85話 開戦準備
85話 開戦準備
朝起きると、すでにノーラさん達は働いていた。宿で泊まった客がそのまま道具を買ったりしていたので、道具屋の方も忙しくなっているようだ。
「おや?起こしてしまったかい。すまないね、騒がしくて」
確かにお客さんとの会話は聞こえるが、騒がしいほどではなかった。
「大丈夫ですよ。それにしても朝早くから急がしそうですね」
「まあね。ここは町の外れだから、旅の疲れをとる人とこれから旅に出る人がいるからね。そういう人達がポーションなどの消耗品を補充してくれるから、店も繁盛してるんだよ」
ノーラさんの嬉しい悲鳴を聞きながら、僕は出発する準備を始める。
「なんだい、もう発つのかい?」
「ええ、ヒルダ様の所に1人放置して来ましたからね。話が終わったら、迎えに行くまで隠れているように言ってますから、早めに行ってあげないと恨まれてしまいますよ」
その言葉を聞き、なぜかノーラさんは困ったような顔をしていた。
「…その人は事前のヒルダ様と話をする事を知っていたのかい?」
「いえ。夜中にこっそり会いに行って、ヒルダ様と協力出来そうだから連れてきただけですよ」
「それでそのまま放置したと?」
「放置じゃないですよ。ただ僕達がいても意味はないから、先に出て行っただけですよ」
質問の答えを聞いたノーラさんは、こめかみを摘みながらため息を吐いていた。
「…その人の名は?」
「リドルさんです」
「その人に伝言を頼むよ。今度余裕が出来たら、この宿に泊まりにおいでとね」
「?分かりました」
ノーラさんの真意は分からなかったが、確かにお勧め出来る宿なので話す事に異論はなかった。
「マオ、タマ。食事をしたらリドルさんの所に行くよ」
すでにマオもタマも準備が出来ていたので会計を済ませ、そのまま僕達は宿を出て食事に向かった。
宿を出てすぐ変化に気が付いた。女王も来る宿の噂を聞きつけて客が集まった事で、周辺の店にも活気が溢れていたのだ。
「…凄い変わりようじゃな。たった一日でこれでは次に来た時はどうなっているか楽しみじゃのう」
昨日も入った食堂でマオが楽しそうに話していると、宿の方からエリーヌが走ってきた。
「もう!私に挨拶も無しで出て行くなんて酷いですよ」
僕達の前に辿りついたエリーヌは、少し怒ったような顔をしていた。
「2人とも急がしそうだったからね。邪魔したら悪いと思って声を掛けなかったんだよ」
「そんな事を気にしなくても良かったのに…。それより、次はいつ頃来る予定です!」
目をキラキラさせて聞いて来るエリーヌの言いたい事がなんとなく分かった。
「…お風呂の増築の話だね。しばらくはノームがごたつくと思うから、ちょっと間が開くと思うよ。多分次に来るのはノームに新しい女王が誕生して、その挨拶の時かな」
僕の話した事を少し考えるように聞いた後、エリーヌは全てを理解したようだ。
「なら戦争が起こってもすぐに終わりそうですね。…そういう事なら増築の話を早めに進めておきますから、協力を頼みますよ」
「流石にそんなに早くはお金が貯まらないないでしょ。まーもし貯める事が出来ていたら協力するよ」
「フフフ、約束しましたよ」
いくら大繁盛しているとしても、数日間で近くの土地を買い取るほどのお金は貯まらないと思い、安請け合いをしてしまった。その事が後に後悔するはめになるとは、この時は想像していなかったのだ。
「それじゃあ僕達はそろそろ行くよ。また今度よろしくね」
食事も食べ終わったので席を立ち、エリーヌに別れを告げた。
「はい、またのお越しをお待ちしております。心の底からね」
やけにやる気を見せていたエリーヌと別れ、僕達はリドルさんが待っている部屋に向けて転移した。
「リドルさ~ん、迎えに来ましたよ」
ヒルダ様の寝室に来たが返事がない。
「なんじゃ?不法侵入で捕まりでもしおったか?」
いくら周囲を見回しても誰もおらず困っていると
「不法侵入はお前達も一緒だろ。…いや、むしろ常習犯のお前達の方が罪は重いだろう」
声がする方を見ると、やや眠そうで覇気が足りないヒルダ様が、腕を組んで扉から現れた。
「おったのならすぐに声を掛けんか。して、リドルはどこにおるのじゃ?」
「…まったく反省の色がないな…」
マオの態度を見てヒルダ様は、ため息を吐きながら呆れていた。
「あの者は来賓室で寝かせておる。…まったく、本来なら夜中に話す事ではないのだぞ」
「でも僕達が正門から入ろうとしても、門前払いが関の山ですからね。仕方がないですよ」
「お前達の実力なら、すぐに名を売る事が出来るだろうに」
「そんな目立つ行為は出来ませんし、やるつもりもありません!」
城に自由に入れる程、名前を売るなんてとんでもない。見ず知らずの人からの妬みは、絶対にごめんだからね。
「そのおかげで、私は寝不足で今日を過ごさねばならないのだがな」
確かに眠そうですね。
「まー妾達はお風呂にも無事に入る事もでき、ゆっくり休んだんじゃがな」
そこにマオが爆弾を投下した。
「……どうやら喧嘩を売ってるようだな」
眠そうなヒルダに対して、すこぶる快調のマオの言葉は挑発以外の何ものでもなかったのだ。
「お主が宿に行ったせいで、妾は一度悲しみに突き落とされたのじゃ。あの時の恨みを返さねばならぬからのぅ」
昨日の出来事はマオとって、未だに引きずっているようだ。
「そうか、それは悪い事をしたな。………さて大輝よ、今回リドルに協力するにあたって、お前は何を差し出す考えだ?」
…もしかして矛先がこっちに向いた?
