47話 反省会と大輝の過去
47話 反省会と大輝の過去
宿に帰ってきて一番疲れた顔をしていたリリィはテーブルに額を当てていて、顔を起こすのも億劫な感じだった。
「…お疲れ様、リリィ」
「……まだ全然終わっていません。今日はもう遅いという事で解放されただけです」
「リリィよ、あまり無理はするでないぞ」
「……無理を、するなですか………フ、フフフ…」
マオのまるで自分は関係ないと思っている労いの言葉を聞いたリリィが顔を下げたまま笑い始めた。
「リリィ?」
「どうしたのじゃ?」
「フフフフフ、マオちゃん…私がなぜこんなに苦労しているか、……分かりますか?」
「なんじゃクイズか?そうじゃのぅ………」
腕を組み首を傾げて悩んでいる。
「……さっぱりじゃ!」
「貴女が対抗戦であんなにポンポン魔道具を使うものだから他のギルドマスターやら貴族やらに質問攻めに合っているんじゃないですか!!!ナビコスさん達の武器をギルドの秘蔵の一品にしたのは良いですけど、そんな中で貴女があんなに沢山の種類の魔道具を使ってはどうやって言い訳すれば良いって言うんですか!?」
「リリィ、少し落ち着いて」
「大体、あの試合であんなに魔道具を使う必要があったんですか!?絶対必要ありませんでしたよね?特にあの大岩を落としていた時、相手が避けるのを分かった上で使っていましたよね?それに最後に皆の前で岩を回収しなくてもいいじゃないですか!!!!!」
「じゃが、戦いじゃぞ?妾の持てる技量を皆に見せなくてはいかんじゃろ?」
「必要以上はいりません!」
「大丈夫じゃよ。妾は仮面を着けておったから正体はばれんぞ」
「貴女が正体不明でも私はギルドマスターとして貴女を指名しているのだから問い詰められるに決まっているじゃないですか!」
「…う、うむ…」
リリィに完全に言い負けてしまい、マオは何も言えなくなってしまった。
「まあまあ、ギルドマスターも落ち着いて。お嬢ちゃんは確かにやり過ぎてはいたが高成績を残してくれたんだから今は今後の事を考えよう」
「ジェ、ジェームズさん~…確かにマオちゃんには感謝していますよ。ですが空を飛び、大岩を落とし、水の膜で火や攻撃を防ぎ、クリスタルの細剣や魔導書を何もない空間から取り出し、ポーションまで使ってと、これだけの事をどうやって大事にしないで言い訳すれば良いんですか~?」
すでにリリィの目から涙が流れている。言えば開放されるが真実は言えないという、上と下に挟まれた見事な中間管理職の立場がきつくて泣いてしまったのだ。その後も解決方法をいろいろ考えていると予想外の人物から案が出た。
「もう師匠個人が謎の魔道具職人から譲り受けた物を使っていたで良いんじゃないですか?師匠本人も知らない人という事にしておけば、何とかなりますよ」
ナビコスの気楽な一言が場に静かに広がった。
「…それではマオちゃんにも呼び出しが来てしまいますよ」
「妾はそれで構わぬぞ?」
「良いんですか!?」
「別に知らぬ存ぜぬで押し通すだけじゃろ?別に難しい事はないではないか」
「本当ですね!?では明日ぜひ一緒に来てくださいよ。もう来てくれないとまた泣いてしまいますよ」
先ほどまで泣いていたのが嘘のように元気になり、顔に活気がみなぎっていた。どうやら感情が不安定になるほどリリィは追い込まれていたようだった。
「分かった、分かった。約束じゃ。だからもう泣くでないぞ」
「…大丈夫です。もう解決したようなものだから泣きません」
困っている原因の一端を担っているマオが椅子の上に立ちリリィの頭を撫でて慰めている。ジェームズ達はその光景を「あんたが慰めるのか?」という微妙な顔をして見ていた。
「そう言えばリリィよ。この国には普通に魔族が住んでおるのか?」
「?。そんな話は聞いた事もありませんよ?どうしたんですか急にそんな話をして?」
突然の話の変化と内容にマオの真意の分からずリリィは首を傾げながら答えた。
「ああ、今日の決勝の相手が魔族だったんだよ。それで人型の魔族は普通に暮らしているのかなって多分疑問になったんだよ」
「……………え?決勝の相手の方って魔族だったんですか?」
「相手も見破られて驚いていたからほんとの事だと思うよ」
大輝、マオに続いてナビコスも認識しているので、嘘や冗談ではないとリリィも分かってしまい混乱して何も言えなくなっている。
「まー、魔族と言っても人の身体能力とそうは変わらない奴らじゃったからのぅ」
「人型で力もない魔族は人として生活した方が安全だろうからね。それに彼らは対戦相手を殺そうとはしていなかったから悪い人ではないと思うしね」
「ハハ、案外探してみると国の中に結構な数の魔族がいたりして」
「笑い事ではないですよ!魔族がいるなんて危ないじゃないですか!?」
マオ達があまりに危機感を持っていない事にリリィは驚きながら言った。
「何を言っておるのじゃ?人に良い奴と悪い奴がおるのと一緒で魔族にもいろいろおるのじゃぞ?」
「……それはそうかもしれませんけど…」
「僕も魔族は全員悪い人とは思っていないよ。それに魔族は実力主義の所があるから戦ってもあっさりしているしね。その点、生きる為でもないのに相手を苦しめる同じ人間の方が怖いよ」
