67話 時空転移の宝玉
67話 時空転移の宝玉
時空転移に必要な魔道具は完成した。後はこれに魔力を込めて貯める作業だった。
「一先ず完成したけど、これに込める魔力はほとんどないから続きは明日かな」
「しかし凄い物が出来たのぅ。確かにこれなら異世界にも行けそうじゃ」
マオは時空転移の宝玉を手に持ちながら感心していた。
「とりあえず移動は明日の午後になると思うから、今日はこの町でお世話になった人に挨拶でもしに行こうか?」
「そうじゃな、まずは何処に行くかのぅ。ここから遠い所じゃと、ヴァイオレットとシロップじゃな」
「…シロップの店は並ぶのが厳しいから諦めて、ヴァイオレットのギルドに行こうかな」
そうして大輝達はヴァイオレットのギルドに向かって行った。
「ヴァイオレットはおるかのぅ?」
ギルドの扉を開けてすぐ、マオは声を上げて中に入って行った。
「なんだお前達は?俺達のギルドに何の用だ!」
マオの言葉に反応したのは、マオ達と変わらないか少し年齢が上の子供達だった。
「なんじゃなんじゃ?なんで子供がこんなにおるのじゃ?」
マオが驚くのも無理はない。冒険者ギルドのはずなのに、そこにいたのは十数人の子供達だったのだ。
「子供って言うな!見た所、お前等の方が子供だろが!ここは冒険者ギルドなんだから、お前等みたいなのが来る所じゃないんだぞ」
ここにいる子供の中で最年長と思われる子が、代表して大輝達に詰め寄ってきた。
「妾達は冒険者じゃ。今日はヴァイオレットに用があってここに来たのじゃ」
「嘘を吐くな!それに僕達のギルドマスターを呼び捨てにするな!」
目の前の子の言葉に同調して、他の子供達も一緒になって騒ぎ始める。
この状況は収集が着きそうにない。ここは大人の僕が見本を見せる時だな。
「マオ、相手は子供なんだから、もう少し優しくしてあげた方がいいよ」
これが大人の対応かは分からないが、下手に出る事にした。
「大体武器も持たない女と、武器を持っていてもそんなに腰が低い女が、冒険者のはずがないだろ」
「腰が低い女!?」
大人の対応をしたつもりだったが、子供達の前では通用せず、大輝はショックを受けた。
「……なるほど、お前達はヴァイオレットが言っておった、魔族の子供達じゃな?…しかし、冒険者としてやっていけたので調子に乗っておるようじゃな」
「…だからなんだ。俺達は今はまだ10級だが、すぐにでも上にいける実力を持っているんだ。馬鹿にすると、痛い目をみせるぞ!」
マオの言う通り、自分の食扶ちを自分で稼げるようになった事で、気持ちが大きくなり過ぎているようだ。このままの状態を続けるのは、将来に良くはない。ここらで修正が必要そうだ。
「そこまで言うなら僕と勝負をしようじゃないか。僕も今は10級の冒険者だ。資格だけは互角のはずだよ」
そう言って大輝は10級の表示がされているギルドカードを見せた。
「……確かに本物のようだな。だけど俺は女とは戦わない」
ただの乱暴者かと思ったが、予想外にプライドは高いようだった事に大輝は感心した。
「戦いじゃなくて、訓練ならどうかな?ハッキリ言って、僕は君達全員を同時に相手しても勝つ事が出来るほどの実力者だよ」
「とてもそうは見えないぞ」
大輝の言葉に少し戸惑っている子もいたが、先ほどの腰の低さが影響してか信じてはくれなかった。
「それは君達の腕が未熟の証拠だよ。…さあ、地下の訓練所に行こうか?そこで証明してあげるよ。あ!もちろんここにいる全員で来てよ」
そう言って大輝はさっさと地下に降りていった。
子供達も最初は戸惑っていたが、1人が向かうと我も我もと歩き始めた。
「さて、どこからでも掛かっておいで。もちろん武器を使ってで構わないよ」
「…お前は背中の剣を抜かないのか?」
一向に武器を抜かない大輝に先ほどの年長者が声を掛けてきた。
「僕がこれを抜いたら危ないからね。非常時以外に抜くつもりはないよ」
大輝の言い方が悪かったのか、子供達は背中の剣を大輝が扱いきれていないと解釈してしまっていた。
「なら余計に手は出せない。無手の女に剣で向かうなんてズル過ぎるだろ」
「…大輝よ、これを使うがよい」
そう言ってマオは、自分の細剣を大輝に渡した。
「なるほど、これで君達の言う無手の相手ではないよ。さあ、相手をしてあげるから掛かっておいで」
右手で剣を持ち、スラリと地面に向け左手で手招きをする姿は様になっていた。
「……怪我をしても知らないからな。…いくぞ皆!」
そうして一斉に向かってきた。もちろん子供達の武器は銅の剣だ。銅の剣に対してマオの細剣で真剣に戦うと、一発で武器破壊が出来てしまうのであえて、斬れない側面で受け流していた。
子供達の振るう剣はやはりシロートに毛が生えた程度の物で、大輝にかする事すら出来ないでいた。次々と受け流していく大輝に、子供達の体力は限界になっており、1人、また1人と地面に座り込む子達が出てきた。
そんな状況に痺れを切らして、火を放てるであろう子が大輝目指して放ってしまった。
「それは不味いな…」
