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80話 交渉

80話 交渉


「騒がしいな。いったい誰の命を受けてこんな事をしておるんだ?」


ヒルダは凛とした態度で、怯まず対応している。


「俺達はノームからお前を殺す為に選ばれた精鋭だ。覚悟してもらおう」


「なるほど。……どうじゃ?女王の命を守ったとなれば、交渉の道具として使えると思わんか?」


「誰に言っているんだ?恐怖で頭がおかしくなったか」


確かに交渉の材料になりそうだな。


隣にいるマオも頷いてくれている。…今、僕達は部屋の隅で兵士と一緒に隠れているのだ。


「それじゃあ、お別れだ」


そう言って男は一歩踏み出した。…そしてその一歩が最後の一歩になった。


守ると決めた大輝達が隠れるのをやめて飛びだした時、決着は付いていた。そして室内の異変に気が付いた2人が入って来たら、大輝達に気を失わされていた。


「事情を確認するのは2人でいいよね」


「あ、ああ。十分だ。助かった」


ヒルダは2人の実力を見誤っていた。実力者だとは思っていたが侵入者と同じくらいだと思っていたのだ。しかし蓋を開けてみると勝負は一瞬で付く圧勝だった。

しかも2人は気を失わせただけで済ませる事が出来ているのだ。この侵入者でさえここまで来れたのだから、それ以上の2人がその気になれば同じ事を楽に出来た事になるのだ。


「しかし、見返りを用意するのを忘れるなんて。普通に考えれば常識だったのに」


「うーーん……いっその事この城にも湯浴び場でも作るか?あれの気持ち良さで懐柔するのはありじゃと思うぞ」


2人はさっきの侵入者の事がまるでなかったかのように、先ほどの事を悩んでいる。ヒルダはそんな状況を見て呆れていた。


「物、物か……。僕の作った属性刀なんかどうだろう。ヒルダ様、珍しそうな武器って交渉材料になりませんか?」


一応敬語を使っているが、王族と話すには足りない所が多かった。


「あ、なんだ?すまない聞いていなかった。もう一度言ってくれないか」


「えーと、珍しい武器って交渉材料にならないかなーて聞いたんです。これなんですけど」


そう言って大輝は前に使っていた属性刀をヒルダに渡した。


「ほう、確か刀と言うのだったな。…ふむ、なかなかの武器だ。しかし刀は珍しいがそれだけでは足りないぞ」


「それは属性刀じゃ。魔力を流せば火などを纏わせる事が出来るのじゃ」


「火をそれは凄いな。どれ!」


ヒルダは魔力を流し、刀に火を纏わす事が出来ていた。そして火の形も変えて見せていた。


流石は攻撃魔法のある世界だな。火のイメージを上手く操っているようだ。


「これは凄い武器だ。こんな武器はダンジョンの深い所で発見されるレベルだぞ」


火を自在に操りながらヒルダは興奮していた。


「…なぜ火しか出さないのじゃ?」


マオは一向に火しか出さない事に首を傾げていた。


「?。火の属性刀じゃないのか?」


ヒルダもマオの言葉に首を傾げた。


「違うぞ。ただの属性刀じゃ。火だけではなく水、風、土に変えれるのじゃ」


「え!?そんな事が可能なのか?」


そう疑問に思ったが、ものは試しと水をイメージしてみると刀から火は消えて、今度は水を纏い始めた。


「うそ!?」


ヒルダは驚きながら風、土と変えていき、暫く眺めた後に落ち着かせるように鞘に刀をしまった。


「……………」


ヒルダは黙ってしまった。


「…あのーやっぱり武器では駄目ですか?お金が必要ならそれを売れば、少しは稼げると思うので暫く待っていてください」


やっぱり人を動かす以上はお金が必要だよな。


そう思いながらヒルダの前に置いてある刀を取ろうとすると、ヒルダの手が動きそれを遮ってしまった。


「…あのー……」


「これで十分だ!これは国宝と呼んでも差し支えない性能だ。しいて言えば元の材質が鉄と言うのが残念だが、それでも十分な性能を持っている」


「え!?鉄以上の材質があるんですか?」


鉄が残念と言う事はそれ以上の材質があると気が付いた。


「ああ、有名な材質としては<ミスリル>があるな。その上は伝説級の材質<オリハルコン>だ。この城にもミスリルの塊はあるが加工に手間が掛かるから、三か月に剣1つが限界なんだ」


