44話 チームマオの戦い
44話 チームマオの戦い
今日は冒険者ギルド対抗戦の日だ。朝から宿に全員集まって最後の確認と食事をする事にしたのだ。
「…皆さん、今日はよろしくお願いします。でも無理はしないでくださいね。ポーションは持ちましたか?武器は?忘れ物はありませんか?」
「少しは落ち着かんか!お主がそんなのだと他の者に伝染してしまうぞ」
「……そうですね、すみませんでした。もう大丈夫です」
マオに一喝されて落ち着きを取り戻したがまだソワソワしている。
「ギルドマスター安心してください。こいつ等はきっと良い成績を残してくれますから大丈夫ですよ」
「確かに今心配をしないといけないのはマオがやり過ぎないかという事と、冒険者ランクの低い3人がどうして勝ち上がってこれたかと、聞かれた時の言い訳をしないといけないリリィだよ」
そう、この3人は冒険者ランクが低いのだ。ナビコスとドライブが9級の冒険者、マオに至っては冒険者になりたての10級だ。まず間違いなくどこから引き抜いてきたかと聞かれるのは明らかな事なのだ。
「妾はちゃんと手加減の練習を済ませておるから大丈夫じゃ」
「私は……どうしましょう…まるで考えていませんでした」
「そうだな。よく考えてみればナビコス達は前回も出ているからまだいいが、お嬢ちゃんは特異すぎるから今の内に考えていた方がいいな」
大輝の当日になっていきなり言い出した問題に全員が考え込んでしまった。もちろん大輝は理由を考えてはいたが下手に緊張をして疲れてしまうよりは別事を考えている方が良いと判断したので黙っているのだ。会場へ移動しないといけない時刻に近づいても考えが纏まらなかったので大輝が。
「マオはフリーの旅人でギルドに入ったばかりの期待の新人、って事でいいんじゃないかな」
特に嘘もないが過去を詮索しない冒険者ギルドとしてはこれで済むはずなのである。
「…それで押し通すのが一番確実ですね。皆さんも聞かれたらそう答えてください」
「さて、答えも出たしそろそろ会場に向かうとするか」
リリィが口裏合わせを頼んだところで、ジェームズが出発を促し全員が席を立ち会場に向かった。
会場に着いた時にはすでにかなりの賑わいを見せていた。入り口のまでの通りは屋台がびっしり並んでおり所々でどのギルドが優勝するかを賭けが発生しているようだ。
「僕も賭けてみようかな。僕たちのギルドは、…あ~、やっぱりオッズが酷い事になってるな」
「大輝、その店は優勝するギルドを賭ける店だ。うちに賭けるならあっちの3位までに入ればいい店にした方が良いんじゃないか?」
「どうせ優勝するんですからこっちの方が倍率は良いですよ。おっちゃんリリィのギルドに3000ゴールド賭けるよ」
「…お前さん、大穴に賭けるのに3000は多すぎるぞ。金を溝に捨てるようなもんだ。悪い事は言わないから他に賭けるか減らすかした方がいいぞ」
まさかの店の人からの同情をかってしまった。大輝はよほど前回の戦いが酷かったんだと思い苦笑したが賭ける対象を変えるつもりはまったくなかったのだ。
「いや大丈夫だ。リリィのギルドに一点賭けでよろしく!」
「そこまで言うなら止めねえよ。しっかり応援してやんな」
「はい、しっかり応援しましたから大丈夫ですよ」
そうして大輝は3000ゴールドを賭けて皆の所に合流した。
「さて皆、僕とジェームズさんは観客席から見てるから頑張ってね」
「任せるがよい。お主には損はさせんよ」
「ははは、それじゃあよろしくね」
そう言ってリリィとマオ達は選手専用の入り口から中に入って行き、大輝達も観客席の方へ歩いていった。
マオ達の対戦は第2試合目だった。相手は前回3位のギルドで基本に忠実な動きをするチームだった。
「さて祭の始まりじゃ!張り切っていくぞ!」
「はい、師匠!」
試合開始と同時にマオ達は相手チームに向かって駆け出していた。相手チームは前回の戦いを知っているのかその場から動かず魔道具による攻撃を行い、待ち構える作戦に出ていた。ただ疑問が浮かんでいたのは見たところ杖を持った魔導師タイプで猫の仮面を着けた子供が先頭を走ってきているのだ。接近戦をやろうとしているのに魔導師が前、盾持ちが後から追いかけてくる変則的な行動に少し動揺しているのだ。
