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84話 寝巻き会議

84話 寝巻き会議


一先ずは考える時が必要と思い、固まっているリドルは放置して別の話を始めた。


「お前達と別れてすぐにノーラの宿に顔を出したぞ。そしてお風呂とやらを使ったが、あれは気持ちがいいな。疲れが取れて、もうすぐ冬だというのに体が芯から温まったぞ。あれを考えたエリーヌも凄いが、作った者も相当の奴だ。そう思わぬか、謎の改築屋とやらよ」


あー確実にばれてるな…


「それに客の入りがかなりのものになっていたぞ。昨日まではお前達しか泊まっていなかったのに、今日は八割は部屋が埋まったらしい。ただあれでは予約無しで泊まれなくなるのは、時間の問題ってところだな」


「流石エリーヌ、朝から宣伝をしていただけの事はあるね」


僕は姿が見えないエリーヌを褒めてあげた。その後もお風呂話を続けていると、ようやくリドルさんが正気にもどった。


「は!?……どうやら夢ではないようですね」


その後周囲を見回して、夢でない事を確認していた。


「目が覚めたか。ならヒルダと今後のノームについて話すがよい。」


「ヒルダさん、僕達はこのリドルさんをノームの新しい女王にすえてはどうかと考えています。なので後は2人で話をして、今後の事を決め手ください」


そう言ってリドルの背中をそっと押してあげた。


「あ、貴女達はいったい何を言っているの?私が女王?」


リドルは一気にいろいろな事があり過ぎて、かなり余裕がなくなっていた。


「お前達が連れて来たなら、信用出来る者なんだろう。リドルと言ったか、お前の話を聞こうではないか」


「そ、そんな…私ごときがヒルダ様に話すなど恐れ多いです」


聞く体制になったヒルダの前でリドルは、片膝をついてかしこまってしまった。


「…何をしておる。そんなんじゃまともな話が出来ぬではないか。お主が国に対して怒鳴りつけに行った勢いで話さぬか!」


「無理ですよ、そんな事急に言われても…」


マオが叱りつけても、完全に畏縮しているリドルさんには効果がなかったのだ。


「…リドルさん。貴女は何も出来なかった事を、力がなかった事を悔やんでいましたよね?今、貴女がこのチャンスを逃したら、貴女が嫌がっていた戦争で国民が苦しみますよ。

…貴女は国を救う力を得られるかもしれない所にいます。この密会は限られた時間しかありませんから、固まっている暇は無いですよ」


「…確かにそうね。…ヒルダ様、私の考えと今後の事を話すお許しをください」


さっきまでおどおどしていたリドルさんはおらず、今は覚悟を決めてしっかりとヒルダ様を見つめていたのだ。


「構わぬ、話すが良い」


その変化にヒルダ様も気がつき、嬉しそうな顔をしていた。


「なら妾達はエリーヌの宿にでも行って、お風呂に入りに行くとするかのう」


先程まであった緊張感をぶち壊すように、マオの気持ちはここにはなかった。


「そうだね。あとは二人で決めてもらえばいいし、僕達は宿にでも泊まりに行こうか。

…あ、リドルさん。明日の朝にでも迎えに来ますから、それまでこの部屋で隠れていてください。それじゃ」


「ちょっと待って!」


リドルは慌てて止めようとしたが、言いたい事を言った大輝達は、さっさと転移して消えてしまったのだ。


「…相変わらず非常識な奴らだな…」


ヒルダはさっきまで大輝達がいた所を眺めながら呟いた。


「ヒルダ様はあの者達と親しいのですか?」


「知り合ったのは昨日の夜だ」


それからヒルダは昨日の出来事などを説明した。


「警備の厳しい城ですらあっさり侵入出来るなら、私の屋敷など散歩感覚だったのでしょうね…。

…それにしても聖剣と魔剣を持った子供達ですか…いったい彼等は何者何でしょう」


「分からぬ…だが悪意ある者達ではないのは確かだ」


そうしてしばらくは大輝達の事を思い浮かべていた。


「さあ、あいつ等の言う通り時間もあまりない。早速話を進めて行こう」


「そうですね。折角作ってくれた機会を、無駄にする訳にはいきません!」


二人は気持ちを切り替え、自分達の考えと今後の方針などを話し合い、連れて来たのにさっさと逃げ出した大輝達への仕返しとばかりに、クーデターの作戦にしっかりと組み込んでいたのだった。