そんなのが存在するんだ。


「ならミスリルの塊をもらえれば、能力を移動させれますよ。出来ればミスリル鉱山の位置も知りたいですけど」


「何を言っているのだ?」


ヒルダは大輝の言葉の意味が理解出来なかったようで、首を傾げている。


「え、ミスリル鉱山で僕も採掘をしたいなーて思ったんですけど、……やっぱり駄目ですか…」


「いや、違う。その前だ」


「能力の移動ですか?まー、一から作り直すのも可能ですが、魔石を移す方が楽ですからね」


「……確かこれを作ったのはお前だったな。能力の移動する方法など、想像もつかないが…出来るのならぜひともやってもらいたい」


そう言いながら僕の作った刀を眺めている。


「なら、ミスリルの塊を用意してください」


ミスリルの塊を受け取ったら、早速作業をしようとしたが城の下の方が騒ぎ出した。


「どうやら今日はここまでのようだな。どうする?このままここに残って、皆に紹介をするか?」


今ここに残るなら身の安全は保障すると言われたが、注目を浴びるのは明らかな為遠慮したいのだ。


「…今日は帰ります。明日、空いている時間はありますか?」


そう話している間も足音は近づいてくる。


「明日の昼頃に一度空く時間がある」


「ならその時間にこの部屋に、出来れば少人数で来てください。僕達もまたここに来ますから」


「それは構わぬが、その必要もないんじゃないか?兵達がすぐそこまで来ている以上、ばれずに逃げるのは不可能だぞ?」


足音は既にこの階に来ているので、大輝達が扉を出れば鉢合わせになるのは確定なのだ。


「大丈夫ですよ。それじゃあ、夜分に失礼しました。…ではまた明日」


そう言って僕は転移の宝玉を取り出し、泊っている宿に向かって転移した。


「な!?」


ヒルダは驚愕していた。先程まで話していた相手が、まるで最初からいなかったように消えてしまったのだ。


「…馬鹿な…私は夢でも見ていたのか?」


「ヒルダ様!ご無事ですか!」


ようやく駆けつけた兵士はヒルダの無事を確認できて安心していた。


「流石はヒルダ様!賊共を無事撃退したようで安心しました。…ヒルダ様、珍しい武器をお持ちですね。ですが鉄で出来た安物の武器は貴女様には相応しくありませんよ」


兵士はヒルダの持つ刀を見て、見る目がないと自分で言っているような発言をしていた。


「これが手にあるという事は先程の者達は夢ではないのだな」


ヒルダは持っている刀を目の前に掲げて、兵士達には聞こえない声で呟いた。


「まあよい。明日になれば全てがハッキリするだろう。……ククク、女王の立場になって初めてかもしれないな、こんなに待ち遠しいと思う気持ちになったのは」


そう言って兵士達の前だというのに笑いを堪え切れなかった。


「ひ、ヒルダ様?」


その様子に兵士達は皆、戸惑っていた。


「ああすまない、こっちの話だ。それよりそこに2人生け捕りにした奴がいるから、詳しい事情を聞き出せ」


「は、はい!」


笑っていたのが嘘のように、急にいつもの様子に戻ったヒルダに兵士達は慌てて返事をし動き始めた。


「あ、あれ?これって…」


「おい、こっちの奴も同じだぞ。どうなっているんだ?」


気を失っている賊を連れて行こうとしていた兵士達は、族の腕を見てざわめいていた。


「なんだ!何か問題でもあったのか」


ざわめいていた兵士達を不思議に思い、ヒルダは様子を見に行った。


「…いえ、その……ヒルダ様、いったいどうやって賊を拘束したんですか?」


「?」


騒ぎの元となっている賊の腕を見てみると、そこには両手首を拘束するように鉄のリングがあったのだ。ただそれが鎖などで縛っているなら驚く必要はなかったのだが、目の前には賊の手首にピッタリのサイズでしかもつなぎ目のない、一個物のリングだったのだ。

この状態を作るには生身で融けている鉄に耐えて、型にはめリングを作る方法しかないのだ。


「なるほど、方法は分からぬがこれくらい出来る者でなければ面白くない。ククク、ますます明日が楽しみになって来たぞ」


その夜、城の中ではヒルダの笑い声が響きわたっていた。



「とりあえず、交渉は成功したのかな?」


泊っている宿の部屋に転移した大輝達は、先程までの事は話していた。


「まずまずと言った所じゃろ。ヒルダには命を救った恩と、国宝になるとまで言わせた武器、ミスリル製の武器に能力を移すという技術への興味を持たせる事に成功しておる。3つも会う理由がある以上、間違いなく昼に行けば会えるじゃろう」


マオは自信満々に今回の事を成功と断言してくれたのだ。


「そっか。なら明日に備えて寝ようか?」


「妾は一度湯浴びをしてから寝るとするので、お主は先に休むがよい」


マオは昼間に作ったお風呂が気になっていたようで、さっそく入りに行くと言ったのだ。


「分かったよ。でもお湯に長く浸かり過ぎると、のぼせてしまう時があるからほどほどにね」


「うむ、了解なのじゃ」


そう言ってマオは足取り軽く、お風呂に向かって行ったのだった。


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