39話 クリスタルダンジョン脱出開始
39話 クリスタルダンジョン脱出開始
「あー皆さん、そろそろ地上を目指そうと思う時間なのですがよろしいでしょうか?」
依頼人達は今だ採掘をやめてはいなかった。そう一晩中寝ないで採掘を続けていたのだ。
「もうそんなに時間が経っていましたか?すみません、ここまで上質なクリスタルは初めて見ましたので浮かれてしまい時が経つのも忘れていましたよ」
「寝ていないようですが帰りの道中は大丈夫ですか?」
「こんなに興奮していては眠気なんて吹っ飛びますよ。それに眠気で貴重なクリスタルを傷つけるなんて事があれば一生後悔するでしょうから気を緩めるなんて恐ろしい事出来ませんよ」
依頼人はジェームズに声を掛けられた事で採掘をやめ荷物をまとめ始めた。すでに背中に背負っていたバックには溢れんばかりに詰め込んでおり、そこに入らないクリスタルをポケットや両脇に抱えて持っていた。大輝もそれ以上の採掘を行っていたが圧縮していたので気付かれず袋に詰めてカードに収納したので手ぶらになっているのだ。そして採掘と同時にこの部屋に飛ばされた原因の魔石も回収していた。クリードの話から自然に出来た罠ではないと思っていたので調べて見ると案の定、魔方陣に魔石が埋め込んであったのだ。中心にあった大きめの魔石が<魔力貯蔵の魔石>で回りにあった小さい魔石が<転移の小石>で複数個見つかった。そして魔法陣も布と合成する事で小さくして持ち帰る事にした。
「それでは地上に向けて出発します。5階層はある程度攻略が済んでいるのではぐれないように着いて来てください」
初めて5階層に来たジェームズ達だが昨日の武器の慣らしで、マオに強制的に戦わされている間に周囲のマッピングが終了してしまったのだ。そのおかげでクリスタルゴーレム2体までなら同時に相手出来るまでに成長していたのだ。今のダンジョンボスのいない状態ではジェームズ達の脅威にはならないのだ。
「師匠、そう言えば昨日のドラゴンの火からどうやって凌いだんですか?」
タマがいるのでモンスターが近くにいれば分かる為、余裕が出たナビコスが昨日の戦いについての疑問を聞いてきた。
「ん、ああ、奴の火は妾は水で、大輝は風で防いだだけじゃ」
「それじゃあ分かりませんよ。もう少し具体的にお願いします」
ナビコスとマオの会話の内容はジェームズ達も気になるようで聞き耳を立てている。
「まー、見せた方が早いかのぅ。…<アクアフィールド>」
そう言うとマオの周りに水の膜が現れた。
「な!?」
「これで防いだ訳じゃ」
マオは簡単に言ったがここまで強力な水を制御するのは生半可な魔道具では不可能なレベルだった。その水の膜は流れがあり少々の攻撃なら簡単に弾いてしまうほどの力強い勢いなのだ。
「そして大輝は風の壁を作り火を防いだのじゃ」
「あの槍を使う時の突風ですか?」
「違う違う、あ奴の左腕に装備している篭手の効果じゃ。あれは鉄で出来ているからそのままでも立派な防具じゃが、魔力を流す事で前方に風の壁を作る事ができ火などの攻撃を防ぐ事が出来るのじゃよ」
「流石師匠達ですね、普通それらの魔道具を1つでも持っていれば一流の魔導士ですよ」
「今の妾は魔道具を使わねば回復魔法しか使えないからのぅ。それで一流を名乗るなど恥ずかしくて出来んよ」
ジェームズとドライブはマオの実力で一流を名乗らないなんて言われると、自分達は三流以下じゃないかと思い落ち込んでしまった。
「攻撃手段の魔道具の持たない魔導士なんていないのに、師匠は謙虚ですね」
「…そう、なんじゃがな…」
かつて魔王としての実力と今の自分をどうしても比べてしまうマオは過去を思い出し元気をなくしてしまった。
「師匠どうしたんです?なにか落ち込んでいるみたいですけど…」
「…何でもないぞ。いつも通りの妾じゃよ」
ナビコスに心配を掛けてしまっている事に気付いたマオは気持ちを切り替えいつも通りの素振りで返事を返した。そういう話をしながらもダンジョンを進んでいく。途中で出会うクリスタルゴーレムをジェームズ達が倒していく。大輝は自分の作った武器の性能を見ながら今後の武器作りの参考にしようと考えていたのだ。
「ジェームズさん、どうです新しい武器は?やっぱり見えない武器は使い難いですか?」
戦闘を危なげない連携で終わらせたジェームズ達に大輝は新しい武器の感想を聞いた。
「おう!凄いぞこの武器は!今までの武器がまるで落ちている棒のような感覚になってしまったぞ。確かに見えないのは多少不便には思うが、それ以上に相手の方が戸惑うだろうからメリットの方が大きいな」
