61話 大輝の実力
61話 大輝の実力
朝起きて朝食を食べていると、リリィが慌てて大輝達の下にやってきた。
「大樹さん、大変な事になってしまいました!」
大輝の前に来たと思ったら、テーブルに勢い良く手を突き話し始めた。
「昨日の感謝状の授与に、関係のない人が混ざっていたと指摘があったらしいんですよ!」
「はて?昨日のメンツで戦っていないのはリリィだけのはずじゃが……まさか、リリィがいた事が問題になっておるのか!?」
「そんな!リリィは僕達のギルドマスターなんだから問題はないでしょ。大丈夫、リリィは無関係じゃないとちゃんと説明してあげるから」
リリィの話で問題になっているのはリリィ本人だと思った大輝達は、勢い良く席から立ち上がり安心させようとした。
「違います!問題になっているのは私ではなくて、大輝さん、貴方ですよ!」
リリィが首を振り、大輝に指を差した。
「何を言っておる。大輝は共に戦ったではないか?何人かは大輝の指示で動いた者もおったのじゃぞ」
マオは首を傾げながら聞いた。
「大樹さんがあの場にいた事を証明してくれる人は何人もいるんです。問題は今の姿では大輝さんと分からないから、依頼料を多く貰おうとして、実力もない子供を参加した事にしている、と思われているんですよ」
リリィの説明を聞き、マオは大輝の方を見てから納得したような顔をしている。
「確かにその場にいても信じがたい状態じゃからのぅ。そう思われるのも仕方がない事じゃな」
「でも証明しろと言われても、どうしようもないよ?」
大輝も困ったような顔でリリィの方を見た。
「…正直、今の大輝さんを大輝さんと説得するのは、不可能だと私も思っています。なので大輝さんではありませんが戦いには参加していた実力者、として納得させようと思います」
「なるほどのぅ、その方法が一番確実じゃな。…それでギルドの依頼に参加している以上は、ギルドカードも別に作る必要があるのではないか?」
マオの疑問にリリィは「もう用意しています」と1枚のギルドカードを取り出した。
「このカードも登録名は大輝としていますので、名前はそのままで構いません。ですが此方はまだ10級の冒険者扱いになってしまいますから気をつけてください」
そう言って大輝に新しいギルドカードを渡した。
「それでもう既に査問委員の人達がギルドに来ています。実力を証明する為には戦ってもらう事になると思いますので、装備をしっかり整えてからギルドにきてください。私は先に戻って経緯を説明しておきます」
それだけを言うとリリィは宿を走って出て行った。
事情を理解した2人は言われた通り、装備を整え万全な状態でギルドに向かって行った。
「ギルドマスター、どうやら着いたようです」
大輝達の姿にいち早く気が付いた受付のおっちゃんはリリィに知らせていた。
「待っていましたよお2人共」
リリィが手招きをしてくれたのでそちらの方へ歩いていく。
「この子の名前も大輝って言うんです。他の人が見たっていう大輝さんとは別人ですが、実力は本物なので先ほど言われた、詐欺まがいの事はやっておりません」
大輝を一歩前に出し、査問委員に分かりやすく説明した。
「実力があるかないかはこっちで判断する。ここも冒険者ギルドなら地下の訓練場があるだろう?そこで実際の実力を見せてくれればいい。さあ、訓練場に案内してもらおうか」
えらそうにしている査問委員に、リリィも怒っているのか案内するリリィの笑顔が硬かった。
そうして訓練場に着き、査問委員の方から1人ガタイの良い者が前にでた。
「この男が君の相手をする。君はまだ10級らしいが、かなりの実力者と聞いている。殺すつもりで向かってきて構わないから、是非全力を見せてくれたまえ」
査問委員側から出てきた男を見てリリィは驚いていた。リリィの話ではその男は城では有名な騎士団の副団長を務めている人らしい。そんな相手だがリリィは小声で手加減をよろしくと伝えてきた。
「…ふん、シロートか。そんな体格では背中の剣は抜けまい。もう少し体格にあった武器を選んだほうがいいぞ」
やっと声が聞こえたと思ったら、早速駄目だしを受けてしまったのだ。
「心配無用です。剣を抜くのに困ったりはしませんから」
「…なら始めるぞ」
そう言って男は銅の大剣を持ったまま走って向かってきた。その動きは思いのほかゆっくりと感じたが、油断せずに行こうと気を引き締め直した。
