52話 魔法陣
52話 魔法陣
「今から材料を取って来るから少し待っててね」
そう言って棚から魔導石を数個とすり鉢の様な物を持ってきた。そしてそのまま魔導石を砕きすり鉢で粉にして少量の水で溶かした。
「これで下準備は終わりよ。…そしてここから魔力を流しながら魔法陣を描いていくのよ」
すり鉢の中の溶かした魔石を指に付けて布に円を描き、続いて中に三角形を描き最後に今まで以上の魔力を流して作業は終了した。
「これが一連の流れになるわ。どお?やれそうかしら?」
「この手の作業は大輝にとって専門分野じゃ!」
「そうだね。でも何をやってみようかな…」
大輝が悩んでいるとマオが左腕の篭手を指を指した。
「なら風の壁に試してみれば良いのではないか?」
「…なるほど、少しやってみたい事が思いついたよ」
そう言って大輝は篭手を外して魔法陣を描く準備を始めた。使用してみる魔石は<魔導高石>と<強風石>。これを合成して三角形の魔法陣の形に上乗せしたい効果のイメージを乗せて篭手に加工合成して描いた。
「……錬金術でそのまま魔石を魔法陣にするとはね。水で薄めない分高い効果を得られると思うわ。…しかし流石ね…、上位の魔石を当たり前のように持っているなんて」
「これは並んでいる時に時間とMPが余っていたから作っていたんですよ。それより今みたいな感じで良かったんですかね?」
「ええ、問題はないはずよ。風の壁と言っていたからどれだけ強化出来たか、ここで試してみると良いわ」
大輝は「はい」と答え篭手を装備し直した。
「それでは壁を出してみます」
その言葉と同時に大輝は篭手に魔力を流し風の壁を出した。
「おお!?、前に見た風の壁より倍ぐらい風の勢いがあるのではないか!?」
「…そ、そうだね。まさかこんなに変わるとは思わなかったよ」
大輝とマオはその変化に驚いていたが、その横でシロップが信じられない物を見るような顔で風の壁に目が釘付けになっていた。
「それじゃ次は今回やりたかった事をやってみるね」
「え!?」
大輝の言葉にシロップは「何を言いているの?」と言いたいような顔をした。そんな彼女をほかって置いて大輝は篭手に意識を向けた。
その瞬間、シロップはありえない物を見る事になってしまった。大輝の前に現れていた縦横2メートルの風の盾が形を変えていったのだ。その変化はとてもスムーズであり、あっという間に四角かった盾が丸い塊になり大輝の前で自在に動いていた。
「よし!イメージ通りに動くぞ」
「なるほど壁をそのまま武器にも使えるようにしたという訳じゃな」
「うん、ただ壁を出すだけより使用頻度が上がりそうだったからね。…でも使用するMPが倍ぐらいに増えるね。強風石を使って威力も上乗せしたから仕方がないと言えば仕方がないけどね」
そんな風に日常会話をするような感じで話をしている大輝達にシロップは遅れて意識を取り戻した。
「…貴方達は何で普通に話していられるんですか?使用者が自在にコントロール出来るのは既に魔道具の範囲を超えていますよ?」
魔道具とは製作した時に効果は決定しており、後は使用者が決められた魔力を流すと決められた効果が発動する事が常識とされているのだ。
「?。そういう物なのか?別に使用する者の自由になっただけであろう?」
マオはこの現象がそれほど凄い物とは認識出来ていなのだ。なにしろマオのいた世界では普通に攻撃魔法があり、その形状は術者の自由だったのだから魔道具でそれを行なっただけにしか思えないだった。
「まー便利になっただけだしね」
「……流石、異世界人とでも言えば良いのでしょうか。これはこの世界の魔道具の常識を壊してしまうほどの物ですわ。…魔法陣を描く時に非常識な魔力を使っていますので、量産や他の人には真似が出来ないでしょうから高位のアーティファクトとしか思われないでしょうけど……あまり人には見せない方が良いですわね。おそらく国が乗り出して国宝にすると言って持っていかれてしまいますでしょうから」
「国が乗り出すと言うのか?個人の持ち物を権力で奪うとはけしからんのぅ」
シロップの話を聞きマオが怒ったような不機嫌な顔をしている。
「それほど凄い魔道具と言う事ですわ」
「それなら魔法陣を利用するのは最低限に抑えておいた方が良さそうだね。とりあえずマオの魔導書と流水のリボン、僕の刀くらいかな」
ここまできっぱりと言い切られたので大輝は素直に忠告を聞く事にしたのだ。
「それらをどのように強化する予定なんじゃ?」
「リボンは僕の篭手と同じように操作出来るようにして、魔導書は表紙に魔法陣を描き全ページを強化出来るように、そして僕の刀は4つの属性と無属性を状況に応じて変えれるようにする予定だね」
「…なるほど、それらなら目立たず強化出来るのぅ」
大輝は使用頻度の少ない魔道具を選んで強化する事にしたのだ。
「ほどほどにしてくださいね」
「忠告ありがとうございました。装備を強化して転移のダンジョンに潜る許可が出るのを待ちます」
「さて、用は済んだ事だしそろそろ宿に戻るとするかのぅ。あまり遅いとリリィが心配するじゃろうからな。シロップよ、世話になったな」
「こちらこそ最高の水晶をいただきましたから構いませんわ」
お礼を交わし終わり大輝達は席を立ちリリィの宿に向かって帰っていった。
「……まったく常識の通じない人達でしたわ。でも今後巻き込まれる事を考えるとあれぐらいの装備は必要なのかもしれませんわね」
