59話 依頼報告
59話 依頼報告
魔剣オメガを手に入れた大輝は、今の自分の身長に近い長さがあるので、カードにしまっておこうと思ったが収納出来なかった。
「…オメガがカードに収納出来ない…」
大輝の持つカードには生き物は収納出来ないのだ。即ち、自分の意思を持っているオメガは生き物扱いだったのだ。
「おいおい、せっかく喋れるようになったのに、魔石なんかに入れないでくれよ」
「どちらにせよ、しまえない以上は背中にでも背負っておくしかないのぅ」
「…それしかないよね。でも…背中から抜けなさそうだよ」
オメガを鞘に入れて背負った場合、腕を精一杯伸ばしても間違いなく鞘から抜けないのだ。
「なら剣を抜く時は、錬金術で鞘を加工するしかないじゃろうな」
「なるほど、その手があったね」
そう言って早速鞘を作り、腰まである髪を三つ編みにして、邪魔にならないようにしてからオメガを背負った。
「…この恰好ってかなり目立たないかな…」
今の大輝の姿は黒髪が腰まで三つ編みで、黒いノンスリーブのワンピース、そして漆黒の剣を背負っていて、見事に黒尽くめになっているのだ。
「……………大丈夫ですよ」
ナビコスがかなり間が空いてから答えてくれた。
「まー今の大輝の姿は仮の姿みたいな物じゃし、我慢するしかないのではないかのぅ」
マオも否定はしてくれなかった。つまり目立っているという事だった。
「そう、だね…。一先ずは我慢するしかないよね」
大輝は自分でもどうしようもない事は理解していたが、頭を下げて落ち込んだ。
「さて、大分時間が経ってしまったが皆に戦闘終了を報告しに行くかのう」
「そうだった!早く報告しないとジェームズさんの心配しているよ!」
すっかりジェームズの事を忘れていたナビコスが、慌てて町の中に走って行った。
「僕達も行こうか」
「そうじゃな」
走って行ったナビコスを追い掛けるように大輝達も町に向かって行った。
「お嬢ちゃん、ナビコスから敵は倒したと聞いた。無事に乗り切ったようで安心したぞ」
門を入ってすぐの所でジェームズは万が一に備えて待ち構えていたようだった。
「今、他の奴らに危険は去ったと、伝えさせに行ったから安心してくれ」
「そうか、なら暫くすれば町に落ち着きが戻るのぅ」
「ジェームズさんや他の人は怪我とか大丈夫でしたか?」
大輝は先に戻ってもらった冒険者の状態が気になっていたのだ。
「?。ああ、皆大した怪我はしていないから安心してくれ」
ジェームズは微妙に首をかしげながら答えた。
「なら、妾達はリリィに報告しに行くとするかのぅ」
「そうだな、ギルドマスターはまだ救護所にいるはずだから、安心させて来てくれ」
そう言って大輝達はリリィがいる、ヴァイオレットの冒険者ギルドに向かった。
「リリィ、依頼完了したぞ」
冒険者ギルドの扉を開いて、マオは大声で言った。
「うわ!?びっくりした。……マオちゃん、驚かさないでくださいよ」
リリィはマオの声で肩を大きく上げて驚いたのだ。
「それで無事にワイバーンは討伐出来たんですね」
「うむ、ワイバーンが10体おって魔族もいたが、無事に帰ってきたぞ」
「わ、ワイバーンが10体!?」
マオのサラリと言ったワイバーン10体という事実に、リリィもヴァイオレットも驚いて手に持っていた物を落とし、動きも止まってしまった。
「10体ってどういう事ですか?それに魔族もいたって?」
「どうやらワイバーンはその魔族、グラムが引き連れて来たようじゃった。おそらく奴は魔王だったと思うぞ」
「……魔王にワイバーン10体…よくそんな集団に勝つ事が出来ましたね。かなり無理をしたんじゃないんですか?」
ワイバーン1体に対して大勢の冒険者を集めて挑んだのに、実際はその10倍の数がいて更に、魔王まで攻めて来たら本来はお手上げなレベルのはずなのだ。それに勝った以上、相当無理をしたに違いないのだ。
「そうだね、僕なんか1回死んじゃったらしいしね」
大輝は微笑を浮かべながら言った。
「な!?。マオちゃん以外にも、こんな子供も戦いに行っていたんですか!?…貴女も無茶したら駄目じゃないですか!マオちゃんは特別なんですよ!同じくらいの子がいるからって、冒険者なら自分の実力をしっかり見ないといけませんよ!」
リリィはまだ成人もしていない女の子が、危険な戦いに挑んだ事を怒っていたのだ。
ちなみにこの世界での成人は15歳である。
「…ちょっと待ってください。…貴女、魔族ですね。あ!?、安心してください。私も魔族だし、ここには魔族だからって差別する人はいませんから。…でも、魔族だからって人型はいきなり強くはなれません。魔王に挑むなんて無茶はやめてください」
ヴァイオレットも魔族だから無茶をしていると思い、厳しい声で怒っていた。
「…え、えーと」
2人に叱られて大輝は自分の事を言うタイミングをすっかり逃してしまい、言葉を挟めないで困っていた。