「師匠!火の玉が来ます」
「分かっておる、<ファイヤーボール>!」
走りながら飛んでくる火の玉に合わせてマオが火の玉放つ。相手にとってその技術だけでも目を見張るものがあったが、それ以上にマオの火の玉は消滅せずに向かって来たのだ。攻撃を仕掛けたはずが攻撃されている事に驚き反応が遅れそのまま陣形が崩れた。そんな大きい隙をマオが見逃すはずもなく、あっさり2発目のファイヤーボールで相手のアタッカーを沈黙させる。この段階で勝負はほぼ決まっていた。相手の魔導師はマオに一方的に押され、残った1人もナビコスとドライブの2人に攻め込まれれば何も出来ずに沈黙した。3対1になった段階で相手はギブアップを宣言し勝負は決まった。
「…あっけないのぅ。せっかくの武器が使えなんだぞ」
「そりゃあ師匠に比べたらそんなもんですよ。なので次の試合は師匠は後列で迎撃専門でお願いします。私達も実力を試してみたいんですから」
「…わかったのじゃ。次はスタート位置から動かないとするかのぅ」
当人達の気持ちとは裏腹に会場は大いに盛り上がっていた。下位のギルドが上位のギルドに圧勝したのだから当然と言えば当然の事なのだが。そして予想通りギルドマスターの席ではリリィへの質問が飛び交っているようで大勢の人が囲むように集まっていた。
そして2回戦目が始まろうとしていた。しかしマオ達のチームはマオ以外が元気がなさそうに肩を落としている。
「な、なんで基本通りのチームで来てくれないかな」
「…まったくだな。まさか魔導師3人でチームを組んで来るとはな。また俺達の出番は少なそうだ」
そう、相手は魔導師のみでチームを組み近づかれる前に倒すスタイルで行くようだった。試合が始まりナビコス達が落ち込む理由が明確になった。前回の試合で約束した通りマオはスタート位置からは動かず迎撃しかしなかった。迎撃しかしなかったが相手は魔導師しかいない為、相手がいくらナビコス達に火の玉などを放っても次の瞬間炎の矢が撃ち抜き消滅させてしまい、攻撃を完全に止めてしまっているのだ。もちろんそんな状態で相手が勝てる訳もなく、あっさりナビコス達に接近を許してしまい敗北した。
会場にいる一般の客は仮面を被った謎の少女の技量に興奮して見ていたが、冒険者や戦いの経験を持つ者にはその技量と魔道具のありえない性能に声を出す事すら出来ないほどの驚きを見せているのだ。
「今の所は順調だけど、決勝は苦労するかもしれないな」
大輝の呟きに隣にいるジェームズが答える。
「そうだなおそらく次は前回優勝のチームが相手だから今までのようには行かないだろうな」
「…いや、多分前回優勝チームは負けるよ。決勝の相手は最下位のギルドだと思うよ」
「だがあそこは一試合目をギリギリ勝ったチームだぞ!?見た限りでは次を勝てるとは思えないんだが…」
ジェームズが大輝の真面目な顔での予想に自分には分からない何かがあると思い聞いてくる。
「あのチームはわざと手を抜いていたよ。それにあの3人は恐らく魔族だよ」
「な!?」
大輝の発言にジェームズが驚愕して目を見開いている。
「どういう事だ?なぜそんな事が分かる?」
「なんて言うか、あの3人から瘴気が出てるように見えるんですよ。絶対とは言えないけど準決勝であのチームが勝てばまず間違いがないと思うよ」
「…ならナビコス達を止めないと」
「まだ決まった訳ではないし、仮にそうだとしてもマオ達は大丈夫ですよ。あの3人は魔王ではなさそうですし、対戦相手を殺してはいないので何か目的があるのかもしれません。そしてポーションだって持っているからすぐにどうにかなる事はありません。…それより魔族が参加しているギルドの方がどうなっているか心配ですけどね」
もし、ギルドが魔族に乗っ取られているなら、既にこの国に魔族が入り込んでいる事になるのだ。そうして大輝の予想通り決勝は前回最下位と下から2番目のチームという大番狂わせの形になった。




