56話 魔剣士グラム
56話 魔剣士グラム
上空に留まっている1体の事は気になるが、今は目の前に迫ってきている3体の対処が先決だ。
「3体降りてきます。マオは上空の1体を警戒しておいて」
マオも上空に留まっている一体は気になっていたようで、一言「了解じゃ!」と言って視線を上に向けた。
「魔導士組は一番右の奴を攻撃開始だ!ナビコス、俺達の攻撃をするぞ!」
ジェームズの掛け声で魔導士組とナビコスの風の刃、ジェームズの水弾による攻撃を始めた。1体に攻撃を集中したので先に下に降りて来たのは2体になった。
下に着いた1体のワイバーンを迎えたのは突然の衝撃だった。大輝が武器をランスに変えて風の突進で1体の翼を突き破ったのだ。
地上に落ちていくのを見ていたもう1体のワイバーンは、突然水の刃で翼が斬り裂かれた。ジェームズが水の刃を伸ばして翼を斬り落としたのだ。
「2体落ちだぞ!皆、止めを差すんだ!魔導士組はそのままワイバーンを攻撃、止めを差すまで地上に降ろすなよ」
ジェームズはそう指示し、地上で暴れているワイバーンとの戦いに参戦した。
大輝もランスをしまい武器を刀に持ち替え参戦し、最初に落とした1体を打倒した。そのタイミングでマオから声が掛かった。
「大輝よ!最後の1体が動いたぞ!」
その声を聞いて上を見ると一直線で大輝の方へ向かってくるのだった。マオがフレイムアローで攻撃を仕掛け、翼を撃ち抜いた。
「もう1体落ちて来たぞ!止めを差せ!」
ジェームズの言葉を聞きながら大輝は嫌な予感を感じて声をあげた。
「ジェームズさん待って!今の1体は何かおかしい、瘴気が以上に高いんだ!ワイバーン以外に何かいる、注意してください!」
大輝の突然の大声にワイバーンに向かっていたジェームズ達が近づくのをやめて止まった。
「感の良い奴がいるようだな。そのまま近づいてくれば楽に死ねたものを…」
その言葉と共にワイバーンの腹は裂けて中から1人の男が出て来た。
「……誰、ですか?」
ナビコスも相手をしていたワイバーンに止めを差して合流した。
「この国を落とすのに、ワイバーンが10体もいれば十分と思ったんだがな。……思ったより高ランクの冒険者がいたようだな」
全身黒ずくめの男はワイバーンの死体からゆっくり歩いて来た。
「お主は何者だと、聞いておるのじゃ!」
マオも西門の上から大輝の横に降りて来た。
「俺か?俺は魔剣士<グラム>、それ以外の事は知らなくていいだろう。…どうせここで死ぬんだしな」
そう言ってグラムはゆっくり柄から剣先まで、全てが漆黒の剣を抜いて大輝達に向けた。剣を抜く、その動作をしただけで目の前の男から感じる圧力が急に上がった。
「ジェームズさん、ナビコス!ここは僕達が対応するから残りのワイバーンに止めを!。それが終わったら全員町に逃げてください!」
「…だが…」
大輝の言葉にジェームズも、只ならぬ気配を感じており異論を唱えようとした。
「…奴は危険な相手じゃ。クリスタルドラゴンなんぞ相手にならんぐらいにのぅ」
大輝とマオの顔に余裕がまったくなくなっている。その事に気が付いたジェームズは、この相手がそれほどの強敵という事が分かったのだ。
「…分かった。だが無理はするなよ。……ナビコス!皆!残ったワイバーンを倒したら全力で撤退だ!急ぐぞ!」
その声を聞き全員が残りのワイバーンの方へ走っていった。
「お前達が俺の相手をしてくれると言う訳だな?…良いのか、どうせなら他の冒険者を集める時間をやっても良いぞ」
ワイバーンの死体から出たグラムは、その場から動かず腕を組んだまま待ち構えている。
「…お主ほどの相手に数だけいても仕方がなかろう?」
「なるほど…相手の実力が分かるとは、なかなか見所がある者のようだな。なら良いだろう、掛かって来い!」
組んでいた腕を解き、グラムは剣を構えた。その言葉を合図にマオがフレイムアローを3個同時に放ち、大輝は刀の属性を炎にして向かって行った。
グラムは漆黒の剣で炎の矢を軽々斬り裂き、大輝の刀とぶつかり鍔迫り合い状態になった。
「ほう、この剣とぶつかって斬り裂かれないとは。なかなかの魔道具のようだな」
グラムには余裕があるような声を出しながら大輝の刀を受けている。その横からマオが細剣で斬りかかったが、即座に距離を開けられてかわされた。
「やはり簡単には倒せんようじゃな」
「…これは不味いかもね……たぶんユキナと戦った時ぐらいのピンチだと思うよ」
大輝は普段通りの声で話してはいるが、表情には余裕がないのが一発で分かるほどだった。
「とにかく、やれるだけやるしかないようじゃ」
そう言ってマオは魔導書を取り出し<風弾>を放っていく。その意味を理解した大輝も多方面から風の刃でグラムに攻撃を仕掛けながら、2人は距離を開けていく。
グラムはつまらん攻撃と言わんばかりに剣で防いでいく。そして動かないグラムを確認したマオは、炎の杖を使い炎を放った。
「なに!?」
ドォォォオオオオオ!!!!!
