64話 転移の魔石採掘 その1
64話 転移の魔石採掘 その1
今日から転移のダンジョンを目指す事を決めた大輝達は、冒険者ギルドによって万が一の為に食料を買い足しに行った。
「大樹さん、マオちゃん、準備は万全ですか?」
リリィは珍しく朝から冒険者ギルドにいた。
「大丈夫ですよ。ポーションも持ったし、転移陣用の魔石も持ったから危なくなったらすぐに引き返しますから」
「装備もしっかり点検を済ませているから、大丈夫じゃよ」
2人共自信たっぷりに頷き、リリィも心地よくダンジョンに向かって貰えるように笑顔で頷いた。
「では気を付けてくださいね。お2人の無事を祈っています」
「うぬ、では行ってくる」
「行ってきます」
そうして2人はギルドを出て転移のダンジョンに向かって行った。
今回は2人での移動なのでランドヨットを使い、昼過ぎには転移のダンジョンの入口に到着した。
2人は顔を見合わせて「気を付けて行こう」と無言で思いながら頷きあい、ダンジョン内に入って行った。
転移のダンジョンは今までのうす暗い洞窟とは違い、壁自体が薄く光っており、ランタンなどの明りは必要がなさそうだ。
「…これは壁自体が、と言うよりダンジョン自体が魔力が充満しきっておる感じじゃな」
マオは周囲を見回してそう感じた。
「この壁の光は魔力の光って訳か。……流石転移の魔石が取れるかもしれないダンジョンだね。とりあえずどんなモンスターが出るか分からないから、気を付けて進もう」
そう言って2人は足を進めた。
暫くすると奇妙な物が目に入った。1メートルくらいの菱形の物体がユラユラと宙に浮いているのだ。
「…あれはモンスターなのか?」
大輝は浮いているのが綺麗な菱形だったので、モンスターなのかダンジョンのオブジェクトなのか判断が付かなかったのだ。
「あれは<フライングキューブ>、れっきとしたモンスターだ。ロックゴーレムなどと同じ鉱石系のモンスターで、決まった範囲に生き物が近づくと体当たりを仕掛けてくる奴だ」
大輝もマオも初めて見たので戸惑っていると、背中からオメガが教えてくれた。
「オメガは知識が豊富じゃな。妾達はこの手の知識が全くないから助かるぞ」
「なんだかんだ長く生きているからな。分からない事があれば俺に聞け」
マオが感心しながらオメガを見ていると、満更でもないような声でオメガも答えた。
「なら、このダンジョンの事も知っているの?」
「いや、このダンジョンに潜った記憶はない。あのモンスターはここみたいに、魔力が充満している所でよくいるから知っているだけだ」
知っていれば助かると思ったが、そうそう上手くは行かないようだ。そして気分を切り替えフライングキューブに飛びかかった。
相手の動きはそこまで早くはなかったが、不規則に動くので狙いが多少つけ難いぐらいだったので、あっさりオメガに斬られて消滅した。
その後も何体か現れたが、マオの細剣でも斬り裂けたので2人の相手ではなかった。ちなみにこのダンジョンのトラップは転移物が多いと言う事で、タマはカードで控えてもらっている。タマだけがどこかに飛ばされたら合流が難しそうと言うのが理由だ。
「転移のダンジョンだからって、すぐに魔石が採掘出来る訳ではないね」
大輝が壁を少し掘って見たが、目当ての魔石は取れないかったのだ。
「まあ、このダンジョンは転移系のトラップが多いから、転移のダンジョンと呼ばれているだけだからのぅ。トラップを探して回収する方が早いかもしれんな」
マオの話に大輝も納得した。
「確かにこの辺りには上質な魔石はなさそうだな。もっと下の方からは感じられるがな」
「…もしかしてオメガって魔石の位置がなんとなくでも分かるの?」
オメガの話し方は、まるで何か確信があるように感じたのだ。
「どのような魔石かは分からないが、俺は魔力が見えるからな。壁の中に魔力が集まっているかが分かるから、それで判断しているだけだ」
「それは良いのぅ。ならトラップに使われている魔石の存在も、事前に分かって回避出来ると言う事じゃな」
危険なダンジョントラップが安全に乗り越えられると思い、マオの話を聞いて大輝も喜んだ。
「確かに見る事は出来るが、上位のトラップは魔力自体を巧みに隠しているから、あまり俺に頼りっぱなしにしていると、今後大変な目に会うかもしれないぞ」
安直に楽を出来ると考えてしまい、気を抜こうとしていた2人はオメガの話を聞き反省をしていた。
「そう、だね。気を付けるよ。ならギリギリまで何も言わないで、本当に危なそうなタイミングで声を掛けてよ」
トラップに掛かるのは嫌な為、土壇場まで言わないでもらい、危機回避の訓練をしようと考えたのだ。
「ならまずは右前5メートルくらいの所にある、トラップを見分けられるようになれ。お嬢ちゃん達は瘴気を感じられるんだろ?なら魔力もそう変わらないから、今の内なれておけ」