今の大輝の足元には体力が切れてしまっていた子供達がいたので避ける事も出来ず、仕方なく大輝はオメガを一振りし、放たれた火を掻き消してしまった。
「す、すげえ………」
今の火を掻き消した一振りを見ていた子供達は、それぞれが感動して目には憧れを秘めた熱い眼差しで大輝を見ていた。
「どうする、まだやるかい?」
オメガを肩に担ぎ、まるで何事もなかったように振り返る。
「いえ、俺達の負けです。相手をしてくれて、ありがとうございました!」
大輝の問いに子供達は実力の差を感じ、素直に負けを認める事が出来たのだ。
「どうじゃ、上には上がいる事が分かったであろう。見た目だけで判断する内は一人前とは言えぬからのぅ」
決着が付いた事を悟り、マオがゆっくり歩いて来た。
「相方が凄いのは分かったが、お前はどうなんだよ!」
大輝には懐いたが、マオにはまだ反抗的だった。そんな様子を見て、マオは水の手でこの子を持ち上げた。
「な!?何なんだよこれは?まったく動けないし、俺、浮いてるよ」
突然水で動きを封じられて、宙に持ち上げられ混乱していた。
「あーマオは5級の冒険者だから、怒らせると怖いよ」
大輝の言葉に、掴まっている子を含めて全員が驚いていたのだ。そうして掴まえていた子も離してあげた。
「これで分かったであろう?今後は相手の内面を見る努力もする事じゃ」
「「「「「はい!」」」」」
子供達には既に2人は憧れと目標に変わっており、マオの言葉にも素直に返事をしたのだった。
「それではヴァイオレットが何処にいるか、教えてもらおうかのぅ」
「ギルドマスターは今、買い物に出ています。恐らくもうそろそろ帰って来ると思います」
この子はマオに宙釣りされた事もあり、言葉使いと態度が礼儀正しくなっていた。
「ホールに誰もいないと思ったらここにいたんですね。どうしたんですか皆して?」
噂をすれば何とやら、買い物から帰って来たヴァイオレットが、上から降りて来たのだ。
「おお、ヴァイオレット。帰って来たか」
「あれ?大輝さんにマオさんが、どうして子供達と訓練所にいるんですか?」
子供達に中に大輝達がいたので、声を掛けられるまで気が付いていなかった。
「ギルドマスター、この子達と知り合いなんですか?」
自然に話をするヴァイオレットに、2人との関係が気になったようだ。
「ええ、…そうですね、紹介します。大輝さんとマオさんです。この2人が前に話していたお金を出してくれた人です。そしてクリスタルドラゴンを倒し、この前のワイバーン襲撃で半分以上を退治した人達でもあります」
ヴァイオレットは普通に紹介していたが、子供達は普通ではいれず、驚きが一気に広がって行ったのだ。
金策に苦労していたこのギルドを、救ってくれた人がいたのは聞いていた。しかし自分等とそんなに代わらない年齢の女の子だとは思ってもみなかったのだ。
それにクリスタルドラゴンやワイバーンと言った、凶悪なモンスターを倒したとなると、ただのお金持ちの子供と言う訳ではない証明なのだ。
その事が分かってしまった子供達には、2人を見つめながら先ほどの実力が本物だと分かったのだ。
「それで私にどのような用事が?」
「実は暫くこの国を出て旅に出る事になったのでな。その挨拶回りじゃ」
大輝達はヴァイオレットの前にまでよって行き、ここに来た理由を話した。
「旅…ですか?依頼などではなくて?」
冒険者なのだから依頼で遠出をする事もあるが、わざわざ挨拶周りをするほどの旅となると疑問も出るのだった。
「そうじゃ、妾の生まれ故郷に行ける事になったのでな。じゃから暫くは帰っては来れんのじゃ」
「そんなに遠くに行くんですか。目的地は何処ですか?そこに冒険者ギルドがあれば、連絡を付ける手段は幾つかあるので」
「目的地はエルグラウンじゃ。しかし冒険者ギルドはあるが、連絡を付ける事は出来ん。じゃから挨拶回りをしているのじゃ。リリィと協力してギルドを守ってくれよ」
ヴァイオレットの問いに、残念そうな顔でマオが答えてあげた。
「エルグラウン?聞いた事もないですね。それに連絡も着かないギルドは存在しないはずですが……いったい何処に行く気なんですか?」
各国の冒険者ギルドは、緊急時などに連絡がつけれるようになっている。それが出来ないとなると不思議に思うのが普通なのだ。
「……お主になら言っても良かろう。妾達はこの世界に呼ばれた異世界人なのじゃよ」
大輝と目を合わせて頷き合い、ヴァイオレットに正直に話した。
「そんな事が、……もしかして貴女方は勇者なのですか!?」
異世界人がこの世界に来るのは、伝説の勇者召喚しか聞いた事がないのだ。その事を知っているのでヴァイオレットは勇者かと思い、驚いているのだ。
「妾達は勇者ではなかったぞ。この世界の勇者はユキナと言う者じゃ。…あ奴は強かったから安心するがよい」
「そうですか。そんな事のあるのですね」
勇者召喚で呼ばれて勇者ではない事もあるのかと、ヴァイオレットは感心している。
「そういう事だから、またこっちの世界に来た時はよろしくね」
最後に大輝がそう言って、冒険者ギルドを出て宿に帰って行った。




