魔王の封印を解けと言うのは酷な話だが、このまま放置したら、間違いなくファスト村の二の舞になるのは明らかだ。
その事はアルファも分かっているから悩んでいるのだ。
「……分かったわ…封印を解きましょう。…ただし力を取り戻したからといって人を襲うようなら、私はこの存在を掛けて貴女の命を奪います!」
強い覚悟を含めたアルファの言葉には力を感じた。
「前にも言ったが妾はそのような事をするつもりはない。…じゃがお主の覚悟は確かに受け取ったぞ!」
いつもは喧嘩腰になるマオも、真剣なアルファに茶化すような事はせずに真摯に受けとめた。
「マオ!私を握りながら祠の中にある珠に触れなさい。あとは私がするわ」
「任せたぞ」
アルファに言われたようにマオは祠の珠にゆっくりと触れた。
少しの時間マオを触れていると、「キン!」と甲高い音と共に珠は弾けるように黒い霧となって拡散した。
「案外呆気なく封印が解けるものじゃな。……あとはこの瘴気を回収するだけじゃな」
そしていつものようにマオに瘴気が集まる。




