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70話 黒い獣

70話 黒い獣


「これで仕舞いじゃな」


声の先には華麗に細剣を握っていたマオの姿があった。


「マオちゃん!?」


レッドスライムが消滅した先に立っていたマオにミミが気が付いて、ビックリしたように勢い良く立ち上がりマオの名を呼んだ。


「無事で何よりじゃ、ミミよ。怪我などはしてはおらぬか?」


「うん!大丈夫。他の人が守ってくれてたから、怪我とかはないよ」


ミミはマオに心配ない事を見せるように、飛び跳ねたりして見せた。


「ミミ!」


遠くからワンスさんが声を掛けて走り寄って来た。


「おじいちゃん!」


「ミミ、大丈夫か?怪我はないか?レッドスライムがここに現れたのじゃ。早く安全な所に避難しなさい」


ワンスさんはミミの体を確認してから、安全な場所へ避難を勧めていた。


「おじいちゃん、もう大丈夫だよ。レッドスライムは今、マオちゃんが倒してくれたもん」


ミミは駆け寄るようにマオの隣に行き、既にここが安全になった事を教えてあげた。


「マオ君?君はディーナに行ったんじゃなかったのかね?……いや、その前に礼を言うのが先決じゃな。マオ君、それに君もミミを助けてくれて、そして村人の脅威を祓ってくれてありがとう」


「僕もマオも、ワンスさんにはお世話になりましたし、これぐらい当然ですよ。それにしてもいったい何が起こっているんですか?」


大輝の言葉に少し首を傾げているが、ワンスさんは原因を話初めてくれた。


「実は数日前の事なんじゃが、南の方から突然黒い獣が現れて村で暴れまわったのじゃ。その動きは早くて力強く、村の者じゃ手に負えなくてな。それでノームの国に討伐を頼んだところ、昨日の昼頃、兵士達がこの村に来てくれて黒い獣と戦ってくれたのじゃ。

しかし、兵士は数人を残して全滅。黒い獣も村中に火をつけてまわったのじゃ。

今はおそらく南の洞窟周辺にいるとは思うが、手も足も出せずにいるのが現状じゃ」


ワンスさんは疲れ果てているようだ。おそらく避難民の対応と兵士達が敗れた事による動揺を抑える為に、奮闘していたに違いないのだ。

そんなワンスさんをミミも心配そうに見ていた。


「そういう事なら、次は僕達が様子を見てきますよ。そして倒せそうならそのまま退治までしてきます」


大輝もワンスさんの様子が気になっていたのだ。このまま行くと過労死でもするんじゃないかと、思ってしまうほど顔には元気がなかったのだ。


「しかし、見ず知らずの者にいきなり頼む訳にはいかぬ」


ワンスは巨大な敵に、女の子2人を向かわせるのに抵抗があったのだ。


「見ず知らずって何を言っているです。ワンスさん、僕ですよ。大輝ですよ」


大輝は笑いながら話をした。


「大輝?。大輝君は男じゃぞ?君は何を言っておるのじゃ?」


「そうだよ。お兄ちゃんはお兄ちゃんなんだよ?」


ワンスさんもミミも100%信じてはいなかった。


「2人とも、大輝の言っておる事は真実じゃ。少し前にトラブルに巻き込まれてしまい、この姿になってしまっとるのじゃ」


マオが大輝の保障をしてくれた事が、それでも2人はまだ完全には信じきれてはいなかった。


「一概には信じられん事じゃが、嘘を吐く理由もないから真実なのだろう。だが2人がどれほど強くなったかは知りませんが、国の兵士でも敵わない相手じゃ。無理はさせられん」


大輝達の実力を知らないワンスさんは、ただ危険な相手だから無謀な事はするなとしか言えなかったのだ。


「でも、この子がお兄ちゃんだとしたら、凄く強くなっているよ。結構離れた位置からレッドスライムの動きを風の魔法で止めてたもの。それにマオちゃんも一瞬で、粉々に斬り裂いてしまったから大分強いよ」


戦いの一部を目撃出来たミミが、大輝達の実力が上がっているのを説明した。


「僕はこの世界でのレベルは15ぐらいですけど、前に話したもう1つのレベルは40を超えています。身体能力的にはレベル60以上ですから、そこら辺の兵士よりは全然実力も上のはです。だから、安心してくれませんか?」


実はレベルの合計は70を越えているけど、あまり高過ぎると信じられないだろうしな。


「60……別れてから、まだそんなに経ってないのに……」


ワンスは驚き過ぎて、後ろに倒れそうになっていた。


この世界では40レベルで凄腕の戦士、50レベルで一流、60レベルは世界でも数少ない人しかいない超一流なのだ。基本、レベルは上に行くほど上がり難くなるのが、人数が少ない理由なのだ。


「ワンスさん、大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫じゃ。そう言う事なら大輝君達に頼る事にしよう。だが、それでも2人で行くのは危険だと思うのじゃ。…明日、ノームの兵士達の増員が来て、もう一度攻撃を開始するらしいのじゃ。その中に混ざって戦うのはどうじゃ」


