49話 ヴァイオレットの事情
49話 ヴァイオレットの事情
「ちょっと待て!」
「…なんじゃ、突然大声を出しおって」
近くにいるのに大声を出してきた者にマオは顔をしかめて睨みつけた。
「クライムは何も言わないから俺がハッキリ言ってやる。お前の持っている魔道具はどれ1つとっても非常に強力な物ばかりだ。そんな魔道具をお前のような小娘に持たせておくなんて危険な事だ。だからここは各ギルドに平等に振り分けて保管する事を俺は進言する」
「おいおい、この子は小さくても冒険者なんだぞ。いくらギルドマスターとしてもそんな事を強要出来る訳がないだろう」
あまりの横暴な事を言いだす者にクライムは異論を唱える。
「お前は何を甘い事を言っているんだ。もしこの小娘が癇癪でも起こして町中で大岩でも出してみろ。それこそ大惨事になるんだぞ!そうなる前に対応するのはギルドマスターとして当然の事だろ!」
「…聞いておれば好き勝手言いおって。妾がいつそんな事をしたと言うのじゃ」
「少し前の話だがスラム街で建物が一瞬で焼き払われたと言う話を聞いた事がある。おそらくだがそれをやったのはお前じゃないのか?」
マオは少し前に迷子になった時の事を思い出した。
「あれは確かに妾のやった事じゃが、あんな悪党を野ざらしには出んじゃろ。聞いた話では国は何もしないで黙認しているとの事じゃった。お主らは何か行動を起こしていたのか?」
「依頼もないのに動ける訳がないだろう。だが見ろ、何の下調べもなく建物ごと焼き払ったんだ。そんな事が日常で行われればこの国は滅んでしまうぞ」
「誰が下調べもしてないと言ったのじゃ。ちゃんと中に入ってボスとやらに話を聞いたぞ。その後これ以上この辺りの者を苦しめるのはやめて出て行けと言ったら襲ってきたのじゃ。正当防衛というやつじゃな」
「…まさか1人でそんな所に乗り込んだのか?だが直接話をした上での事なら疑う事もないだろう。それにあの周辺の人は依頼を出す金もないだろうし、悪い噂は流れてきていたから動かなかった我々の方こそ問題があるとも言えるな」
「俺達は冒険者ギルドだ。慈善事業ではないんだから仕方がないだろう!」
「くく、この町を心配して妾から魔道具を奪おうとしていた者がスラム街の事には動かない事は仕方がないと言うのぅ」
「くっ!?」
マオの確信にせまる言葉に何も言えなくなってしまう。
「さてその話は終わりで良いじゃろう?…そうじゃヴァイオレットとやら、お主に少し聞きたい事があるのでこの後に時間を貰えぬか?」
「!?、な、何を聞きたいかは分かりませんが私は構いません」
突然の事に驚いたがヴァイオレットも先ほど庇ってくれた理由を聞きたかったので了承した。
「…おっと1つ聞きたい事があったのじゃ。妾の冒険者ランクを上げて欲しいんじゃよ」
「確かにあそこまでの活躍をすれば冒険者ランクを上げる事にはなるが…希望があるのか?」
「うむ、転移のダンジョンに潜りたいからランク5を希望するのじゃ」
「…転移のダンジョンを目指すか…確かに潜るのに相応しい実力を示してはいるがこの場で即決とはいかないから少し時間をくれ」
「分かったのじゃ。では今日はお開きという事で構わぬな?」
「ああ、魔道具の調査は俺達がするが、見付けた時の確認はやってもらうと思うからその時はまた来てくれ」
「了解じゃ。それでは行くとするかのぅ、リリィ、ヴァイオレット」
「「あ、はい!」」
周りから見ればギルドマスター2人を引きつれているように見えるが、あまりに堂々としているマオの貫禄から違和感なく感じたのは仕方がない事だった。
「…あのー、会議の時になぜ私の話に合わせてくれたんですか?」
リリィの宿に帰って来たマオ達に早速ヴァイオレットが質問をした。
「なに、妾も聞きたい事があったから時間を取られたくなかっただけじゃ。それにあ奴らは火の魔道具以外は使ってはおらんかったからのぅ」
「な!?なぜそう言いきれるのですか?」
軽く質問したら一番知られたくなかった事をあっさり言われて、平然を装ってはいたが目は泳いでおり動揺を隠し切れてはいなかった。
「あれ、マオおかえり。ずいぶん早かったね」
「大輝か、ただいまじゃ。知らぬ事は聞かれても答えようがないからのぅ」
「それもそうだよね。それでその人は?魔族の人って結構この国にいるんだね」
「「な!?」」
大輝が現れたと思ったらさらりと爆弾発言を言いリリィとヴァイオレットが目を見開いて驚いた。
「そうなんじゃよ。しかもこの者はリリィと仲が良いと言っておったから興味がわいてのぅ」
「ハハ、リリィも魔族は危険と言っておきながら仲が良いじゃないか」
「ちょ、ちょっと待ってください。ヴァイオレット、どういう事ですか?」
出会いがしらに正体がばれてしまい動揺して下を俯いたまま何もいわない。
「何を驚いておるのじゃ?」