シロップは大輝達が出ていった後の部屋で1人呟いた。
「リリィよ!今帰ったぞ」
宿に着いて挨拶をした後そのまま食事を頼んだ。
「それで並んだ価値はありましたか?」
食事を済ませたタイミングでリリィが席に着き成果を聞いてきた。
「かなりの成果があったよ。魔法陣の描き方を教えて貰い、実際に描いて確認もして貰ったから後は何度か試して慣れる必要があるくらいかな。それと転移に必要な魔石も聞けたからね」
「…また大騒ぎになるような物は作っていませんよね?」
「……………」
リリィの鋭い質問に大輝とマオは同時に目をそらした。
「…なぜ2人共目をそらして黙っているんですか?ちゃんと顔を見て話してくださいよ」
言葉使いは優しく顔は笑顔になっているが目が笑っていない。リリィの後ろに「ドドドドド!」と字が浮かんで見えるような気がするオーラが出ているのだ。
「べ、別に妾はそこまで騒ぎになるとは思わない物なのだが……」
「ぼ、僕の持っている篭手から出せる風の壁を自由に形を変えたり動かしたり出来るようにした…だけ、です」
「…それは他の人が使っても自由に出来る物を作ったと言う事ですね?」
「…はい」
「……………」
大輝の返事を聞き、リリィが笑顔のまま何もしゃべろうとしない。ただ目の笑っていない笑顔で大輝達を見つめるだけなのだがダメージを受けていく。……沈黙が痛い。
「…ごめんなさい。まさかそんなに凄い物とは思いもせず作ってしまいました。シロップさんにも注意を受けました。ですから何かしゃべってくださいお願いします」
無言のプレッシャーに耐え切れず大輝の精神的のHPは限界まで削られ平謝りするしかなくなってしまった。
「…まったくおそらくシロップさんにも言われたと思いますけど、自然の力を自在に操れたらそれはもう魔法です。この世界にはない攻撃魔法を開発したようなものなんですよ。そういう所をもう少し考えてから物作りをしてくださいね」
「はい。今後気をつけます」
リリィの顔から作り笑顔が消えてくれて大輝もマオもほっと一息つく事が出来た。
「それで何を占ってもらったんですか?」
「え!?」
「ですから占い師に会いに行ったんですから当然何か占ってもらったんですよね?」
「…まったくもって忘れておったわ。そうじゃよ2日も並んで会ったんじゃから占いぐらいしてもらっても良かったではないか」
「…僕達が見てもらったのって名前を当てられたくらいだよね。その後は水晶を渡して魔法陣の知識を教えてもらって別れちゃったよ。勿体無い事をしちゃたね」
大輝達は出会い頭に名前を当てられ、その後は魔方陣に夢中で占いの事など頭の片隅にもなくなっていたのだ。その事をリリィに言われて2人は後悔しだしたのだった。
「まー、一番の目的は達成出来たし帰る為の方法も聞けたんだから良かったじゃないですか」
落ち込んでいる2人をリリィが慰めてくれた。
「…そうだね。帰る手段までハッキリしたんだから文句はないよね」
大輝はいつまでも落ち込んでいられないと自分を奮い立たせた。
「そうじゃな、それでリリィよ。妾のランクがどうなるか連絡はきよったか?」
「あ!はい、今日の昼頃に連絡が来てマオちゃんのランクを5級にするとの事です。同時に転移のダンジョンへの許可書も届けてくれました」
そう言ってリリィは一枚の紙をテーブルに置いた。その紙には転移のダンジョンへの許可書と書かれており、下の方にはマオの名前も書いていた。
「それとヴァイオレットのギルドに大輝さんが作ったサポート用の魔道具を届けておきました。10級の依頼はお互いのギルドで受けれるようにしましたので子供でも行える依頼には手を出さないでくださいね」
「順調に話が進んでいけているようだね」
「はい!マオちゃんが5級に上がった事で私のギルドで今まで以上のランクの依頼を受ける事が出来ます。それにナビコスさんとドライブさんもランクが上がって、2人とも7級に昇格しましたので冒険者の層も厚くなり信頼度も上がっていくと思われます」
ギルドのランクを上げる事が順調に進んでいる事にリリィは少し浮かれているようだったが、今の話を聞き大輝は1つ問題が出た事に気が付いた。
「…ナビコス達が7級になったという事はジェームズさんのランクを超えてしまってるよね?リーダーのランクが一番下っていうのは大丈夫なのかな…」
大輝の一言にリリィも気が付いて冷静になり「確かに問題です」と小声で言っている。実際問題なのはランクだけではなく装備も対抗戦用に2人の装備は魔道具化しているがジェームズの武器はそのままなのである。今は知識が勝っているから大丈夫だろうけどパワーバランスが崩れてチームが崩壊するのだけは避けたいと思っているのだ。
「ならせめてジェームズの武器も強化してやらねばならんかもしれんのぅ。…どうじゃ明日にでもジェームズを呼んでみては?」
「そうだね。リリィ、ギルドに顔を出したら僕達の所にもらえるようにして頼んどいてくれるかな?」
「はい、私も問題が大きくなる前にどうにかした方が良いと思いますので協力は惜しみませんよ」
「それじゃ、明日は部屋で武具強化で篭るからジェームズさんが着たら教えてね」
「なら妾は適当な依頼でもこなしておくかのぅ」
「なら明日の予定も各自決まったし後はMPを使ってから寝ようか」
マオが頷くのを確認し大輝達は自分達の部屋に向かって歩いていった。