「生まれ変わったマルスは凄いですよ。それにヴィータとは違った魅力があって素晴らしいです!」
「自分の武器は先端だけ見えないだけだし、基本は刺す攻撃しかしませんから影響はありません。ですがあまりに抵抗なくモンスターを貫いてしまう為、戦い方を少し変えないといけなくなりましたが」
ナビコスの意見はほっとくとして、ジェームズとドライブの感想は今後の役に立ちそうだった。自分は慣れればいいが相手はそうはいかないという事と、切れ味が上がると相手を刺す武器だと押し返したりするのに使い難い事が分かったからだ。
そうして間もなくして大輝達は4階層への階段を見付けた。
「ここからの4階層は初見だ!ないとは思うが危険なトラップもあるかも知れない。注意して進んで行くぞ!」
4階層はクリスタルゴーレムの数が減っているので危険は少ない。しかしジェームズは経験豊富な冒険者だ。敵が減り油断が発生しやすい時を知っているので全員に気を張るように伝えたのだ。
そして2時間がたったが3階層への階段は見付ける事が出来ていなかった。
「ここで一度休憩を入れよう。まだ危険なフロアだ無理はしない方がいいからな」
皆の疲れ具合から判断しジェームズが休憩をする事を進言した。
「しかし既に持ってきた食料が底をつきました。あまりのんびりも出来ませんよ」
「皆さんの不安も分かりますが休息は必要です」
そう、依頼人の心配ももっともの事だ。元々日帰りの依頼だった為に依頼人もジェームズ達も食料をそんなに持ってきていないのだった。もしまた一泊となると水も食料も補充できない以上、不安にならない方が変なのだ。そしてこの状況で空気を読めない変な2人がいたのだ。
「大輝よ、そろそろお昼じゃろう。パンと水を出して欲しいぞ」
「休憩だし、今のうちに昼食を済ませておこうか」
冒険者は基本は他のチームに干渉しない。必要な道具は自分らの責任で用意するものなのだ。他のチームに道具を分けて貰おうとするのはしないはずなのだが…。
「…師匠達~、私、もう食べる物が無くなってしまったんです。余裕があったら分けてください…」
冒険者の常識を気にしないで普通に泣き言を言うナビコスがいた。
「大輝、どうじゃ?」
マオはパンを食べながら大輝に聞いた。
「まだ余裕はあるから大丈夫だよ。はい、ナビコス」
そして大輝達もまるで気にせずナビコスにカードからパンと水を出し、分けてあげたのだった。
「あ、ありがとう。実は朝から何も食べてなかったから助かりました」
そんな様子を見ていたジェームズと依頼人は最初は呆気にとられていた。大輝は見た目、武具しか持っていないのに次々とパンと水を出すのだ。そんな状況でいち早く正気に戻ったジェームズが大輝に話掛けた。
「…た、大輝!お前達はまだ食料と水に余裕があるのか?」
「ど、どうしたんですか急に?」
「いや、俺達も依頼人も日帰り予定だったから食料をそんなに持ってきていないんだよ」
「ああ、それで。水は魔道具で出しているから余裕がありますけど、食糧はパンかギルドで売っている携帯食料しかありませんがそれでいいですか?」
「十分過ぎる。すまないが人数分を分けてくれ」
そうして大輝はジェームズとドライブ、依頼人の分のパンを出して渡してあげ、皆の水筒に水を補充してあげた。
「…今回はお前達に助けて貰ってばっかりだな…」
ジェームズが申し訳なさそうにしている。
「一緒に依頼を受けた者同士、トラブルの時は助け合っていくのが当然ですよ」
「…ありがとう。気が楽になったよ」
「じゃあ、気分を変えて3階層への階段を探しましょう」
そうして食事を済ませ気分をリフレッシュさせる事が出来た一行は休憩を終了させて探索の続きに戻るのだった。
気分転換が出来たおかげか、それからしばらくして3階層への階段を発見する事が出来た。
「やっとここまで帰ってこれたな…。僕はもう1日ぐらい掛かると思っていたよ」
依頼人の安堵の声が聞こえる。
「まだ油断をするでない。3階層はクリードが罠を仕掛けていたフロアじゃ。5階層へのトラップは無効化しているが、他に罠がないとは限らぬぞ」
「お嬢ちゃんの言う通りだ。せめて3階層の採掘場までは警戒を解かないでいきましょう」
マオのもっともな話にジェームズが同意し依頼人を注意した。とはいえジェームズ自身も実はマオに言われるまで気を緩めてしまっていたのは内緒である。
そうして3階層で悪い予想は当たってしまった。モンスタートラップ、ゲームで言うモンスターハウスみたいにある広くなっていた通路の中心に着いた途端、周囲にクリスタルゴーレムが10体同時現れたのだ。




