83話 リドル
83話 リドル
「ご主人様!タマをおいて行くなんてひどいです!」
僕達がファスト村に戻って来てすぐに、どうやって気がついたかは不明だが、タマが駆けつけて来た。
「ごめんごめん。急ぎだったから、タマを待てなかったんだよ。本当にごめんね」
相当寂しかったのか、タマは涙を浮かべていたのだ。
「すまなかったのぅ、じゃが、しばらくはこの村に留まるから一緒じゃ」
マオもタマの頭を撫でてあげ、あやしてあげている。その行為でタマの涙が引き、気持ち良さそうな顔になっている。
「さあ、今後の事を話さねばならぬから、ワンスの家に向かうぞ」
そうしてワンスさんの家に行き、ディーナに保護して貰える事と、警護の兵士が10日後に着く事などを報告した。
「こちらの方はこんな感じです。食料問題の方は上手く行きそうですか?」
「……正直な話、…少し厳しい状況じゃ。どうやら国が回復薬を搾取しており、道具屋は買い取りを渋っているようなのじゃ」
…買い取っても搾取されるなら、道具屋は嫌がるよな……しかし、あの国はそこまで不味い状況になっているのか…
「…やっぱり戦争が起こりそうなのが原因ですか?」
「それもあるが、権力者が自分達の護衛に使う為に集めておるようじゃ。…ただ、全ての権力者がそうと言う訳ではなかったようで、トントの話では<リドル>と言う貴族が、国に対して搾取を止めるように訴えているようなのじゃ。
しかし国に逆らったとして、自分の屋敷に軟禁状態だそうだ。…そう言う貴族が増えればあの国も良くなると思うのだがな…」
「あの狂った国に1人で挑むとは愚かじゃな。……しかし気にいったぞ。大輝よ、そ奴に一度会って話をしてみるのもありじゃと思うぞ」
リドルの話を聞き、マオは嬉しそうな顔をしていた。
「…そうだね。今夜会いに行ってみよう」
「ご主人様!今度こそタマも着いて行きますよ」
前回置いて行かれたので警戒しているのか、僕の服を掴んで離さない勢いだった。
「大丈夫だよ。一緒に行こう」
「はい!」
そうしてリドルさんの屋敷の位置を聞き、夜になるのを待った。そして、ディーナでやったように屋敷に侵入した。
「夜分にすみません。貴女がリドルさんですか?」
「誰だ!国王からの差し金か!」
不法侵入している状態からの声の掛け方が分からないので、静かに声を掛けたが……どうやら暗殺者と間違われているようだ。
「説得力がありませんけど、僕達は怪しい者ではありません」
「…どう考えても怪しい奴だが……暗殺者ならそんな事を言う必要はないか…」
どうやら少しは警戒を解いてくれたようだ。その様子を確認し、僕達は姿を見せた。
「まさかお前達の様な子供だったとは思わなかったな。…それで私に何の用だ?」
まさか侵入者が年端もいかない子供達とは思っていなかったようで、リドルは呆れるように驚いた。
「…今はまだ用がある訳ではない。…お主に2、3質問があっただけじゃ。お主はなぜ国に文句を言いに行ったのじゃ?」
用がないのに侵入までして来て、話を聞きたかっただけ?と不思議そうな顔をしている。
「…お前達の意図が分からんが、理由は簡単だ。国が国民から奪う事を繰り返したら、貧しい者は生きてはいけない。そんな状況を作ってはいけないと訴えに行っただけだ」
「次の質問です。貴女は勇者召喚をどう思いますか?」
「…コロッセオで戦わせるだけに異世界から人を呼ぶのは反対だ。召喚された者には向こうの世界での生活があるのだ。それを無理やり呼んで奴隷にするなどあってはならない事だ!」
やや熱が入って来たようで、言葉に力が入ってきている。
「お主はこの国をどのようにすれば、良い国になると思っておるのじゃ?」
「…確かに有事の際の戦力は必要だ。しかし、それらは国民の為に必要な力であって、見栄や娯楽の為にあってはならない。なのでまずは税率を下げる事で国民の力を高め、国全体の活気を良くしなくてはならない。
正直この国には名産はなく観光名所もないが、コロッセオで鍛えられているから冒険者ギルドのレベルは高い。それを利用して護衛などの依頼を増やし、それらを依頼しに来る人達に泊ってもらったりしてお金を落として貰おうと考えている」
なるほど、それだけではすぐに良くなるとは思わないが、真剣に考えているのは分かったな。
「それをこの国のトップはやると思いますか?」
「はずかしい話だが無理だと思う。…国のトップの連中は、自分達は特別な存在だと思い込んでいる所があるからな」
「最後の質問です。今、ノームはディーナと戦争が起こるかもしれない状況にあります。…貴女はどちらに勝って欲しいですか?」
