81話 同盟交渉
81話 同盟交渉
翌朝、食事を食べに行こうと一階に降りた所でエリーヌとばったり会った。
「おはよう、エリーヌさん」
「あ、大輝ちゃん、マオちゃんおはよう。…マオちゃん昨日は大丈夫だった?」
挨拶を交わしたエリーヌはなぜかマオの心配をしていた。
「…昨日マオに何かあったの?」
「何でもない!何もなかったのじゃ!」
僕の問いにマオは慌てて何もないと訴えた。
「昨日、長くお湯に浸かっていてフラフラになってたのよ。フフフ」
エリーヌは昨日の事を思い出したようで、笑い出した。
「笑うでない!そう言うお主だってフラフラになるまで入っておったじゃろ!」
どうやら2人共長湯してしまったようだ。
「どうやら満足の出来のようだね」
「大満足ですよ。今後はきっと大変ですよ~、次にお二人が来た時は予約がないと泊れないほど、大繁盛してると思いますから今の内にお風呂を満喫してくださいね」
余程嬉しかったのか、マオに自慢するようにエリーヌは言って来た。
「フフフ、お主は一つ忘れておらぬか?あれを作ったのは大輝じゃ。大輝がその気になれば湖の様なお風呂や滝があるお風呂を作るのも、可能なのじゃ!もちろん妾専用じゃがな」
それに対抗するようにマオも胸を張って言い返していた。
「湖の様な大きなお風呂!滝があるお風呂!それは素敵ですね!今度是非ともうちに作ってください!儲けが貯まったら土地を確保して待っていますから!」
エリーヌはマオの言葉を間に受け、その夢のようは話を目標としたようで目を輝かせていた。
「ちょっと2人共、話を大きくし過ぎだよ。だいたい滝や湖みたいなお風呂ってやり過ぎでしょ!」
確かに可能な事ではあるけど………家を持ったら作るのもありかな。
「…その顔は本当に可能なんですね。本気で期待して待っていますから、たまには顔を出して様子を見てくださいね」
「…僕って顔に出ていた?」
僕が出来ると思った瞬間がエリーヌには分かったようで、自分は顔に出やすいのかと思ってしまったのだ。
「確かに話し終わった後に微妙な変化はあったが……昨日今日で見抜ける変化ではないと思うぞ」
つまりマオにも、バレているって事ですね…
「それでエリーヌは朝からどこへ行くの?」
エリーヌの格好は既にしっかりしており、外に出かけるのは明らかだったのだ。
「もちろん宿の宣伝ですよ!ここは町の中心からは外れていますけど、外から来る人は一番最初に見かける宿ですからね。
その人達の耳に入れば、用事で中心に来ている人達にも聞こえるはずですからね」
それではと言い残し、エリーヌは外へ出ていった。
「あの行動力と発想力、洞察力があれば本当にお客さんで一杯になるだろうね」
「たまに出るおっちょこちょいさえ、なければ町一番になる日も近いじゃろうな」
この二人の予想通り、数日後には国中に存在が広がり、エリーヌの頑張りとは別の所から話を聞いた女王も来る事になるのだった。
その話題から国一番の宿となった事で、お風呂を作った伝説の建築は誰だと、他の宿が血眼になって捜す事になるのだった。
そんな騒ぎに巻き込まれるとは想像もしていない二人は、のんびり朝食を食べていたのだった。
「そう言えば、この後冒険者ギルドに登録しておこうと思うんだけど、どうかな?」
大輝達には現在、身分を証明出来る物がまったくなかったのだ。その事を思い出した大輝は、昼までの時間に登録を済ませておこうと考えたのだ。
「確かにいつまでも薬草拾いで、生活する訳にもいかんからのう」
マオの了承も得られたので、僕達は冒険者ギルドに向かったのだ。
「…不思議じゃのう…別の世界にいても冒険者ギルドは変わらないもんなんじゃな…」
マオがそう思ったのも仕方がない。二階建てで一階が、受付と飲み屋。二階は偉い人がいそうな形だったのだ。
「まあ細かい事はいいや。すみません、冒険者登録したいんですけど」
僕達は受付らしい所に行き、その旨を伝えた。
「おいおい、ここはお嬢ちゃん達みたいなのが来る場所じゃないぞ。悪い事は言わないから、働く場所はちゃんと考えた方がいいぞ」
受付のおっちゃん〈オロン〉さんは、予想通りすんなりとは登録してくれなかった。
「こう見えてもノームから、二人で来る事が出来るくらいの実力はありますよ」
「その話だけでは保証にはならない。すまないが試験を受けてもらおう。…そうだな〈クリフ〉相手をしてやれ」
そうオロンが呼ぶと、クリフと思われる人が歩いて来た。
「コイツはクリフ。コイツから一本取れたら認めてやろう」
「僕が胸を貸してやるから、遠慮なくかかって来てくればいい」
見た目で舐めているのか、クリフと呼ばれた男は前髪を手ではらい、僕達の事を見ていた。
「……なら、遠慮なく…」
その言葉が終わると同時に、背負っていたオメガをクリフの首筋に当てた。
「動くと切れます」
その一言を聞き、クリフはやっと事態を把握する事が出来た。