「くくく、そうじゃぞ。無茶はいかんからのぅ、………くく」
マオは笑うのを堪えながら一緒になって大輝に注意する方に回った。
「マ、マオまで……」
大輝はマオに助け舟を要請したが棄却されてしまったようだ。
「マオちゃんも笑い事じゃあ、ありませんよ!自分が出来るからって他の子も出来る訳ではないんですから」
笑いながら叱っているマオにリリィの矛先が変わった。
「く、くく。そうじゃな。今後は死ぬような危険な事がないようにするのじゃぞ。大輝よ」
「「え!?」」
マオが笑いを堪えきれず自白した言葉を聞いて、リリィとヴァイオレットが勢い良く振り返り大輝を見た。
「その娘は大輝じゃ!いろいろあって今の姿になってしまったが、中身は間違いなく大輝なんじゃよ」
2人が信じられないような顔をしていたので、マオは再度答えた。
「……本当に大輝さんなんですか?…ずいぶん可愛らしい姿になって、しかも性別まで変わってしまって…」
「…こないだは何も感じなかったのに、今日になってどうして瘴気が溢れ出ているんですか?」
ヴァイオレットは前に会った時には、まったく感じなかった瘴気の漏れを、今日はハッキリ分かるほど漏れ出ているので疑問になったのだ。
「だって、さっき魔族にされたばかりだからね」
「さっきって、その襲ってきた魔族が関係しているんですか?」
「実は………」
大輝は事の経緯をリリィ達に話して聞かせた。所々大輝に記憶がないところはマオが補足を入れてくれた。
「…ヴァイオレット、そんな事が可能なんですか?」
「私も聞いた事もありません。確かに魔族は核と呼ばれる物が心臓の代わりではありますが、抜き取られた者は死んでしまうので、試した者はいないのです」
リリィもヴァイオレットも聞いた事のない人の魔族化。大輝という実例が目の前にいても素直に信じきる事は出来なかったのだ。
「僕も理屈は分からないよ。でも今後、魔族のままでも構わないけど、性別と姿だけは元に戻りたいですね」
「今の姿も可愛くて良いぞ、大輝ちゃん」
マオは口に手を当てて隠していたが、その目はしっかり笑っていた。
「…マオもまたおちょくって…」
冗談を交えながら話している2人を見ていて、深刻に悩んでいる様子が見えずリリィ達の気持ちも少し軽くなった。
「そう言う事で、慌ててはいないのでゆっくり方法を探します」
大輝も安心させる為に、再度顔を見ながら慌てていない事を伝えた。
「なぁ!そろそろ俺の事も紹介してくれよ」
突然起こった人の姿は見えないが声が聞こえる現象に、リリィ達は驚きながら周囲を見回す。
「あー、…リリィ、ヴァイオレット、紹介するよ。今の声の主、魔剣オメガです」
驚かしてしまい悪い事をしてしまったと頬を掻きながら、大輝は背中を見せてオメガを見やすいようにした。
「よう、娘さん達。さっきこのお嬢ちゃんと契約した魔剣オメガだ。よろしくな!」
ナビコス達が周囲を見回しても他に人はいない。声が聞こえる方向は、間違いなく大輝の背中の剣からなのだから疑いようがなかった。
「…えーと、…貴方はモンスターなのですか?」
ギルドマスターをやっているので情報は入ってくる方だから、ダンジョンなどで死亡した冒険者の怨念と瘴気が混ざり、武具がモンスターとなる事があると知っていたのだ。
「どうだろうな?俺は気が付いた時には既に剣だったからな。だが自分では動けないからモンスターって訳でもないと思うぞ。……つまり、俺の事は俺にも分からんって事だ」
呆気羅漢と答えるオメガの声に、顔を見合わせてどう反応すればいいか困っていたリリィとヴァイオレットだった。
「まー、悪い奴ではなさそうだし、素性は気にしないでも良いのではないかのぅ」
「かなり優秀な武器だし、魔剣と言っても見た目と闇魔法が使えるから、そう言われるようになったのを、オメガが気にいって名乗っているだけだからね」
身近にいる大輝達が気にしないと言っている以上、リリィ達もため息をつきながら納得した。
「ところでオメガさんは魔法を使う為の魔力は何処から出るんですか?」
リリィは魔法を使える以上は魔力の出所が気になったのだ。
「魔力はお嬢ちゃんから貰ったり、相手の魔力を吸収したり、魔石から摂取するなどして俺の中に溜めておくんだ」
「魔石から魔力って取れるものなんですか?」
魔石は魔力を流して属性を与えたりしてくれる石と、認識しているので魔力自体を回収出来るとは思えなかったのだ。
「魔石にはしっかり魔力が染みついているんだぜ。もちろん上位の魔石ほど高い魔力を秘めていて、俺の攻撃力も上がるからお嬢ちゃん!ぜひ俺の食事は3食魔石で頼むぜ」
会話の中でサラリと武器のくせに食事を要求してきた。そんなオメガに苦笑いをしながら、今後の魔石確保が大変になるなと思った大輝だった。




