41話 リリィの正体
41話 リリィの正体
大輝達一行は冒険者ギルドに到着し受付に向かった。
「依頼達成の報告に来ました」
大輝達の姿を見て受付のおっちゃんが席を立った。
「お前達無事だったか!昨日の護衛依頼に向かって今まで報告がないから、もしかしたらと思っていたところだったぞ」
「心配させてしまって、すみませんでした。トラブルに巻き込まれて5階層まで飛ばされてしまったんですよ。それで帰るのに1日掛かってしまったんですよ」
「な!?…お前達何を言っているんだ?あのダンジョンでそんなトラップがあるなんて聞いた事がないぞ」
あのダンジョンにトラップがあるなんて事は聞いた事がないので大輝の言った事が信じられないのだ。
「今の話に嘘がないのは俺達が保証する。それに依頼人に聞いてもらえば証人になってくれるはずだ。依頼料も3倍出すとまで言ってくれたからな」
信じられない様子なのでジェームズが助け船を出してくれた。
「…3倍だなんて破格の待遇じゃないか。いったい何があったんだ?詳しく話してくれ」
「実はダンジョンのボス部屋に魔王がいまして…」
「ちょっと待て!?何だって?」
「ですからボス部屋に魔王が…」
「…少し待ってくれ…」
突然の魔王発見の情報に頭を抱えて考え込み始めた。
「…ジェームズ、魔王がいたのは本当の話か?」
「ああ、奴はそう言っていた。本当の話だ」
「…分かった。ギルドマスターを呼ぶから詳しい話はそっちでしてくれ。…俺には荷が重すぎる話だ」
そう言うとどこかに連絡を入れているようだ。しばらくするとリリィがやって来た。走って来たのか息が荒くなっており肩で息をしている。
「た、大輝さん…ハァハァ、無事で…ハァハァ…良かった…です」
「リリィ僕達は無事だからとりあえず息を整えようか」
大輝達はリリィが落ち着くのを待った。
「もう大丈夫です。それより大樹さん、マオちゃん無事で良かったです。昨日は宿に帰って来なかったし今日だって、今連絡を貰うまで音沙汰なしで心配したんですよ」
「心配を掛けてすまなかったのぅ、じゃが妾達はこの通り無事じゃ安心せい」
「それはそうと宿を離れて大丈夫なんですか?今は夕食時間だから忙しいんじゃ」
「それは大丈夫です。私はバイトみたいな感じですから。あ、薬草の方もやっておきましたから後で受け取ってくださいね」
「ありがとう、ポーションの効果も確認出来ましたからどんどん作っていきますよ」
「え、あの時のポーションの材料って宿で作っているの?もしコストが掛からないなら非常用に何本か欲しいんだけど駄目かな?」
大輝達の話にナビコスが参加し始めて本格的に話が脱線しそうに感じた受付のおっちゃんがストップをかけた。
「大輝、そろそろギルドマスターにさっきの話の続きをしてやってくれ」
「?、でもギルドマスターがまだ来てませんよ?」
「…大樹さん、騙していた訳ではないんですよ」
「いきなりどうしたのじゃリリィよ?」
急に申し訳なさそうな態度を取り始めたリリィに大輝達は意味が分からないでいた。
「実は……私がギルドマスターなんですよ。…とは言っても親から受け継いだだけですから実力はないですけどね」
「………マジですか?」
「事実です。ここではなんですから2階の部屋に行きますか。詳しい話はそこでお願いします」
突然教えられたリリィの正体に戸惑いながらも2階の部屋に向かっていった。
「それでは今回の依頼で起こった事の報告をお願いします」
ギルドマスターの部屋に入りリリィと大輝達は対面になる形で長椅子に座っている。
「その前にリリィはなぜ宿屋で働いているの?」
「あそこは母の宿屋なんですよ。それで要注意人物や護衛対象などを泊める時に使っているんですよ。身内の宿だと安全確保が楽に出来ますし、何か問題が起こってももみ消しやすいんですよ」
「それなら妾達は要注意人物扱いじゃった訳か…」
「そ、それは!?…ビックルさんが悪いんですよ。「あの2人はいろいろ規格外の行動を起こすから注意しろよ」、としか言わないんですよ。私としては監視が必要と思うじゃないですか…」
「確かに規格外な2人だからな」
「そうですよね!悪い問題は起こしませんが私も宿で話していても驚かされてばっかりでしたもの」
リリィの言い訳にジェームズがあっさり同意して、なんとなく大輝達が悪いみたいな空気になっている。
「…妾達はそんなにひどかったかのぅ?」
「世間の常識に真っ向から喧嘩を売っていましたからね。師匠は」
ナビコスも当たり前のように同意していた。
「師匠達の持っている装備、スキル、アイテム、どれも格上の物で足りないのは常識くらいですよ」