「え!?トラップがそこら辺にあるの?……全然分からないよ」
大輝達は近くまで行ってじっくり見るがよく分からない。
「もう少し魔力を目に集める感じでだ。魔道具などに魔力を流す応用で目に集めて留めるんだ」
そう言われて魔力を目に集めてみると、なんとなくだが空気に色が付いているように見え始めた。その色が付いた空気が濃い所が目に前の何カ所かにあった。マオもなんとなくだが分かったようで、声を漏らして驚いている。
「2人共分かったようだな。その内慣れれば意識しないでも、見えるようになるから頑張るんだな」
「ありがとう、このダンジョンを出るまでには、もう少し慣れるように努力するよ」
そう言って大輝は、トラップに使われている魔石を掘り起こして回収した。使われていたのは風の魔石でおそらく踏んだ者が、風で上空に飛ばされてしまうトラップだと思う。
「でも、なんでトラップなんて仕掛けるんだろう?」
大輝は魔石を回収しながら疑問に思っていた。
「別に意図的にトラップとして埋めている訳ではない。ダンジョンボスの影響で魔石が変質して結果、トラップの様な形で被害が出てるだけだ」
「…つまり、ここのダンジョンボスは転移する能力を持った者で、その影響で転移の魔石が生まれていると。そして、その魔石を不意に踏んだりして発動させちゃうって事?」
「そう言う事だ。だから基本、魔石関係はボスに近い奥に潜るほど良く取れるって訳だ」
大輝もマオも納得したような顔でオメガの説明を受けていた。
「そう言う事だから、お目当ての魔石を手に入れる為には、もう少し下に潜った方が良いぞ」
オメガの言葉に覚悟を決めて頷き、下の階層を目指す事にした。基本、大輝達は瘴気が見えるので、下への階段を探すのに困る事はなかった。
モンスターを倒しながら少し歩くと、あっさり第2階層への階段を見付け下に降りて行った。
第2階層もモンスターはフライングキューブで苦労はしなかったが、トラップが少し増えて来た感じがあった。だが、第3階層への階段までの間で転移の魔石は見つからなかった。
しかし嬉しい誤算もあった。フライングキューブを倒した時に、まだ1つだが<浮遊石>と言う魔石が手に入ったのだ。これは浮かす事しか出来ない魔石で、しかもあまり重い物は持ち上げれないが、合成によって装備品の重量を軽くしたり出来そうなので、出来るだけ確保しておきたい物になったのだ。
そうして第3階層。このフロアに降りて来た時、生き物の徘徊する音が聞こえたのでフライングキューブ以外のモンスターとの戦闘も覚悟をした。
しかし肝心の魔石はこのフロアの壁からも出ては来ず、出て来たのは基本属性の魔石ばかりであった。
「もう3階層まで来たけど、転移の魔石は採掘出来ないね」
下手に進んでモンスターとの戦闘になるのを恐れて、階段を背に大輝達は休憩と食事をとっていた。
「そうじゃな、クリスタルダンジョンでも3階層までは、採掘出来る品質は変わらず量だけが増えると言っておったから、転移の魔石が取れるようになるのも次のフロア以降となるんじゃろうな」
マオは食事を終えた後は、今来た道のりを紙に書いていた。ほぼ次の階段まで寄り道なしで進んでいる為、地図は一本道で、途中にあった脇道の見えた範囲までしか描けてはいなかった。
マオが3階層までの道のりを書き終わるのを待ち、3階層を進んで行った。
徘徊する生き物の気配を感じていたので戦闘になる覚悟はしていたが、なぜかフライングキューブ以外のモンスターは顔を出さず、4階層への階段の前まで来る事が出来てしまった。
「…おかしいな、足音は聞こえたのに襲って来ないなんて…」
大輝が今通ってきた道を振り返りながらマオに話をした。
「もしかしたら、この先で挟み打ちにする罠でも仕掛けているのかもしれんのぅ」
マオも不審に思い、罠の可能性を視野に入れていた。
「それは多分違うな。お嬢ちゃん達は罠を見破る為に常に魔力を発している。それが威圧となって知恵のあるモンスターは警戒して近づいて来れないって訳だ」
そう、大輝達はいまだ目だけに魔力を集中する事に慣れてはいない為、無駄な魔力の消費があったのだ。普通の人ならMPが持たない方法だが、大輝はMPが4ケタもあり、マオはMP自動回復で休憩中などを含めて、時間経過で回復しているのでまだ余裕があるのだ。
事情を知らないモンスターにとって大輝達は、絶えず魔法を放って歩いている危険な存在に感じていたのだ。結果、知恵のないフライングキューブのみが襲ってくる現状になっている訳だ。
「なら接近してくるモンスターがいたら、強敵の可能性があるって事だね」
「もしくはタダの馬鹿じゃが、警戒はしておかねばならぬな」
2人はそう言って警戒を解かないように確認しあった後、次の第4階層に向かって階段を降りて行った。




