38話 クリスタルダンジョン脱出前夜
38話 クリスタルダンジョン脱出前夜
「さて、せっかく最深部まで来たんですし、ここで採掘でもしてから帰りますか?」
大輝は気楽に言っているが、当面の危機は去ったとしてもここはクリスタルダンジョンの最深部、第5階層だ。ここのフロアに出るモンスターはクリスタルゴーレムがメインで大輝とマオは別として、ジェームズ達には危険な場所なのである。
「そうですね。こんな機会でもない限り5階層に来る事なんてありませんし、採掘していきましょう」
依頼人はあっさり留まる事を決めた。本来、命の保障もされないフロアなので早急に引き返すべきなのは分かっているが先ほどの戦いの最中に見た、クリスタルで出来た盾の印象が大きすぎて上質のクリスタルを手に入れたい衝動を止める事が出来なくなっているのだ。
「…大輝さん、この盾ありがとうございました。おかげで助かりました。…それで危険も去りましたのでこれをお返しします」
ドライブがクリスタルの盾を大輝に返しに来たのだ。
「別にそのまま使ってくれて構わないよ。僕達、盾を使わないし材料も間に合わせだったしね」
「で、でもこれかなりの性能ですよ。そんな物をただでは貰えません」
「でもなー………そうだ!僕もクリスタルの採掘を少しやりたいから見張りを1回代わりにやってよ。それでどう?」
「…それでもかなり此方が得をしている感があるのですが…」
破格の条件に素直に頷けないドライブを見かねてマオが言った。
「ドライブよ、その盾が今のメンバーで一番相応しいのは誰じゃ?」
大輝は使わないと言い、マオは魔導士、ナビコスは素早さも必要だからこんな大きな盾は邪魔になる、ジェームズは武器が大剣なので装備出来ない。必然的にドライブしかいないのだ。
「…それは、…このメンバーでは自分が一番です」
「そうじゃな、そしてお主はその盾を信用し自分の命を掛けれるな?」
「はい、先ほども自分の命と皆の命をこの盾に掛けました」
「ならばその盾の相棒はお主じゃ!?武具は信用され上手く扱ってくれる者の下にいるのが一番幸せじゃ!遠慮などして相棒を見つけたその者と別れてしまって良いのか?」
「!?、…すみませんでした。もう少しで自分の相棒を悲しませてしまう所でした。…大輝さん先ほどの条件、ありがたく受けさせてもらいます。大輝さんが採掘の最中は自分とこの<パルテナ>が皆さんの安全を守ってみせます!」
「それで良い。その者と一緒に頑張るんじゃぞ」
「はい!師匠!」
高々に宣言するドライブの肩にナビコスが優しく手を置く。
「ドライブもやっと武具の声が聞こえるようになったんだね」
「ああ、今まで馬鹿にしてすまなかった。俺は師匠のおかげで目が覚めた!これからはパルテナと共に皆を守る盾になる!」
その流れを遠くで見ていたジェームズが頭を抱えてただ一言「増えた」と呟いていた。もちろん目の前での会話だったが大輝はまったくついていけず、ただ呆気に取られるだけだった。
流石は最深部の部屋だけあって今までにない良質のクリスタルが取れているらしく数時間経っても一向に採掘をやめる気配がない。大輝も採掘したクリスタルを次々、錬金術で圧縮していき何かを作ろうとしているのが見て分かった。それにこの部屋はボス部屋のようで他のモンスターが来ないのも採掘をやめれない原因でもあるのだった。そんな中ジェームズが大輝に声を掛けた。
「…大輝、少し話があるんだがいいか?」
険しい顔をしたジェームズに気付いた大輝は作業の手を止めて話を聞く事にした。
「僕は大丈夫ですが、どうしました?」
「今後の話だが、俺達は今5階層いる。俺はもちろんだが依頼人も上に行く階段の場所を知らないんだ。だからこのフロアを探索しながら上の階段を探さないといけない。時間も掛かるし、モンスターとの戦闘も多く起こるだろう。…しかし俺達はメインで現れるクリスタルゴーレムを倒す攻撃力がないんだ」
