57話 魔族転生
57話 魔族転生
グラムが振り返った先にはまるでダメージなど受けていなかったように、傷跡すらなくなっている大輝の姿があったのだ。
「後ろからの一撃は少し卑怯だとは思うけど、そっちの方が実力は上だから構わないよね」
5倍に<強化>した一撃を無防備な背中に与えたのだ。誰が見てもこの一撃は致命傷だと分かった。
「な、なぜお前が生きている?…いや、それ以上に傷が消えているのはどういう事なんだ?…回復魔法はこの娘が使えるんじゃなかったのか?」
既に立っているのも厳しそうな表情でグラムが大輝を睨んでいる。
「回復魔法が使えるのは、妾だけなのは事実じゃよ」
マオはお腹を押さえながらゆっくり立ち上がりながらグラムに答える。
「大輝さんの傷は私がポーションを使って治したんですよ」
グラムが声のする方に顔を向けると、そこには先ほど逃げたと思われたナビコスがいたのだ。
「…なぜ人間が魔族の手を貸す。…しかも、そいつは魔族である事を隠して騙していたんだぞ」
血を吐きながらもグラムはナビコスに聞かなければ気が済まないのだ。
「なぜって?師匠が魔族だからって何が変わるんです?大輝さんも知っているらしいですし、この国にも何人か魔族の人がいますしね」
ナビコスは「何、変な事聞いてんの?」って顔をして不思議そうにしてグラムに答えた。
「……お前はどうなんだ?もしかしたら、怪我をしたお前を置いて逃げる、とは考えなかったのか?」
グラムは大輝に顔を向け直した。
「もし僕を助ける為にマオが危険になるのなら、逃げてほしいけどね」
大輝は頬笑みながらマオの方を向いた。
「たとえ妾が危険であっても、お主を見捨てたりはしないがのぅ」
マオも笑顔で大輝に答えた。
「もちろん僕もマオのピンチに逃げたりはしないけどね」
「……………」
グラムには何故2人がここまで信頼し合えてるか理解が出来なかったのだ。
「…お前は人間が何処まで汚い考えの生き物かを知っているのか?奴らは魔族というだけで、奴隷のように扱ったり命を奪おうともするんだぞ!」
「…人間はそんな考えの人ばかりじゃないよ」
大輝はナビコスを見てからグラムの方に視線を移した。
「…お前は人間だから本当の醜さを見えていないんだ。……!?。フ、ハハハ、お前がどこまで人間を信じれるか楽しみだぞ」
グラムは何か思い付いたように突然笑い出した。
「…何がおかしいんじゃ?」
突然笑い出した事にマオが不振がってグラムを睨んだ。
「なに、死ぬ前に良い事を思い付いただけだ。……さらばだ!」
そう言ってグラムは自分の胸に手を刺し、何かを抜き取った。
「な!?突然何を!?」
グラムの突然の行動に驚き、一瞬棒立ちに大輝はなってしまった。その一瞬が大輝の今後の運命を変える事になったのだ。
棒立ちになってしまった大輝の心臓をグラムの手刀が滑るように刺さったのだ。
「え!?」
大輝は何が起こったか分からなかった。現状を確認しようと下を見てみると、グラムの手が胸に刺さっているが痛みは感じなかったのだ。
「た、大輝?……え、何が、起こっておるのじゃ?」
マオは胸を突かれている大輝の姿を見て混乱していた。現実を理解出来ないでいるのだ。
「た、大輝さん!」
ナビコスがいち早く正気に戻りグラムを突き飛ばして刺さっていた手を抜く。その瞬間大量の血液が大輝の胸から溢れ出した。
その状況を見てナビコスは手早くポーションを取り出し大輝の胸に直接かけた。
「…これで大丈夫のはずよね」
大輝は意識を失っているが胸から出ていた血が止まり、みるみる傷が塞がっていくのを見て安心した。
「ハハハ、無駄だ!…こ、これが何だか、分かるか……奴の、心臓だ…い、いくら回復させようと、し、しても、…ない物は治るまい。………奴の、今後の、じ、人生が、……た、たの…し…み…だ……」
突き飛ばされたグリムは最後の力で、大輝から抜き取った心臓を見せて消えて行った。
「そ、そんな、嘘です!大輝さんの心臓はちゃんと……」
ナビコスは大輝の塞がった胸に耳を当てて心臓の音を聞こうとしたのだ。
「……お、音が、…心音が、き、聞こえない……」
胸に耳を当てているナビコスの顔がどんどん絶望に染まっていく。そんな様子を見ていたマオは目を見開いてフラフラと大輝の方へ歩いてきた。
「う、嘘じゃろ……た、大輝がこんな簡単に死ぬはずがないのじゃ。…ナビコスよ、言って良い冗談と悪い冗談があるのじゃぞ……」
「し、師匠、大輝さんは、…大輝さんは死んでしまったんです。…いくらポーションも死んだ人を生き返らせる事は出来ないんです」
ナビコスがふらつきながら歩いているマオを抱きしめた。
「嘘じゃ!嘘じゃ!嘘じゃーーー!!!そんな事がある訳がないのじゃーーーーー!!!!!」
「師匠、冒険者は戦いで死ぬ事があるんです!大輝さんも例外ではないんです!落ち着いてください!」
マオはナビコスに抱きしめられながら暴れだしたので、力ずくで抑え込んでいるのだ。
暫くの時間、マオが暴れたがどうにか落ち着きを取り戻した。
「…ナビコス、本当に大輝の心臓は動いていなかったのか?」
マオはナビコスに再度確認をしたが、その声にはまったく覇気を感じない、今にも消えそうな声であった。
「はい、何度も確認しました。残念ですけど大輝さんの心臓は間違いなく動いていません」