「…いったいいつの間に……」
「別に普通に抜いただけですよ。あと、後ろにも下がらないでくださいね。…心臓が串刺しになってしまいますよ」
首筋に漆黒の剣が当てられている為、気がつかなかったが、背中にも一つ刺さるような感覚があるのが分かったのだ。
僕の目を確認した後、ゆっくり後ろを見ると、先程まで正面にいたはずのマオがいたので、口を閉じる事も出来ないくらいに驚いていた。
「すみません。時間がなかったもので、手早く終わらせてもらいました。……これで合格でいいですね?」
大輝がゆっくりとした口調で話したが、受付のオロンはもちろん、他の冒険者も現実を受け入れれずに、ただ呆然と見ている事しか出来なかった。
「オロンさん、オロンさん。起きてください」
僕は呆然としているオロンさんの前に移動して、肩を叩きながら声をかけた。
「あ、ああ、合格だ。すぐにカードを発行するから待っていてくれ」
今だぎこちなさが残る動きだが、習慣から何とか行動出来ている感じのオロンさんは、暫くしたら二枚のカードを持って帰って来た。
「これがギルドカードだ。依頼を受ける時にこれを見せれば、どの国の冒険者ギルドでも依頼は受ける事が出来るから失くさないようにしろよ。失くして再発行するには、罰金として20万ゼニー掛かるから気をつける事だ」
「ありがとうございます。…さあ、マオ。そろそろ約束の時間だから行こうか」
今だ茫然としている周囲の冒険者に見つめられながら、僕達は冒険者ギルドを出て行くのだった。
「さて、何人待っておるかのう」
約束の時間に近づいていたので、冒険者ギルドを出てすぐに建物の陰に入り女王の寝室に転移した。
「あれ?まだ誰もいないようだよ」
周囲を見回してもヒルダどころか人1人もいなかったのだ。
「まだ時間が早かったかな?……それとも交渉失敗だったのかな」
「それはないと思うが、…寝室が交渉の場と言うのが不味かったかのぅ」
普通に考えて一国の女王との交渉を、その寝室で行うのは非常識だよな…
その時急に扉が開き、数人の黒尽くめの男達が襲いかかってきた。
「なんじゃ?不審者と思われたか?」
そう冷静に言いながらマオは男達の剣をかわしている。
「どうだろう。もしそうなら兵士が来ると思うからね。多分、この国の暗殺者ってところかな」
2人はまるで危機感を感じていないような余裕さを見せている。
「どうしようね…。無駄に殺すのは気が引けるし、とりあえず拘束するよ」
そう言って武器破壊を行い、剣を突き付けて降伏を勧めた。
「そこまでだ!お前達、自分達の不甲斐無さが分かったならさっさと出て行け」
その声の主、ヒルダは入口に立っていた。
「それでどういうつもりじゃ?もし本気ならとことん付き合うぞ?」
マオはやや怒気を込めて問いかけた為、ヒルダは冷や汗を背中にかきながらも、出来るだけ平然を繕っていた。
「すまんすまん。一部の者にお前達の事を話したら、その実力を信じられないと言われてな。仕方なく襲わせる形で実力を試させてもらったと言う訳だ。だが、実力は確認出来たな、大臣よ?」
そのヒルダの後ろから初老の男が1人姿を見せた。
「すみませんでした。寝室に侵入してくる者がいると言われても、そんな者達を信用出来る訳がなかったのです」
そうだよなぁ。最初も寝室にアポなしで侵入しているし、間違いなく不審者だよね。
「まあ、この警備の中をすんなりここに来た事を考えると、私の言った事が全て真実と証明出来たはずだ。そうだろ大臣よ」
大臣と呼ばれている男は何も言えず、ただ静かに頷いていた。
「警備って何の事です?」
「ああ、お前達が消えるように帰って行った事を証明する為に、この部屋の周辺には大勢の兵士が待ち構えさせていたのだよ。騒がれずにここに来るには、また突然現れないといけないからな」
「…転移の事まで話していたんですか…」
そんな事を他の人に言ったら、間違いなく頭がおかしくなったと思われるよ。
「そこまでする必要があったのかのう。お主が胸にしまっておけば済む話じゃぞ?」
「ただ会うだけならそれでも良かったのだが、今回はミスリル鉱石を持ちださねばならなかったからな。最低でもそこにいる大臣には、話を通さなければならなかったのだよ」
ヒルダの話を聞くと、ミスリルは国でも貴重な鉱石のようだな。
「それでその後ろの箱にミスリル鉱石が入っているのですね」
ヒルダ達の後ろには不自然な箱が置いてあったので、嫌でも目に入っていたし、話の流れからミスリルで間違いないのだ。
「そう言う事だ。では早速作業に取り掛かって欲しい。実を言うと私はこの時が楽しみで、昨日まともに寝れなかったからな」
確かに良く見るとヒルダの目の下にはクマのようなのが見えたから、寝れないほど興奮していたのは事実のようだ。その様子を見ていて、僕は今後の事で一つ諦める覚悟をしていた。