ジェームズが次の言葉を言うのを躊躇っているように口が開けないでいる。
「…なるほどのぅ、お主は大輝にここで戦える武器を作って欲しいんじゃな。しかし、妾達が目立つ行動を避けている事を知っているから頼めないでいる、と言う訳じゃな?」
マオのズバリ的中の言葉にジェームズは驚いたが、頼み事の内容が申し訳なく下を向くしかなかった。
「お前達が嫌がっている事を頼むのは心苦しいが、全員でここから脱出する為には必要だと判断したんだ。……すまない、俺達の力が足りないばかりにお前達に負担を負わせる形になってしまった」
「どうする大輝よ?このダンジョンを出たら回収するか破壊するかすれば特に問題は起こらんぞ」
「…いや、使わない武器を持っていても邪魔になるだけだし、壊すのはもったいないからなー…」
「そうじゃなー…」
大輝とマオが悩みながら周りを見渡す。そして2人がある人物を見た時、その視線は釘づけになった。
「マオ、良い事を思いついたよ」
「偶然じゃのぅ、妾も思いついたところじゃ」
大輝とマオは同じ事を思いついたようでジェームズの方を見た。
「「解決法はドライブのパルテナだ(じゃ)」」
「パ、パルテナ?…ああ、ドライブの新しい盾の名前だったか。だがそれがどうしたんだ?」
2人に同時に話掛けられたが意味が分からず、首をかしげるだけしか出来なかった。
「ようは鉄のように見えるから目立つのじゃ。ならば見えない武器にすれば良いという訳じゃ」
「そう言う事、透明なクリスタルの武器の中心に銅の武器を入れておけば、周りからは普通の銅の武器にしか見えないんじゃないかな」
「…なるほど理屈は分かった。しかしそんな事が出来るのか?」
「やった事はないけど多分大丈夫だと思いますよ。とりあえずジェームズさんの大剣とナビコスの片手剣、ドライブの槍を加工すればいいかな。……でも1つ問題があります」
「!?、も、問題!いったい何の問題があるんだ?」
「実はMPが残り少なくて武器を作ったらほぼ空になるから、今日はここで泊まる事になると思う」
「…分かった。脱出出来る確立を上げる為には必要な事だ。俺が依頼人に話をしてくる、大輝は少し待っていてくれ」
そうしてジェームズは採掘をしている依頼人に話をしに行った。
「実は主力である大輝の魔力が脱出するには厳しい事が分かりまして、ここで一泊して万全の状態で脱出したいと思うのですがいかがでしょう。幸いここはモンスターが出ませんので安全ですし」
ジェームズは苦渋の決断をした厳しい顔のまま依頼人に理由を話した。
「それでは今日は残りの時間を採掘を続けて良いという事ですね!それは朗報だ!おい、皆!今日はここで泊まるらしいから朝まで掘り続けれるぞ!」
「マジか!?それはいい事を聞いた。いつ帰るぞと言われるかドキドキしていたよ」
「なら、バリバリ掘るぞ!時間が延びたとしても限りはあるからな!」
怒鳴られたり文句を言われるのを覚悟してきたジェームズはこの喜んでいる依頼人達を見て、厳しい顔のまま動きが止まってしまった。心の中では俺の決意を返せと思いながらも態度に出さず大輝の元へ帰ってきた。
「…依頼人の了解は得た。大輝、武器の加工を頼む」
そう言ってジェームズは背中の銅の大剣を差し出した。
「芯になる剣は、片手剣サイズになってもいいかな?」
「実際に使えるサイズが変わらなければ問題がない。俺は別に大剣しか使わない訳じゃあないかな」
「なら早速作るよ」
そうして大輝は銅の大剣を片手剣のサイズに加工した。そうして採掘したクリスタルの不純物を排出して何度か合成圧縮を繰り返し、芯となる銅の片手剣の周りに合成してジェームズに返した。
「こんな感じでいいかな」
「……凄い、…クリスタルはこんなにも透明になるのか?…確かに周りから見たら普通の片手剣にしか見えない。いや、持っている俺にもほとんど見えない…」
「元のサイズと変わらないから、見えなくても使い勝手は一緒のはずだよ。後は慣れてとしか言えないかな」