「…その質問に答えるのは勇気がいるな……私自身は戦争は反対だ。戦争が起こると一番最初に被害に遭うのは国民だからな。……だが、今のまま権力者が国民から採取を続ければ、国民は死に絶えてしまうだろう。なのでこの国は一度滅んだ方が良いのかもしれない。
…悔しいが、私1人ではどうしようもないんだ…」
リドルは拳を握りながら下を見て、悔しそうに顔をしかめていた。
「…見ず知らずの者の前で滅んだ方が良いと言うとはな……大輝よ、妾はこの者が気にいったぞ!この国を良くする為にリドルを王にしよう」
「私が王に?」
「そうじゃ!お主が王になるのじゃ!」
弱小貴族の女が王になる。そんな常識外れの事を照れもなく言いきられ、リドルは信じ切れずに困っていた。
「マオ、これは僕達だけでは決めれないよ。一度ヒルダさんにも聞いてみないといけない内容だよ」
「分かっておる。じゃがヒルダもきっと気にいると思うぞ」
「タマもこの人は良い人と思いますから、協力したいと思います」
「なら、一度ヒルダさんと会ってもらおうか。それで決裂するならそれまで、合意出来れば協力するって方向で行こうか」
「そうじゃな。今の時間じゃったらヒルダも寝室におるじゃろうから、丁度良いかもしれんな」
三人はリドルほったらかしで話を進めていた。
「さっきから何を話しているんだ?それにヒルダって誰の事を言ってるの?」
まるっきり話から置いて行かれたリドルは、おろおろしながら慌てて聞きたかった事を聞いた。
「ん?ヒルダはディーナの女王じゃ。まあ、行けば分かるぞ」
「え!?女王?ディーナの?」
他国の王を呼び捨てにし、さっきの話からすると簡単に会えると言っているのを思い出し、リドルは混乱した。
「そうだね。時間は早い方が良いから、さっそく行こうか」
「行くって今からディーナに?」
今だ混乱しているリドルをよそに、大輝は転移の準備を進めた。
「貴女達、いったい何を言っているの?」
「さて、行こうか」
リドルの言葉はむなしく空を彷徨う結果になってしまい。大輝は容赦なくリドルを連れてディーナにあるヒルダの寝室に転移したのであった。
「…またお前達か。たまには昼間に正門から堂々と入っては来れないのか?」
転移してきた僕達に向かって、半ば呆れた様子で声を掛けてきた。
「え!?え!?ここはどこ?さっきまで自室にいたはずなのに?」
突然部屋が変わった事にリドルは動揺していた。
「なんだか見慣れない者が2人ほどいるな?」
「ああ、紹介します。この子はタマ、僕の仲間です。そしてこちらはリドルさん。ノーム国に文句を言って軟禁中の弱小貴族です」
「始めまして、タマです」
タマはヒルダの前に行き、頭を下げて挨拶をした。
「え!?あ、えーと…リドルです。始めまして」
今だ混乱中のリドルは簡単な挨拶しか出来なかった。
「ほう、国に文句を言うとはなかなかの者のようだな」
予想通りヒルダさんはリドルさんを気に入ったようだ。
「ちょっと待って!ここはいったいどこなの?どうやったの?」
「さっき目的地は教えたであろう?ここはディーナじゃ。そして目の前におるのがこの国の女王、ヒルダじゃ」
「ディーナ?何を言っているの?私の屋敷はノームにあるのよ?」
今だ納得がいかないのか、信じてはいないようだ。
「…そこに窓があるから町を眺めるがいい。そうすればここがディーナと分かり、その者達がいかに非常識かが分かるはずだ」
ヒルダの言葉に進められてリドルは、窓からの景色を眺め絶句した。
そこは長年住み慣れた屋敷からの景色ではなく、はるかに高い所からの町の風景だった。そして、その町並みは話に聞いていた水の町に相応しい物だったのだ。
「まさか本当にディーナに来ちゃったの?さっきまでは確かにノームにいたのに…」
「…その者達は理屈は分からぬが、転移が出来るのだよ」
リドルの問いに答えたのはヒルダだった。
「それじゃあ、本当に女王ヒルダ様?」
ここをディーナと認めるなら、目の前の人物は女王と気付き、突然片膝をつき挨拶を始めた。
「女王の前とは思いもせず無礼を働きました。この罰はいかなるものでも受ける所存でございます」
「何をやっておるのじゃ。さっきまで妾達に話しておったようにすればよいのじゃ」
そんなリドルの態度にマオが元に戻すように言ったのだ。
「そんなの無理に決まっているでしょう。相手は女王様なのよ」
「じゃがお主もノームの女王になるかも知れぬのだぞ?なら対等の立場じゃろ」
「?。さっきは弱小貴族と言っていなかったか?それがなぜ女王になるのだ?」
マオの言葉に首を傾げたのはヒルダとリドルだった。
「間違ってないよ。リドルは王族を捕らえた後に立って、ノームの女王になってもらう予定だからね」
大輝の言葉を聞いてリドルはただただ驚き、固まってしまっているのだ。