今までの小手先の攻撃と違うと気が付いたが、既に避けれるタイミングではなく直撃を食らった。再び起こった爆発にジェームズ達も振り向いたが、すぐにワイバーンの方に向きなおし戦いを再開した。
「…決まったか?」
「いや、まだだよ!」
マオが爆風の先を見ながら呟いたが、大輝は確信を持って爆炎の中心に突っ込んで行った。
「…見えた!<強化>5倍!」
グラムらしい人影が見えた所に大輝は5倍に強化した斬撃を下から振り上げた。その攻撃に驚きながらもグラムは、剣で不完全な形ながら防ごうとしたが受け切れず、威力を殺された状態だが一撃を与える事に成功した。
爆炎が収まった時、グラムは所々焦げたようにダメージを受けており、胸から肩にかけて斬り傷もあった。しかし、その場に倒れていたのは大輝だった。
「…まさかあれほどの炎を放つ魔道具を持っているとはな。それにあの炎の中に突っ込んでくる者がいるとも思わなかった。…確実に俺の油断が原因だな。しかし、1人倒した。これでもうお前達に勝ち目はないな」
「た、大輝!?大丈夫か!」
マオの声に返事はない。うつ伏せに倒れている大輝の下の地面が、どんどん血で染まっていく。しかし微妙に動いている事から即死ではないようだった。
その状態に気が付いたナビコスが、自分の魔道具で風の刃をグラムに放つが剣を構えるだけで掻き消してしまう。
「ナビコス!そっちはもう良いのか?」
近づいて来たナビコスにマオは聞いた。
「はい、もうジェームズさんが止めを差すだけで終わりです。その後は撤退の指示をしてもらい、完了したら声が掛かるはずです。……でも、逃げれそうにはありませんよね…」
グラムと向き合ったナビコスはその圧倒的な威圧感に、本能が逃げるのは無理と分かってしまった。
「分かっておる。だから奴はこの場で倒す!」
「…大輝さんは?」
大輝の下の血を見てナビコスは表情を暗くしながらマオに聞いた。
「大丈夫じゃ、あ奴はそう簡単には死なん!…妾が近づき回復魔法をかければ何とかなるはずじゃ!」
マオの自分を奮い立たせる意味も込めて大声で叫んだ。
「…お前は回復魔法が使えるのか。……ハハ、面白いな、魔族が回復魔法を使うとはな」
「な!?」
「し、師匠が…魔族?」
まさか見破られるとは思っていなかったマオは驚き、事実を知らなかったナビコスは動揺を隠しきれなかった。
「なんだ隠していたのか?魔族と手を組むとは変だと思ったが、そう言うことだったか」
「…ナビコス、内緒にしていてすまなかった」
マオはグラムから視線を離さないままナビコスに謝った。
「…師匠、その事は大輝さんは知っているんですか?」
ナビコスは動揺する中、それだけ聞く事にした。
「知っておる。知った上で妾と共にいてくれる、と言ってくれたんじゃ」
「…そうですか」
ナビコスはそのまま横に、マオから離れるように移動した。
「…これだから人間は!おい、お前!これで分かっただろう、人間は皆自分以外を受け入れる事はしない。そんな者達を守ろうとしていないでこっちに来い!俺達と共に人間達を殲滅しようじゃないか!」
落胆する様子を見せたマオにグラムは声を張り上げ仲間になれと勧誘してきた。
「…残念じゃが、人間はそんな者ばかりではない!その事を知っている以上、妾はこの町を襲おうとするお主を倒すしかないのじゃ」
顔を上げてしっかりとグラムを見つめ返し、マオはハッキリと自分の意思を伝えた。
「……騙されているとも知らず馬鹿な奴だ。…良いだろう邪魔をすると言うなら容赦はしない!覚悟するんだな」
そう言ってグラムはマオに襲いかかった。しかしダメージがあるのか、最初に比べてその動きはかなり遅くなっていた。
マオは例え動きが遅くなっても細剣だけでは受け切れないと読み、魔導書をしまいフレイムソードを出し、2刀流の形で漆黒の剣を受けた。
「まだそんな武器を持っていたか。…惜しいな、そんな実力があれば即戦力として活躍出来たのにな」
自分の剣を受け切ったマオを、見下ろす形でグラムが呟いた。
「まだ、勝負がつく前に言うのは早すぎるのでないか、のう!」
両手に力を入れてマオは漆黒の剣を弾き返す。そのまま回るように剣を振り、連続でグラムに斬りかかっていく。しかしグラムは冷静にその攻撃を受け流している。
「…2刀じゃ足らぬか。…なら<アクアフィールド>!、これが3刀目じゃ!」
マオは水を剣の形にして宙を漂わせ、そのままグラムに斬りかかるように操作する。細剣、炎の剣、水の剣と3本の剣で連続攻撃を仕掛け、浅いが少しづつ傷を負わせていった。
「く!、いったい幾つの魔道具を持っているんだ。…だがそんな動きが遅い武器が増えたからといって結果は変わらん!」
その言葉を言いきった後、漆黒の剣が水の剣を斬り消し、そのまま炎の剣も消されてしまった。それで出来た隙にグラムはマオを蹴り飛ばした。
「痛っ!?……やはり使い慣れていない事をしても通じぬか…」
吹き飛ばされたマオの所にグラムが剣を構えて歩いてきた。
「やっと諦めたか。安心しろ苦しまないように止めを差してやる」
完璧な一撃を受けてしまったマオは動けず、グラムはそんなマオを見下ろす形で漆黒の剣を振り上げ止めを差そうとしていた。
だが絶望的なこの状況でもマオに悲痛の表情はなかった。
「妾は安心はしておるぞ。……なにしろこの勝負は妾達の勝ちじゃからのぅ」
「なに!?」
そんなマオの言葉に疑問を浮かべた瞬間、背中から鋭い衝撃を受けた。
「!?、な、何が、……お前は!?」
何が起こったか分からなかったグラムが振り返った先には、刀を振り下ろした大輝の姿があったのだ。