まるで過去に何かがあったような雰囲気の話にリリィはこれ以上何も言えなくなってしまった。
「…大輝よ、言いたくない事は無理に言わんでよいぞ」
重い沈黙と明らかに大輝の表情が暗くなっている事に気付いてマオが優しく声をかけフォローする。
「……ありがとう。僕は大丈夫だから。…それで魔族の話だけど、僕はあの3人は大丈夫だと思うよ」
「妾もそう思うぞ。明日ギルドマスター達に会うのじゃから話を聞いてみるかのぅ」
「…そう、ですね。話も聞かないでイメージだけで否定するのは良くありませんものね」
「なら今日はお開きじゃな。流石の妾も疲れたぞ」
「確かに今日はもう遅いですものね。それでは明日は朝から集まりますのでよろしくお願いしますね」
そうして今日はお開きをなり、大輝達は部屋に戻って行った。
「それじゃあ、今日はもう寝ようか」
「…その前にお主に聞きたい事があるのじゃが良いか?」
「?、何を聞きたいの?」
「嫌なら答えんでよいが、先ほどの言葉が気になってのぅ。……お主、過去に何があったのじゃ?頑なに目立つ事を避けている事と、先ほどの魔族よりも人間の方が怖いと言う言葉は繋がっておるのじゃろ?」
「…その事か…ハハ、やっぱりそう繋がっちゃうよね」
大輝は笑っているがその顔は見ていて辛く感じてしまう笑顔であった。
「先ほども言ったが無理はせんでよいぞ?」
「いや話すよ。…たいした話ではないからね」
そうして大輝が静かに語りだした。大輝が小学生の頃は勉強が出来て行動力もありクラスでは目立った存在だった。友達からは頼りにされ担任の先生からも期待されいたのだ。
しかし1学年上がった時の事であった。その学年の担任教師は前年度、大輝がいたクラスと比較され続けておりその中心にいた者を逆恨みしていたのだ。そしてその教師が担当していた生徒も文句を言い続けられており大輝を恨んでいる者がいた為、クラス内で孤立するのに時間は掛からなかった。更に大輝の評判を落とそうとあからさまな嘘をクラスメイトが言っても、担任教師がグルとなっていては本当の事として広められてしまい、1ヶ月もしない内に勉強が出来たのはカンニングをしていたから、影では他の生徒を脅して動かしていた、など学校中に広がってしまっていたのだ。そんな状況になってしまえば挽回は出来ず、嫌がらせはエスカレートしていくだけだった。
大輝は考えていた。なぜこうなったのか?どうすれば良かったのか?なぜ自分1人だけが対象になったのか?そんな事ばかり考えながら中学を卒業するまでの7年間続いた。その頃になると大輝の中で結論が出ていた。クラスメイトからも教師からも注目を集めた、目立った行動をしたのが原因だったと。悪い事をすれば叩かれ、良い事をしても目立てば結局叩かれるのが人の世の中、ならば目立たずひっそり暮らすのが一番の幸せだとまとめたのだ。
「僕のいた世界の人間は1人で行動を起こせば異端だとして弾かれ、大勢で行動を起こせばたとえ間違っていてもそれは正しい行動として認めるんだよ。人を見ないで評判や正しい保障もない前科で差別する者ばかりでね。目立たない、それが僕の処世術となった訳さ」
大輝が話し終わると覇気のない笑顔で椅子に座って下を見ている。そんな大輝にマオは近づいていき顔を抱いてあげた。
「…大輝よ辛かったであろう。何を言っても信じてもらえず、何をやっても評価されぬ、そんな生き地獄をよう耐え抜いた。じゃが妾は信じよう。お主の今までの行動と言葉を見てきた妾は何があっても信じ抜いてやるぞ」
「……もしかしたらマオを騙して世界征服でも始めちゃうかもしれないよ?」
「例えそうなっても妾は信じて手を貸してやるぞ。じゃがお主はそんな事が出来ぬ者と知っているがのぅ」
「…人は怖いよ。もしかしたら明日にも僕達を囲って責め立てるかもしれないよ?」
「その時は妾が全て殲滅してやるだけじゃ。信じた者の為に罪を被り守る事に後悔なんぞせん」
「でももしかしたら……」
「例えどんな事が起ころうと妾はお主を信じて共に歩んでやる。2人ではどうにもならん事が起こったらその時は一緒に逃げるのじゃ。また新たな地で生活を続ければよい。なに、お主と2人なら多少の困難など苦にもならぬわ」
更に何かを言おうとした大輝をマオは優しい声で遮り、どんな事があっても一緒にいてくれると言ってくれたのだ。
「…ありがとう、ありがとう……」
大輝はマオの胸で泣いた。ずっと欲しかった安心感と温もり、7年間誰に何を言っても信じてもらえず孤独だった冷めた心を暖めてくれて嬉しくてしばらく泣き続けていた。
「…ありがとう。もう大丈夫だよ」
「そうか。もし甘えたくなったらまた言うがよい」
「そんなに何度も甘えてばっかりはいられないよ」
「フフ、男は少しくらい弱い所を見せた方がもてるぞ」
「こんなのマオ以外には恥ずかしくて出来ないよ」
「それは信用されていると受け取っておこう。…さて、いろいろ合ったが今日はもう寝るとするかのぅ」
「そうだね。……お休み」
「お休みじゃ、良い夢が見れるといいのぅ」
大輝は安心しきった顔で眠りについていったのだった。