ノームの兵士もプライドがあるのだろうな。召喚奴隷も多く集めて総力戦を仕掛けるつもりかもしれないな。


「じゃが、国の兵士が集まる中に妾達が入れるとは思えんがのう」


「それは大丈夫だよ。オメガの魔法を使って、僕達の姿を兵士に見せるから問題ないよ」


オメガのブラックミストを使えば、兵士の姿に見せるのは楽勝だ。


「魔法で兵士に見せるってどうやるの?」


ミミは興味津津のようで、目をキラキラさせながら大輝を見ていた。


「こうやるんだよ。オメガよろしく」


そうオメガに頼んで魔法を使ってもらい、大輝はワンスの姿になった。


「凄い!?おじいちゃんが2人になった!そんな事が出来るなんて信じられない!」


ミミは驚いて興奮していた。


「まあ、こんな風に兵士に化けるつもりだよ」


大輝は元の姿に戻り、ワンスさんに方法を実演した。


「こんな事、風の魔法では出来ないはずじゃ。いったいどうやったんじゃ?」


「今のは僕のスキルではありません。この剣、オメガのスキルですよ」


そう言ってオメガを抜き、ワンスさんの目の前に見せた。その事を聞いて「何を言っているんだ?」って顔をされてしまった。…まあ、気持ちは分かるけどね。


「おう、今紹介されたオメガだ。よろしくな!」


「「え!?」」


ワンスさんとミミは、突然のオメガの声で目を見開き驚いてしまった。


「まあ、驚くじゃろうな。この者は魔剣オメガ、大輝と契約したのじゃ」


「魔剣……存在は聞いた事はあるが、実在するとは思わなかったわい」


珍しい物を見たと感心して、ワンスはオメガをじろじろ見ていた。


「まあ、そう言う事だから明日、兵士に混ざって討伐に参加するよ」


「分かった。よろしく頼むよ」


そうして大輝達は開いているテントを借り、一晩過ごしたのだった。




翌朝、昼前ぐらいになると、ノームの方から100人ぐらいの同じ鎧を着た集団と、その後ろに200人ぐらい軽装の男達が歩いてきた。どうやらワンスさんの言っていた国の兵士達のようだ。


「あれだけの数がおれば、妾達の出番はないかもしれんのぅ」


「僕もそう思うから、一番後ろにでも着いて行こうか」


「そうじゃな。国のプライドをかけた戦いに、妾達が横やりを入れるとその後に響くといかんからのう」


大輝もマオも同じ考えのようで、変装はやめてブラックミストで隠れて着いて行く事にした。



兵士達はそのまま村を抜け、南へ向かって行った。


先頭の兵士が目標を発見したと、報告が広がると軽装の男達が前衛を、揃いの鎧の集団が後衛と陣形を変えた。


「…これは召喚奴隷を前にした陣形…あんな軽装では死ぬ確率が高いだろうに」


大輝はこの陣形に疑問を持った。


「おそらく奴隷を使い捨てにして、傷ついた相手を兵士がトドメを差すつもりなんじゃろうな」


マオも呆れるようにこの陣形を見ていた。


そうして戦闘は始まった。


相手は黒い獣のようだ。ただ、その大きさが半端なかった。全長で20メートルはあり、口から炎を吐き奴隷達を焼き払っていた。


黒い獣の周りを囲むように戦い、少しずつだがダメージは与えているようだ。しかし、獣が手を振り下ろせば数人が倒れ、炎を吐けば十数人が炭となってしまった。


「進めーーー!!!トドメを差した者には褒美が出るぞ」


部隊長の様な一際立派な鎧を着た者が、奴隷を戦わせる為に物でつっている。


「なんじゃ、あの戦い方は!あれでは無駄に死体を増やしているようなもんじゃぞ」


マオが怒っているのも分かる。これは戦略とは程遠い、タダ前進のみの指揮だったのだ。


「流石にこれは酷過ぎる!オメガ、<ダークボール>を上空に!せめてあの炎だけでも食い止めて!」


そう言って大輝は黒い獣の上の方へ、黒い塊を放った。この塊は炎などを吸い込む効果があるので、相手が炎を吐いても上空へ向かうので犠牲者が減るはずなのだ。


もちろん、大輝達は姿を見せてはいない。兵士達も突然、黒い塊が浮かび上がったので動揺が広がっていた。しかし炎が吸い込まれるのを見てからは、チャンスと判断出来たようで黒い獣へ集中出来るようになって行った。


確かにやられるペースは遅くなっていた。しかしどう考えても倒すより、全滅の方が早そうに見える。


「…これでは撤退も時間の問題じゃな」


「この世界はポーションが普通にあるから、即死じゃない限りはまだ戦えるだろうけど……攻撃力がなさすぎる。ダメージが少な過ぎて、戦っている人の心が折れる方が先だろうな」


攻撃してもほとんどダメージがなく、軽く手で触れられるだけで腹が裂け、腕が吹き飛ぶ。…いくら治るからといっても、そんな状況で戦い続けようと思える人がいる訳がないのだ。


大輝達の予想通り、暫くしたら撤退の指示が出始めた。


「さて、皆が逃げ始めたし戦いを始めようか」


「そうじゃな。殿を務めてやるかのう」


そうして撤退を始めた者達を守るように、大輝達は姿を現し武器を構えた。


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