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78話 宿屋改築

78話 宿屋改築


「いい加減にせんか!!!!!」


布団の中で丸まって隠れている大輝に迫っている裸のエリーヌ。

そのエリーヌをマオはジャンプして後ろから後頭部にチョップ打ち込み、前のめりで倒れて行く。


「お主は今の恰好で宿を歩くなど何を考えておるのじゃ!」


「い~た~い~…あ!?服を着て来るの忘れてた!」


「忘れてたではない!服を持ってきたからさっさと着ないか!」


そう言って舌を出してごめんと言いながら服を着出した。…まるで反省を感じなかった。



「えーと、あらたまって言いますが、水浴び場で使っていた道具を譲ってください。お願いします」


服を着て落ち着きを取り戻した事を確認した大輝は、布団から出てきてマオとエリーヌの前に座り話を聞く事にした。事情はマオからある程度説明を受けた。


「……ハッキリ言うけど、この道具に使っているのは火の魔石で、この世界にはほとんどない材料を使っているんだ。マオにも言われたと思うけど、貴重品を皆が使える所に置くのは管理が不可能に近いよ?」


「それについては考えがあります。まず水のたまり場には鉄格子などを利用して取れなくします。あと部屋の温度を上げる道具は壁の中に埋め込む事で、姿を見えなくします。壁の上下を少し開けておけば流れが出来て効果は損なわれませんし」


さっきまで裸で迫って来た人と同一人物とは思えないほど、しっかり考えている事に驚いていた。


「でも、仕組みを教えろと脅されたら?」


「知らないと。謎の建築家が作ってくれたから、私達には想像も付かないと言い回っておきます。この世には仕組みは分からないけど便利な道具はいくらでもありますから、不自然ではありません」


確かに薬草なんかは広まっているけど、どうやって体を治しているかは分かっていないのだ。


「……大輝よ、お主の負けのようじゃな。さっきまでのドジが嘘のような考えの深さがありそうじゃ。おそらく妾達が何を言っても言い負かされてしまうじゃろう」


「それなら!」


エリーヌは満面の笑みを浮かべていた。


「……はー…分かったよ。僕の負けだ。その魔道具は譲るよ」


「ありがとうございます!では早速改築業者に頼みに行ってきます!」


そう言って外へ出ようとしたエリーヌを大輝は止めた。


「ちょっと待ってエリーヌさん。改築も僕がやるから。知り合いの改築屋に任せたらさっき言ってた謎の建築家って説明が駄目になるよ…」


「あ!そっか。でも貴女は大工さんなんですか?」


「僕は旅人だよ。冒険者登録はしようと思っているけどね。でもそれくらいの事は出来るから任せてよ」


「でも、貴女達は明日にはこの国を出て行くのでしょ?もう暗くなって来てるから時間がそんなにないですよ?」


エリーヌは大輝達の所に戻って来て話を続けた。


「それに工具や材料も買って来ないといけないし、やっぱり無理ですよ」


「まあ、大輝に任せておけばすぐじゃ。お主はどのような水浴び場にしたいか図を書いて教えるがよい。多少無茶と思われるくらいの事なら何とかしてしまうからのぅ」


多少の無茶がどれくらいかは分からないのだからあまり大きい事は言わないで、と思いながらも無理ならごめんと言えば済むと考え、ため息を吐きながら了承した。



その後すぐにエリーヌは図面を持ってきた。速攻で考えたにしては完成度が高い事から、水浴び場の改築案は昔から考えていたようだ。


今は一部屋しかない脱衣所と水浴び場を、真ん中で仕切りを入れて男女に別ける。水を引いてくる所も二つに別ける必要があるから、基礎からの作り直しが発生する。

これを一日で終わらせるのは、普通の人では少しぐらいの無茶では済まないレベルだ。


「どうかな?貴女の自信から実力を想像してこれぐらいかなって線を引いてみたんだけど」


これはまいったね。根拠もなく相手の実力を見抜くって、エリーヌってもしかして天才!