「…今回はヒルダ様達の協力者の紹介だから、僕達が何かを差し出す必要はないんじゃ…」
「それは私が頼んだ事ではない。お前達がリドルを王にするための協力を頼みに来た。…違うか?」
確かに頼まれてもいないし、人選もこっちで勝手にやった。アポもなしで押しかけて今後の話もさせた。…間違いなくこっちから頼んでいる形だ。
「じゃ、じゃがお主にも良い話ではないか!」
「確かにわが国も助かる事は否定しない。だがそれとこれとは話が別だ」
「…ヒルダ様からの要求は何ですか?」
「そうだな、作戦に参加してもらうのはもちろんだが、ミスリルの盾を100個ほど作って貰おうか」
少し考えた様子のヒルダは、武器の製造を要求して来た。
「もちろん、材料を取りに行く所からやってもらうぞ」
「今からそれをやってたら、ファスト村の警護が手薄になってしまいます!」
「それは大丈夫だ。わが国は今から兵をノームに向かって動かし始める。そうすれば近隣の村へ手を出している暇はなくなるだろう。もちろん、お前達が望み運んでくれるなら、予定していた警護の兵を待機させる事もしよう。
…期限は兵がノームに着くであろう10日後までの受け渡しだ」
「ここからミスリル鉱山までの距離は?」
「西へ馬で2日の距離だ」
移動に2日、制作に恐らく3日。余裕を見ると採掘に掛けれる時間は3日くらいか…。
「分かりました。その要求をのみましょう。リドルさんを屋敷に送り、警護の兵をファスト村に送ったら早速動きます!」
「リドルの事は気にしなくてよい。あの者は私と共にノームに向かう事になっているからな。兵は…大臣を兵と共に30人ほど用意しよう。30人以上の転移になるが可能か?」
転移の範囲は直径10メートルぐらいのはずだから可能かな。
「たぶん大丈夫ですが、大臣以外の兵は目隠しをしてもらいます。僕の存在は知られたくはないので」
「分かった。ただちに準備させよう。お前達が必要な物もこちらで用意するから、何でも言ってくれ」
「…必要な物は食料だけですがお願いします」
「なら準備が終わり次第転移を頼むぞ。私はこれから大臣達に説明をして来るからここで休んでおくが良い」
「分かりました。ここでMPの回復に努めておきます」
そしてヒルダ様は足早に部屋を出て行った。
「急に慌ただしくなったのう」
マオはそう言いながらMP回復の為に、スキル<回復促進>を掛けてくれた。
「でも、ミスリル鉱山には興味があったし、ついでに僕達の装備も強化しようと思ってるよ」
とくにタマの装備は間に合わせのままだしね。
そうして1時間ほど待った後、ヒルダ様が呼びに来た。
「待たせたな。王座の間に集めているから共に行くぞ」
案内してくれるようにヒルダ様が先行してくれたので、それに僕達はついて歩いた。王座の間に着いたので中を覗くと、そこには30人ほどの兵士が目隠しして立っているという、異様な状態になっていた。
「皆の者、不自由を掛けてすまないな」
ヒルダ様が声を掛けた時、見えないのに兵士達は綺麗に前を向いて姿勢を正した。
「大臣からも聞いておるだろうが、お前達はこれからノームの南にあるファストと言う村を守ってもらう事になる。大臣も行ってもらうから、細かい指示は大臣から聞くように。
ただ!お前達がしている目隠しの理由と、これから起こる事に対する質問は決してするな!これは国の重要機密だと思え!これを破った場合は反逆とみなす!わかったな」
「「「「「はっ!」」」」」
本当に見えていないのか疑問に思うほど、兵士達の礼は揃っていた。
「それとお前達、頼まれていた食料はそこにある」
僕は声を出さずに頷いて答えた。
「さあ準備は良いな。では、頼むぞ」
そして僕は転移の宝玉に魔力を流し、ファスト村の東の森、少し前まではワンスさん達が避難していた川のそばに転移した。
「本当に全員を連れて転移しおったな。もし、あいつ等が本気で国を落とそうとしたら、防ぐ事は出来ないだろうな。それに……半分冗談でミスリルの盾を頼んだが、まさか引き受けるとは思わなかったな…」
ディーナで同じ数を作ろうと思えば、20年以上掛かる物を10日で仕上げると言ったのだ。その事を考えながらヒルダは、大輝達が消えた場所を見ながら呆れ顔で呟いていた。