相手が上段から剣を振り下ろしてきた。そんな一撃を受けたら怪我では済まないよと思いながらも軽くかわして、そのまま大輝は相手を蹴りつける。その一撃を何とか腕で受けたが、衝撃に耐え切れず後ろに押し戻されてしまった。
「これ大輝よ、女がそのような蹴りをするものではないぞ」
マオの言うとおりスカートでする攻撃ではないと気が付き、今後は注意しようと思った。
「それじゃあ、僕も剣を抜かしてもらおうかな。少しはオメガに慣れておきたいからね」
そう言って大輝は抜けそうになかった剣を、周りから見れば不自然な形で抜いて構えをとった。
男はすぐに気が付いた。大輝が剣を抜き、構えているだけなのに勝てないと思ってしまったのだ。
「早く向かっていかんか!そんな状態だと、お前も口裏を合わせていると思われるぞ!」
審査委員の言葉にハッとなり、降参しようとしていた気持ちを押し込み、再び大輝に向かって行った。
「…実力も分からぬ者が、よく審査委員なんぞ勤める事が出来るもんじゃのぅ」
マオは呆れたようにため息をつきながら審査委員の方を見ていた。大輝にはその声を聞ける余裕がまだあり、同意しながらも意識を対戦相手に向け直した。
「まずは扱いやすさでも見てみようかな?」
そう言って大輝は相手に当たらない距離で素振りを始めた。
「な!?ば、馬鹿な!?」
気軽に始めた素振りだったが、正面に立っている者にはその速さと見てるだけで分かる剣の重さで、攻撃の手を止める事になってしまった。
「これで終わりのようじゃのぅ。…どうじゃ?言った通りの実力者であろう?」
相手が完全に委縮している事にマオは気が付き、審査委員に勝利宣言をした。
「何を言っている。まだ打ちあってもいないじゃないか!さっさと戦わんか!」
既に力の差は歴然だったが、この男には分かっていないようだ。
「愚か者が……上に立つ者が戦況を正確に把握出来ないと、部下の者が苦労する事になるぞ」
マオのため息交じりの言葉に、周りの者は無言でうなずいていた。
「…仕方がない、大輝よ、オメガは使わず素手で相手をするがよい。相手の力量が分かるその者は優秀じゃ。出来れば傷つけずに終わらせた方が、この国の為になるであろう」
大輝はその言葉を聞いてオメガを背中に戻した。
「さあ、大輝が胸を貸してやる。全力で腕を振るうがよい」
見た目は少女だが、その身から出る威圧感は自分では敵わないと理解している男は、マオの言葉に素直に頷き向かって行った。
男が振り下ろしてくる剣を、昨日の中に今の体に合わせた篭手で綺麗に受け流していく。何度か打ち流される中で大きな隙が出来た時、大輝は指導するように軽く拳を当てていく。ただ大輝にとって軽く当てているつもりでも、相手は軽く後ろに飛ばされているのだからレベルの違いがハッキリ出ているのだ。
「えーい!いつまで遊んでいるつもりだ!さてはお前、既にその者に金でも握らされているな!…もう良い、お前達が行って化けの皮を剥がして来い!」
「ですが……」
審査委員の周りにいる者には実力が分かっている。それでも1人の少女に対して複数の兵士が、武器を持って襲うのは納得がいかないのだ。
「いいから行け!これは命令だ!」
有無を言わせぬ強引な指示に困惑していると、
「構わぬよ。強者との実力の差を間近で感じられる事はそうはあるまい。お主達も胸を貸して貰うつもりで全力で挑むがよいぞ」
マオが困っている兵士を助けるように声を掛けてあげ、兵士もその言葉に納得して武器を抜き大輝に向かっていった。
そんな状況に大輝は顔には出さないが、「勘弁してください」と内心は思っていたのだった。
複数の剣を受け流し、時には素手で受け止めるなどを軽くやってのけながら、次々くる攻撃をかわしていくその動きはまるで踊っているように見えた。
そうして暫く攻撃が続いたが、1人、また1人と体力が切れていき、最終的にはその場に立っているのは大輝1人になっていた。
「どうじゃ、ここまですればお主にも、大輝の実力が分かったであろう?」
大輝は既に勝負がついたと思い、座り込んでいた副団長に手を差し伸べていた。
「…まだだ」
「なに?」
呟くように言った審査委員にマオが振り向くと、既に後ろを向いていた大輝の方へ剣を抜き走っていた。
「…私は認めないぞ!」
そう言いながら無防備な大輝を後ろから剣を振り下ろした。審査委員の暴挙に副団長が気が付いたが、既に手遅れで大輝の頭に剣が当たり、そのまま数メートル飛ばされてしまった。