マオも同じ事を考えていたのか驚いているのが分かった。


「ふー…まいったね。……分かったよ、すぐに作業を開始するよ」


「え!?本気でやれるの?冗談半分で話したつもりなんだけど」


やる気になって現場に向かおうとしている大輝に、エリーヌがやや驚いた感じになっていた。


「不可能ではないよ。でも、作業の様子は見せれない。後から変更は可能だから、終わってから見てその都度調整して行く感じでいこう」


それだけを言って大輝は脱衣所に入って扉を閉めた。


「本当に1人でやるつもりなの?」


エリーヌは同じく外で待っているマオに、脱衣所の方を指を差しながら聞いて来た。


「大丈夫じゃ。おそらくそろそろ出て来るはずだからな」


「はい!?…そろそろって今さっき入ったばっかりだよ。まだ1分ぐらいしか経っていないんだよ」


マオの言葉にエリーヌは意味が分からなかった。入ってすぐに出てきて何が変わるのって気持ちでいっぱいだった。


そうしてマオの言葉通り大輝が出て来た。


「一応言われた通りにしたつもりだけど、どうかな?確認よろしく」


「嘘!?だってさっき開始したばっかりだよ!」


「まあ、突貫作業だから細かい所は後で何とかしてよ」


そう言われてエリーヌは背中を押されて中に入った。

そして、中に入って驚いた。脱衣所はエリーヌが書いた絵と同じに代わっていたのだ。


「…本当に終わってる……まさか水洗い場も!?」


そう言って奥に入るとそこも頼んだ通りになっており、あただかくなって来ているのでさっき作業が終わったのは間違いがないのだ。

そうして、大輝達の所に行こうとしてまた驚かされた。入口の扉がちゃんと二つに代わっているのだ。


「ハハ……もうなにから驚けばいいか分からないよ………こうなったら今まで不可能だと思っていた事をやって貰おうかな……フフフ、覚悟してね。た、い、き、ちゃん!」


エリーヌは吹っ切れたか夢だと思っているのか分からないが、驚き過ぎてどこか変になったように笑いだし大輝の肩を掴んだ。


「こ、怖い!マオ、助けて!」


「無理じゃ!このような状態の者を止める方法は妾には想像もつかん!」


大輝達はそのままエリーヌの考えていた物を、不可能だった所は魔石でカバーしながら造らされていった。



「完璧よ!これでこの宿の特徴とも言える施設が完成したわ!多分夢だけど、私は満足してるわ。この夢だけで私は大満足よーーー!」


どうやらエリーヌは夢だと思っているようだ。

しかしこれは現実で、水浴び場だった所は既に立派な浴室へと変わっていたのだ。しかもシャワー付きという状態だ。

この世界ではお風呂に入るという習慣はなく、冬場でも水浴びをして体を洗っているのだ。

そんな中で自由にお湯が使えて、尚且つ湯舟という前例のなかった物を考え付いたエリーヌはやはり天才なのかもしれない。


そのエリーヌは只今トリップ中だが……


そんなエリーヌが現実に帰って来たのは、道具屋の店主で宿屋の女将であるエリーヌの母親の鉄拳を受けた後だった。


「まったく、お客様の前で何を騒いでいるのやら……すまないね。娘が騒ぎ出して」


「いえ、……僕達にも責任がない訳ではないので、気にしていません」


そう言って一概にエリーヌだけの責任に出来ない2人は、浴室の方を見て反省していた。やり過ぎたと。


「は!?…お母さん!せっかくいい夢を見ていたのに起こさないでよ!」


エリーヌは目を覚ましたが覚めていなかった。


「まったくこの子は……夢は良いから顔を洗って目を覚まして来なさい!」


「はーーい」


そう言ってエリーヌは浴室に入って行き、また叫んだ。


「夢じゃなかったーーー!!!」


「またあの子は!」


女将もエリーヌの方へ歩いて行った。その様子を見ていた大輝とマオは、


「…大樹よ、夕飯でも食べに出るかのう」


「…そうだね。また巻き込まれそうだし、ほとぼりが冷めるまで外に行こうか」


2人の意見は合致したので、エリーヌが出て来る前に慌てて外に逃げて行った。その背後で2人の揉めるような声が聞こえたが、聞こえないふりをする事にした。



近くの食堂で食事をして、武器屋などを見て時間をつぶした後こっそり宿に帰ってきたが、部屋の前にいた女将にあっさり御用となった。



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