「持った感じでは重量も重心も前と変わらない。これなら慣れるにも時間は掛からないだろう」
続いて大輝はナビコス、ドライブと1人づつ呼び武器を改造していった。
「…ふー、これで僕のMPはほぼ空だから休むね」
「ああ、ありがとう。これで俺達も戦える」
ジェームズが代表して大輝に頭を下げて礼をした。
「じゃが新しい武器の慣らしは必要であろう。妾がついて行くからお主達、今からクリスタルゴーレムでも狩りに行くぞ!」
「「「え!?」」」
ジェームズ達3人はマオが軽く言った突然の言葉を理解出来ないでいた。
「?、何を驚いておる?お主達は戦える力が欲しくて大輝に武器を頼んだのであろう。ほれ、呆けてないでさっさと行くぞ」
そうしてジェームズ達の背中を押すような形でマオは3人を引き連れボス部屋から外に出て行った。ボス部屋を出てすぐの所でマオ達はお目当てのクリスタルゴーレムに出会った。ただし2体同時ではあったが。
「よし!戦闘開始じゃ」
「いやいや、2体同時なんて無理だ。一先ず撤退しよう」
ジェームズがマオに撤退の進言をする。
「しょうがないのぅ。なら1体は妾が相手をするからそっちのをやるのだぞ」
「え!?マオちゃん1人で戦うの?」
「これナビコス、敵は動き出しているぞ。ドライブ、まずはお主が攻撃を盾で受け動きを止めよ」
マオの指示に従いドライブがクリスタルゴーレムの拳を盾で受け前進を止めた。その時マオはフレイムソードで相手の右足を切り落としていた。
「次にナビコス!ドライブの横から抜けて相手の足を切り落とし機動力を削るのじゃ」
そう言いながらマオは残った左足を切り落とし、敵の機動力を完全になくした。
「ほれ次はジェームズじゃ!腕を切り落として攻撃力を削るのじゃ」
そのままマオは倒れこんだ相手の首を落とし、戦っているジェームズ達の方に歩いていった。
「ほれ、敵はまだ諦めてはおらぬぞ。ドライブ、相手の正面に立ち攻撃に備えるのじゃ。ナビコス!相手の死角に入り続け隙を見つけては切りかかれ。ジェームズ、お主は2人が作ってくれたチャンスを無駄にせず確実な一撃を与えるのじゃ」
ジェームズ達が相手をしたクリスタルゴーレムは、次々と肢体を切り落とされていき最後に首を落として終了した。元々チームで動いていたので連携はスムーズなもので危なげなく戦う事が出来たのだった。
「うむ。十分戦えるではないか。なにゆえ腰が引けておったのじゃ」
「いやいや、これは明らかに武器の性能のおかげだ。大体、相手を斬り倒すなんて普通の武器では出来ない事だぞ。それをこんなにスパスパと斬ってしまうなんて。だいたいお嬢ちゃんも何なんだ?こちらに指示を出しながら俺達3人より先に倒しちまうなんて規格外にもほどがあるぞ」
ジェームズは新しい武器の常識外れの性能に驚く事とマオの非常識な強さに今までのストレスが合わさって爆発した。
「そりゃあ師匠ですものこれくらいやっちゃいますよ」
「お前は順応しすぎだ!」
しばらくジェームズが落ち着く事はなかったが、次の敵が来てそのストレスを相手にぶつけるように止めは斜めに斬り裂いて終わらせた。
「どうじゃ。武器の性能チェックと気持ちは落ち着いたか?」
「…ああ、すまなかった。だいぶすっきりしたし、この武器ならお荷物にもならんで済みそうだ」
ジェームズはすっきりした顔で自分の大剣を眺めて返事をした。
「ジェームズさんもその子に名前をつけてあげたくなりましたか?」
ナビコスが覗き込む形で顔を出した。
「…いや、俺はいい。…だがお前やドライブの気持ちも分かる気がする。周りと違う武器を持って窮地を救ってくれる武具はそれだけで特別に感じてしまうよ」
「そこまで来ているなら後少しですよ」
ナビコスの言葉通りジェームズも名前をつける事になるのだがそれはしばらく先の話である。そうして夜遅くまでマオの指揮の下戦わされ、無事に慣らしを終えた一行は依頼人のいる部屋に帰って行くのであった。




