54話 ワイバーン
54話 ワイバーン
「おい!たかが受付の分際で冒険者に楯突くとはいい度胸だな」
地下の訓練所に降りてきて二人が向かい合った状態で睨み合っている。
「他人のギルドを見下す事しか出来ぬ小間使いなんぞ相手に度胸などいらぬわ」
「…お前、腕の一本や二本折れるぐらいは覚悟するんだな」
「ワイバーンごときに恐れておる者には妾に指1本触れる事など出来ぬがのぅ」
「…どこまでもふざけたガキだ!」
そう言って男は背中から銅の大剣を抜きマオに斬りかかった。しかしマオ一歩もその場から動かなかった為、男の大剣が肩を目指して振り下ろされた。
男はこれで決まったと思っていたがマオに当たる瞬間、何かが少し光ったと思ったら弾かれるように大剣が戻ってきたのだ。
「な、何が起こったんだ!?」
「どうした妾は一歩も動いておらぬぞ?早く攻撃を仕掛けたらどうなのじゃ」
マオは自分よりも身長が高い相手にも係わらず見下したような態度で男を挑発する。
「くそ!それなら!」
男はそれならばと大剣を水平に構えてマオの喉を目掛けて突進してきた。今度も当たったと思った瞬間剣先が少し光り体ごと弾かれてしまったのだ。
2人の様子を見に来ていたナビコスは横から見ていた為、いったい何が起こっているのかを理解していた。しかし何が起こっているかは分かったがそれが現実的には出来るはずのない事だったので、ただただ声も出せずに驚く事しか出来なかったのだ。
マオを守っているのは流水のリボンの能力<アクアフィールド>の強化版だ。本来は使用者の周りを囲むように水の膜が現れ火やちょっとした攻撃を弾く効果だった。しかし昨日の魔方陣付与による強化で水を最小限しか出さず相手の剣先に合わせて盾のように使用していたのだ。しかも相手には分からないように防いだ後にはマオの背中に移動させて隠していたのだ。
「どうした。お主の攻撃はこれでしまいか?なら今度は妾から仕掛けるぞ」
そう言いマオは魔道書を取り出した。相手は何もない所からいきなり本が現れた事に驚いてはいたが、マオはまったく気にせずそのまま魔力を流し水弾を放った。
男はすぐにあの本が魔道具だと気が付いたが一般的に使われている魔道具の水弾に比べてあまりに早くかわす事が出来なかった。
「ぐぁっ!?」
男は肩に水弾が直撃してしまい派手に転んでしまった。水弾に当たってみてスピードだけではなく威力もかなり高かった事が分かったが、このまま何もせずに子供相手に倒れているのはプライドが許せずすぐさま立ち上がった。
「ほぅ、なかなか根性があるではないか。それとも水に耐性でも持っておるのかのぅ……なら次はこっちじゃ」
そしてそのまま次は風弾が放たれて逆の肩に直撃を受けた。今回も派手に転ばされるが鎧の上からなのですぐさま立ち上がる事が出来た。
「…馬鹿な、1つの魔道具から2種類の属性攻撃が来るとは…ありえん」
「誰が2種類のみと言ったかのぅ」
マオが相手の誤解を解く為に石弾を放ち、呆然としていた男の頬を掠めるように通過させた。
「どうじゃ?本が武器とは受付の者に相応しいと思わぬか?」
「…ま、まさかお前がエレメントマスターなのか?」
男は対抗戦を直接は見れなかったが優勝者の話と噂だけは聞いていた。4つの属性の魔道具を自在に使いこなし、それも全てが一般的な魔道具より上の物を所持していたと。
しかし、そんなに大量の魔道具が個人で所持している事を信じられず半信半疑で終わらせていたのだ。
「…エレメントマスター?妾はそんな名前で呼ばれた事はないぞ」
もちろん対抗戦で観客がつけた2つ名をマオ本人が知るはずもないのだ。
「それよりどうするのじゃ。素直に詫びを入れるのならばここらでやめてやっても構わぬぞ?」
「ふざけるな。魔導師がこんな狭い所でいつまでも優位に立っていられると思うなよ」
かなり動揺していたので自分は剣士だから魔導師が相手なら近づけば勝てると考えていたのだ。
男はいきなり走り出してマオとの距離を縮めようとした。もちろんその行動を見てもマオは一歩も動かず待ち構えた。
そして戦いが始まったばかりの時に起こった事をただ繰り返すだけの結果に終わった。マオに剣が当たる前に弾かれる事で少し冷静になることが出来て接近戦もどうしようもない事に気が付いた。
離れていても駄目、近づいても駄目、正直八方塞がりで男は攻め手をなくしていたのだ。そんな心境にマオは気が付き再び声を掛けた。
「…1つ聞いておこう。先ほどの下のギルドを馬鹿にする態度は、お主個人のものか?それともお主のギルド全体がそのような考え方をしておるのか……答えてもらおうかのぅ」
マオの言葉に男は言いたい事が何なのか分かった。つまりギルド全体での考えなら一戦交える覚悟もあると言っているのだ。しかもマオの視線から嘘などを付いても全て見破られてしまう雰囲気も感じた。
「…貴女達のギルドを馬鹿にしていたのは俺個人の考えだ。…自分達のギルドがナンバー2だからと言って態度が大きくなっていた。今後は態度を改める……すまなかった」
男は立ち上がり武器をしまいマオに向かって頭を下げた。その礼は命乞いから来るものではなく、自分の考えが間違っていた事を認めた態度から来るものだった。