「……そうか、…大輝は、…死んで、しまったのだな」
もう暴れる様子がないのでナビコスはマオを抑え込む事をやめている。そんなマオは大輝の下に近づき、そのまま膝が折れるように座りこんでしまった。
「…大輝よ、お主は妾を守ってくれるんじゃなかったのか?…妾は今後、どうすればよいのじゃ?…何も、…何も思いつかぬぞ」
「師匠…」
マオは大輝の胸に顔を押し当てて泣き、ナビコスも何も言えずただ見ているしか出来なかった。
その時、大輝の体に異変が起こった。大輝の胸を中心に周囲の瘴気が集まって来たのだ。
「な!?なぜ瘴気が大輝に集まる!?いったい何が起こっておるのじゃ!?」
マオも突然の現象に泣くのをやめ周囲を見回した。瘴気が見えないナビコスは何が起こっているかは分かってはいない。
「し、師匠?突然どうしたんですか?」
「大樹に突然瘴気が集まりだしたのじゃ!…こんな現象は見た事がないぞ」
そう言っている間にも大輝に大量の瘴気が集まっていく。マオ達は何もすることが出来ず、見守る事しか出来なくたっていた。
暫く瘴気が集まり続けていたが、それが止まると次は大輝の周りに瘴気で包まれるようになり、姿が見えなくなった。そうして、弾けるように包んでいた瘴気が消え去ると、そこには黒髪でマオと同じぐらいの歳に見える少女が1人現れた。
「だ、誰じゃ?大輝はどうしたのじゃ?」
マオは大輝の姿が見えない事に気が付き周囲を見回して探した。
「…う、う~ん…」
大輝を探して周囲を見回しているマオは気が付かなかったが、ナビコスがこの少女の意識が戻りそうなのに気が付いた。
「…お嬢ちゃん、大丈夫?どこか痛い所はない?」
ナビコスは目線を下げて驚かせないようにして優しく声を掛けた。
「あれ?どうしたの、ナビコス。急にそんな言葉使いになって」
「へ!?」
見ず知らずの少女に急に自分の名前を言われて、ナビコスは目が点になり間抜けな返事をした。
「そうだ!グラムはどうなった?他に被害はなかったかい?」
「…え~と……もしかして、…大輝さん?」
姿や声は違うが話し方や質問の内容から、ナビコスは信じられない事だが聞かずには入れなかった。
「?何を言ってるんだ?僕が大輝以外の何に見えるっていうんだ」
大輝と思われる少女は自分の変化に気が付いていないようで、ナビコスもどうやって説明をすれば良いか悩んでいた。
「お主!意識を取り戻したのなら、大輝がどこへ行ったか知らぬか?」
マオもようやく少女が意識を取り戻した事に気が付き、大輝の情報を何か知らないか聞き始めた。
「?マオも何を言っているんだ?」
「…え~と、師匠……言い難いんですが、…その、彼女が大輝さんのようです」
ナビコスは1人で大輝に説明する事を諦め、マオに協力を求めたのだ。
「何を言っておるのじゃ?大輝は男じゃぞ?」
「ナビコス、男に向かって彼女はないだろう。さっきから2人共なんか変だよ?」
マオと大輝と思われる少女は2人して、首をかしげている。
「師匠、落ち着いて聞いてください。彼、…彼女が大輝さんのようなのです。師匠から本人に聞いてみてください」
「だからナビコス、いったい何を言っておるのじゃ?…それよりお主、大輝を知らぬか?」
マオはナビコスが何を言っているのかが理解できないので、ほかって置いて少女に大輝の情報を再び聞いた。
「だから、マオ!目の前に僕はいるじゃないか?いったい何を言っているの?」
大輝と思われる少女は少し苛立ちを見せながらマオの前に立ち上がった。
「あれ?マオ一気に身長が伸びた?」
大輝と思われる少女は立ち上がったにも係わらずマオと目線の高さが一緒の事に疑問を覚えた。
「ま、まさか……お主が大輝か?」
信じられない物を見たような顔のまま、マオは大輝と思われる少女に問いかけた。
「だから、マオもナビコスもいったいどうしたの?僕が大輝以外に見えるっていうの?」
起こっているようだがその声は明らかに高く、まさに少女の声にしか聞こえないのだ。
「大輝?よ…信じられないかも知れぬが、どこをどう見たって大輝には見えんのじゃ…」
「大輝?さん、今から師匠に水を出してもらいますから、落ち着いて自分の姿を見てください。それで全てが納得するはずです」
ナビコスはもはや自分で確認してもらうしか納得出来ないと判断し、マオに水で鏡のような物を作ってもらった。
「いったい何だって言うんだ。……あれ?知らない子が写ってるな誰だい君は?」
そう言って後ろを向くが誰もいない。不思議に思いもう一度水を見ると確かに、そこには1人の少女が写っているのだ。
「え!?…あれ?…これって、もしかして?…この姿が僕ぅぅぅーーーー?????」
大輝は混乱して「あれ、何で?」と繰り返し水を見ながら言っている。
「…本当に、大輝、なの…じゃな?」
「どうやら…そのようだね。……信じられないけど」
大輝は変わってしまった理由は分からなかったが、一先ず現実を受け入れる事にした。そんな大輝を見ながらマオは震えるように見つめて…飛びついた。
「大輝よ、妾は本当に死んでしまったと思っていたんだぞ!でも…生きててくれて本当に、本当に良かったのじゃ」
マオは泣きながら大輝に抱きついた。大輝もそこまで心配を掛けてしまった事に気が付き優しく抱きしめてあげた。その様子をナビコスは静かに見守っていたのだった。