ナビコスの追加攻撃に大輝達はダメージを受けて俯いてしまった。その状態に気付いたリリィが慌てて話を戻そうとした。
「そ、そんな事より今回の依頼中にあった事の報告をお願いします」
「…クリスタルダンジョンの5階層に魔王がおっただけじゃ」
マオのいろいろ言われてショックを受けているようだ。
「ま、魔王!それは事実ですか!?そして立ち直ってくださいよ2人共!」
「あ奴は確かに魔王じゃったよ。妾が保障する」
「そんな……それなら急いで対策を立てなくては!」
「ん?なぜじゃ?」
リリィの慌て方とマオ達の温度差にかなり開きがあった。
「…なぜって魔王ですよ魔王!セイバの国がどうなってたか噂は聞いていますよね?ああなる前にしっかり対策を立てておかなくては!」
「あー、ギルドマスター。…魔王はもういないんだ。この2人がその場で倒しちまったよ」
「え!?倒したって…ま、まさか魔王をですか?」
突然のジェームズの話にリリィは驚きを隠せないでいる。魔王は他のモンスターよりも身体能力が高いだけではなく知恵もかなり高くなっており危険な存在なのだ。
「ええ、おかげで良い素材が手に入りましたよ」
「……順を追って説明してください」
リリィは詳しい経緯を知らなければ理解出来ないと判断し大輝達に説明をしてもらった。
「…そんな事があったんですか。本当によく無事で帰って来れましたね」
「正直、大輝達がいなければ俺達も依頼人も魔王の腹の中にいただろうな」
「それで依頼料を3倍も払うと言って来たんですか。…それにジェームズさんは大輝さんの冒険者ランクを上げる推薦をしたいという事ですね。実績から8級に上げる事は可能ですが、大輝さん達の目的である転移のダンジョンへの探索条件は5級以上の冒険者を含まないと許可が出ません」
「……5級ですか…先は長そうですね」
この世界の危険なダンジョンはそれに相応しい実力を証明する肩書きが必要とされている。その肩書きが冒険者ランク5級以上という事らしいが、それでも最低限の条件でもっと上のランクの冒険者でも挑もうとしない危険な所なのだ。
「ギルドマスターどうにか出来ないんですか?魔王を倒せる実力の持ち主だぜ、5級ぐらいの資格は十分あると思うんだが」
「それは私も分かっています。ですが…恥ずかしい話ですが私のギルドでは5級どころか6級の認定も出来ないんですよ。この国には8つの冒険者ギルドがあります。実績と滞在しているギルドメンバーのランクでその支部が認定出来るランクと人数が決まっているのです。…私のギルドは先代の父が死んでから主力メンバーが抜けてしまい、下から2番目の弱小ギルドなんです」
「なら大きいギルドに行けば良いんじゃない?」
「そ、そんな~…」
ナビコスのあっさりした言葉に落ち込むリリィ。
「…ですが目的のある大輝さんがそれを望むのは当然だと思いますので、私には止める事は出来ませんね…」
リリィにとって大輝達は危ない行動はとるが期待の新戦力なのだ。信用と実績を失いつつあるこのギルドに変化をもたらしてくれると信じられる存在にまでなっているが、それを押しつけるつもりはリリィになかった。そんな甘い考えを持っているからどんどん立場が低くなってしまっているのを分かってはいたが性格上どうしても変えれなかったのだ。
「大輝よ、妾はリリィもこのギルドの空気も好きじゃぞ」
「僕もリリィにはお世話になっているからギルドを変えるなんて事はしたくないよ」
「…ありがとうございますとても嬉しいです。ですがお二人の目的は現在のこのギルドでは叶いません。冒険者は時には冷酷になって目的を果たさないといけない事があります。私はその気持ちだけで十分ですから遠慮しないで行動してください」
リリィは大輝達の気持ちが嬉しかった。だからこそ心配させないように笑顔でここを出ていくように進めてくれたのだ。
「リリィ、僕達はこのギルドから転移のダンジョンに向かう。それは決定事項だ。だからまずどうすれば良いか教えてください」
「大樹さん、……でも」
「決定事項と大輝が言ったはずじゃぞ」
「俺も協力はするぞ」
「師匠がやるなら私も頑張ります!」
「自分も協力は惜しみません」
「…皆さん…ありがとうございます」
ここにいる全員がこのギルドを立て直してくれると言ってくれてリリィはその事が嬉しくて俯きながら泣きだしていた。
「これ、まだ何もしていない内に泣く奴があるか。嬉し泣きはギルドが大きくなってからにするのじゃ」
「はい…すみません…すみません…」
「まったく…落ち着くまで待つから、それからどうすればギルドは大きくなるのか説明するのじゃぞ?」
そうしてリリィが泣き止むまで大輝達はしばらく待つ事にしたのだった。