「反省したならそれで良い。妾も少々大人げなかったかもしれんしのぅ」
男の態度を見てマオも少しやり過ぎたかもと反省していた。
「いえ、天狗になっていたのは確かですから、その事を指摘してくれて感謝しています。…貴女がワイバーンの討伐に参加してくれるなら心強いと思いますので、ぜひご検討をお願いします。それではもう1つ、ギルドに行かないといけないので失礼します。」
そう言ってもう1度頭を下げてからギルドを去って行った。
「さて、妾も1階に戻るか。受付に誰もいないのは不味いからのぅ」
そして受付に戻ってみるとナビコスが受付に座って代わりをやってくれていたようだ。
「師匠、見事に反省させたようですね。あの人、私達にも頭を下げて謝って行きましたよ」
「お主も代わりをしていてくれたようじゃな。感謝するぞ」
ナビコスは「流石、師匠!」と言いたそうな態度で喜んでいて、先ほどまでの苛立ちは感じなかった。
「あれ?マオ、そんな所に座ってどうしたの?」
その後、少したったらギルドに大輝とジェームズが顔を出した。
「あ、ジェームズさんもおかえりなさい。用事は終わったんですか?」
「ああ…、終わったよ。お嬢ちゃんにも心配させたようだな、すまなかった」
ジェームズはそのままマオに頭を下げた。
「?、それで用事は何だったんですか?」
ドライブが頭を下げた理由も分からず、とりあえず大輝の所へ行った理由を聞いた。
「ああ、大輝が俺の武器を強化してくれたんだよ。お前達2人だけ属性持ちの武器だとバランスが悪いと言ってな」
そう言って背中から大剣を抜き、ドライブ達に見せた。
「刃が青いですね…これは水属性ですか?」
「…ああ、確かに水属性だが能力が……酷い事になった。とても人前では使えない能力になっているがな」
ジェームズの大剣はクリスタルの所が綺麗な青に染まっており、刃の根元に三角形の魔法陣が描かれていた。
「…いったいどういう効果になったんですか」
「…魔力を流すと水の刃を纏わせる事が出来るんだ。それだけならまともなんだが、…その水の刃は長さを使用者が変えれるんだ。しかもその水は形を自由に変えて飛ばす事が可能と来た。……ありえないよ、嬉しいんだが凄過ぎて素直に喜ぶ事ができないんだ」
ジェームズの大剣を見てナビコス達も微妙な顔をしていた。自分達の武器も魔道具として上位の方に値するが、これは明らかにランクが違ったのだ。
「でも師匠、この魔道具はさっきの依頼にピッタリ合いそうですね」
「そうじゃのぅ、では依頼書を持ってくるがよい。妾が受領してやるぞ」
マオが受付の仕事を変わってから一度も冒険者が来ていないのだ。そしてナビコス達が初めての客となるので嬉しくて張り切っていたのだ。
「それでなんでマオがそこにいるの?」
「ああ、いつもの受付の者が急用で、席を外さないといけなくなってのぅ。それで妾が代わりを務めているという訳じゃ」
そう言いながらマオは依頼を受領していく。
「ところでナビコス、いったい何の依頼を受領したんだ?」
ナビコスが依頼を受けようとしているが、ジェームズはその内容を聞いてはいないのだから疑問に思ったのだった。
「なに、シロップの占いで、近いうちにワイバーンがこの国に来る、と出たもんでその討伐依頼が来ておったのじゃ」
「!?。ワイバーンだって!そんな危険なモンスターの依頼を受けるなんて何を考えているんだ!」
ジェームズが気楽に依頼を受けようとしているナビコスに驚きながら怒鳴った。
「何を大声を出しておる?ほれ、ナビコス、受領書じゃ」
マオはジェームズの怒鳴った理由を気にせず依頼を受領させてしまったのだ。
「…まじかよ。ドライブも何を平然としている!ワイバーンだぞ、空を飛んでいるモンスターと戦うなんて普通の冒険者では不可能なんだぞ」
「自分も最初はそう思いましたが、師匠にワイバーンが降りてきたタイミングで翼を撃ち抜けば、もはやタダのトカゲだと言われて納得しました」
「……確かに大輝やお嬢ちゃんに掛かれば翼を撃ち抜くのは可能か。…それに今なら俺でも斬り落とせるかもしれんな。………いかんな、急激に武器が良くなっていくから考えが追いついていけないでいる」
大輝達と一緒に依頼を受けたのは2回、そして対抗戦の1回だ。そんな短い関係だがジェームズ達は2回武器を強化してもらっている。その強化の度に武器は段違いに性能が上がってしまったのだ。
叩きつける事しか出来なかった武器が、モンスターをスパスパ斬れるようになり、そして次は剣先は自由に伸びるは弾や斬撃として放つ事が出来るようにまでなったのだから、戦い方の想定が追いつかないのは仕方がない事だった。
「まあ良いではないか、大輝よ、妾達もこの依頼を受けるが構わぬか?」
マオが確認すると大輝は首を縦に振ったので、そのまま自分達の分も受領書を出した。
「それならジェームズは自分の武器に慣れる事から始めないとならぬのぅ」
「ああ、使用限界から応用までやる事は多いが、ワイバーンが攻めて来るまでには把握しておく」
そうして大輝達とジェームズ達はワイバーンに備える事にした。