しかし、どんなに真面目な話をしていても、二人の姿は寝間着だった為、世界一締まらない国際会議へとなってしまったのだった。




場所は代わってエリーヌの宿。


「ノーラさん、一泊お願いします」


客は八割とヒルダから聞いている三人は、泊まる気満々で訪ねて来たのだ。


「なんだお前達かい、残念だけどもう満室だよ」


「な、なんじゃと!?ヒルダは八割しか客はいないと言っておったのに…」


予定に反して宿は満室と、ノーラさんに言われたマオの落胆振りは凄かった。まるで世界の終わりを告げられたように、両膝を付き大地に倒れ込むように手もついて落ち込んでいたのだ。


「ヒルダ?…ああ、お前達かい、ヒルダ様にここの事を教えたのは!おかげで大騒ぎだったよ、一国の女王が小さい宿のお風呂に入りに来るんだからね。その話題もあって宿は満室って訳だよ」


「おのれヒルダめ!妾の楽しみを奪った事を後悔させてやるぞ!」


恨み事を言うマオは土を握りしめながら、城のある方向を睨みつけていた。


「大輝よ!ノームを落とす前にディーナに痛い目を見せるぞ!」


「マオ、落ち着きなさい」


僕は今にも駆けだしそうなマオの頭を軽く叩いた。


「じゃがあ奴のせいで、あ奴のせいで妾は……」


「…なんだか知らないが、お前達はヒルダ様と面識があるのかい?」


マオの態度を半分呆れるような顔で見ている。


「まーほどほどに面識がありますよ。今はノームの新しい女王候補と話しているはずです」


「……その話は一介の宿屋で話していい事ではないよ…」


ノームとの戦争に関する話を、ここで口にする事に危機感が足りないと注意された。


「大丈夫ですよ。普通の人はどんなに急いでもノームには5日は掛かりますが、僕達は一瞬で帰る手段を持っていますから、誰かが聞いて伝えようとしてもその前に決着はついていますから」


「…お前達なら何でもありか…。そうなるとその子がこの国をどうにかしようと本気で思えば、何とかなってしまうと考えていいのかい?」


今だ落ち込んでいるマオを見ながら、本気でやりかねないと心配していた。


「本気でそんな事を考えてはいませんから安心してください。でも、その気になれば1人で城ぐらいなら、1人で余裕を持って潰せますね」


「…そうかい。そうならない事を願っているよ。……客室は空いてないけど、私達と一緒に寝るのなら泊れるよ。どうする?」


その言葉を聞いて、マオは勢い良く立ちあがりお風呂の方へ歩いて行った。


「妾は先に入るからな。タマも来い!お風呂の良さを説明してやるぞ!」


「待ってください。すぐに行きますから」


そう言ってマオは脱衣所に入って行き、慌ててタマも後を追うように走っていった。


「…すみません、お世話になります」


「…あそこまで気に行ってもらえれば、今後の自信になるってもんだよ。さあ、部屋に案内するよ」


そう言われて僕はノーラさんと部屋に行った。


「あれ、昨日で帰ったんじゃないんですか?」


そこには椅子に座って寛いでいるエリーヌがいた。


「ちゃんと帰りましたよ。そしてまた来たんです」


「結構近いところに家があるんですね。あ!?そう言えば今日凄い事が起こったんですよ!

…実はですね…この国の女王、ヒルダ様が宿に来てくれたんですよ!。どこからかお風呂の事を聞きつけて来たらしいんですけど、情報を握るのが早いですよね。まさか一日も経たない内に知って、行動を起こせるなんて流石ですよ」


エリーヌはヒルダ様が来てくれた事に感激し、その情報収集力と行動力を褒め称えていた。


「…そうですか。それは良かったですね」


確かに一国の女王が突然くれば驚くよな。それも理由がお風呂に入りに来ただけだし…


「…その反応から見て知っていましたか」


相変わらずの洞察力を発揮するエリーヌを前に、ヒルダ様が天才と言った意味を再確認する事になった。


「それはともかく、大繁盛じゃないですか。まさか一日でここまで変わるとは、思っても見ませんでしたよ」


「私もここまでうまく行くとは、思っても見ませんでしたよ。でも最後の一押しは、ヒルダ様の突然の来訪による話題性が大きかったのですけどね。おかげで宿の噂は一気に広がり、女王が気に入ったと言ってくれた所に悪さをする人も出ないでしょうから、安全も保障されたようなものですよ」


国のトップが目をつけた施設を他の人が奪って利用しても、すぐに足が着いてしまう事は間違いないだろう。


「それでマオちゃんは?」


「マオ達は一目散にお風呂に向かいましたよ」


「それじゃ私も入りに行こうかな」


そう言ってエリーヌは席を立ち、マオ達のいるお風呂に向かって行った。残されは僕はノーラさんと話をしながら待ち、他の客と出会わない深夜の時間帯にお風呂に入ってから寝る事になった。


僕がお風呂に向かう時、タマが背中を流しますよと言ってくれたが、全力で断ったという小さな出来事もあった。


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