「…だって魔族って急に言われて驚かない方がおかしいですよ」
「……そう言えば彼らが対戦した者に正体がばれたと言っていました。私の事も含めどうして分かったんですか?」
「最近良く聞かれるような気がするけど、瘴気が体から漏れ出るのを止めないと見る人が見れば分かるよ」
「そんなに簡単に分かる事ではないはずですが、…それで我々をどうするつもりですか?国や他のギルドに言って退治しますか?」
ヴァイオレットは覚悟を決めたように大輝を睨みつけている。もし公開されて仲間達に危害が及ぶのならこの場で口を封じるのも仕方がないと思ったのだ。
「え?別に何もしないよ。ただ魔族なら人の知らない知識みたいなものがあるかもって興味があるだけだらね」
「……貴方達は魔族が怖くないのですか?この世界は魔王や魔族によって人は苦しめられているのですよ?」
大輝の気の抜けた理由を聞き驚きながらも警戒を解いてはいない。
「別に魔族だからって全員が悪い事をしている訳ではないから種族を理由で怖がらないよ」
「…貴方は変わった人ですね。…すみませんリリィ。彼の言った通り私は魔族です。…今まで隠していて、…怖く、なりますよね」
ヴァイオレットはリリィの顔を見て少し悲しい顔をして下を向いてしまった。
「…昨日大輝さん達に言われて気が付いたんです。話もしないで周りの評判だけで判断するのは間違っているって。…ヴァイオレットとは長い間普通に接してきて友達と思っています。さっきは急に言われたから驚いたけど…魔族だからって悪い人ではないと知っています。だから私は付き合い方を変えるつもりはありません」
「リリィ…」
「ごめんね。私が魔族は怖いなんて何度か言っていたから言えなかったんだね。知らなかったからとはいえ友達に怖いなんて酷いよね」
「ううん。言えなかったのは私がリリィに嫌われるのを恐れただけ。リリィなら分かってくれるって思っていても勇気を出せなかった私が悪いんです。…でも今は嬉しいです。とても…嬉しいですよ」
「ヴァイオレット」
ヴァイオレットの長年隠してきた事を知り、それでも友達として変わらないでくれると言ってくれたリリィに嬉しくて涙を流した。そんな彼女に気が付いたリリィはそっと抱き締めてあげ、お互いに謝りながら暫く泣いていた。
「…マオ、やっぱり種族が違うから分かりあえないって事はないね」
「そうじゃな。妾も少し勇気を貰った気がするのぅ」
大輝達は2人の関係を見ながらそう呟いていた。
「さて、妾からの質問じゃがこの国には結構な数の魔族がいると見てよいのか?」
2人が落ち着くのを待ちマオが聞きたかった事を問いかけた。
「いえ、そこまでの数はいません。せいぜい50人程度ですね」
「ほどほどにはいるのぅ。してその者達は何をするつもりでこの国にいるのじゃ」
「…理由は生きる為です。人型の魔族は力が弱くて外の世界では生きてはいけません。それにこの国にいる者はほとんどが子供で誰かが保護しないと死んでしまう子達ばかりなんです」
「!?。まさかヴァイオレットのギルドの経営がピンチなのって…」
リリィが何かに気が付いたようにハッとした。
「…恥ずかしい話だけど弱小ギルドが儲けの出ない事にお金を使えば共倒れになるって分かってはいたんですけどね」
「もしかして2000ゴールドを賭けておったのは目立つのを覚悟しての最後の手段じゃったのか?」
「……………」
ヴァイオレットは何も言えないかった。言えば優勝を持っていったリリィ達を責める事になってしまうからだ。しかしその雰囲気から声には出さなくてももはや後がない所まで来ているのは分かってしまった。
「…ごめんなさい。こんなタイミングで私がギルドを大きくしようなんて思ったから」
「違います。ギルドを大きくしようとするのは当然の事です。悪いのは私が安易な方法でお金を稼ごうとしたのがいけなかったんです。リリィには落ち度はありません」
「でも…ヴァイオレット、いったいいくら稼ぐ必要があったんですか?」
「それを言ったら貴女はどうにかして工面しようとしてしまうでしょ。だから言えません」
「それは…」
「なら、妾に教えてくれんかのう。なに昼間に庇ってやったお礼と思ってこっそりと」
チラリとマオは大輝の方を見て、その事で何かを悟った大輝は席を離れ自分達の部屋に向かっていった。
「…それを言われると断れないですね。…絶対内緒ですからね」
そうしてマオの耳元に金額を呟いた。
「……なんと!20000ゴールドとは大金じゃな」
「な!?何をいきなり大声でばらしているんですか!?」
「20000、ゴールド…そんな大金…」
その金額を聞いて顔を青くするリリィ、20000ゴールドと言えば普通の家が何件か買えてしまう金額だ。そんなお金をすぐに用意するなんて事は不可能な金額だったのだ。




