35話 クリスタルダンジョン第1階層
35話 クリスタルダンジョン第1階層
「さて、私たちは第2階層の採掘場に向かう予定にしていますので護衛の方、よろしくお願いします」
クリスタルダンジョンは全5階層で構成されており奥に潜るほど危険なモンスターが現れる。
「僕達はこのダンジョンに来た事がないので分かりませんが大丈夫なんですか?」
今回の護衛チームは2組、本来は3組以上で安全を確保するのだから危険は増しているのだ。
「まー普通なら危険だがお前達が一緒なら大丈夫だろう。だが油断はせずに行こう」
「安心してください師匠!私も足手まといにならないように頑張りますから」
ナビコスはかなり張り切っているようだ。それより気になる事が出来た。
「師匠?」
「はい!マオ師匠の事です!私は師匠に教えられました、武器をただの道具として見ない心構え、そして相棒と心を通わす事の大事さを!」
「うむ、その気持ちを忘れん限りお主は更に成長していくじゃろう」
「はい!ヴィータとマルクと一緒に成長していきます!」
大輝はマオとナビコスとの会話には入って行けないでいると、ドライブが近づいてきて。
「……ナビコスがおかしくなったのはお前達が原因か…」
「…全く関係がないとは言えないけど…少しは原因かも」
「ドライブ!私は変じゃないよ。見てなさい私とヴィータ達の戦いを!」
「その段階で既に変って事に気付け!!!」
「ドライブも武具と話して見れば分かるよ。ほら盾も槍も貴方が話しかけてくれるのを待っているよ」
「……………」
ドライブは何も言わずただ大輝を睨んでいる。
「…ほんと、すみません」
大輝はただ謝る事しか出来ないのであった。
「お前達!もう出発だ、早く来い!」
沈黙が支配したこの空間を救ってくれたのは少し怒っているジェームズの声であった。
「ここから先は隊列を変更する。戦闘を俺が、右にナビコス、ドライブで左にお譲ちゃん、後ろが大輝だ。敵が現れてその場で対応が出来ないならすぐに声を掛けろ。その時は大輝が対応してくれ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいジェームズさん。なんでこっちが俺とナビコス2人で向こうはあんな子供1人なんですか!9級の冒険者の連れですよ。危険じゃないですか!」
「ドライブ大丈夫だよ。だって師匠だもの」
「お前は黙っていろ!」
ナビコスの言葉を一言で終わらせジェームズに問いかける。ドライブはマオが回復魔法を使えるだけと思っているのである。マオが戦っている所を見ていないのだがら実力を知らないのは仕方がないが。
「ドライブ、はっきり言ってその2人は冒険者の経験は少ないが、俺より実力は上だ。お前も舐めて掛かると骨も残らんぞ」
「失礼な奴じゃのぅ。妾だって手加減は出来るぞ」
「……………」
「ドライブとやら、不安なら妾達の戦いを見てれば良いじゃろう。ナビコスもヴィータを使えば1人でも持つじゃろうし」
「…分かった。そんな状態で護衛は務まらんから暫くは左側にドライブもいけ。ナビコスは腰の武器を使用して1人で耐えろ。それで良いか大輝」
ナビコスの腰に装備して小刀は非常時以外は使用禁止の約束を大輝としている。ジェームズもそれを知っているので大輝に許可を求めてきたのである。
「今は僕達しかいないから大丈夫じゃないですか。ナビコスが危ない時は僕も飛んで駆けつけるから安心してください」
「そう言う事だ。ナビコス、ドライブ、それで構わないな」
「「はい!」」
そうして隊列は決まった。しばらくしてクリスタルドックが左から襲ってきた。
「クリスタルドック3匹来たぞ!」
「<フレイムアロー>」
マオの出した3本の炎の矢が一瞬で3匹を襲い跡形もなくなった。
「お終いじゃ」
「……………」
ドライブは盾を構えた状態から動けなくなっている。クリスタルドックは動きが早くその体はとても硬い。3匹も一気に現れたら5人がかりで相手しないと危険なのである。それを苦とも思わず一瞬で片づけたのだ。
「ドライブよ、早くこんか!」
「は、はい!」
マオの声に我に返ったドライブは素直に返事をして着いて行った。
その後右の脇道からも3匹敵が現れナビコスと戦闘になった。
「大樹さんこっちにも3匹現れました。援護お願いします!」
その声を聞いた大輝は風のベルトの効果を試してみた。その瞬間大輝の後ろに突風により轟音が響きその姿消え、ナビコスの前に来ていたクリスタルドック2匹も一緒に消えた。
「え!?、何が起こったの?」
「ナビコスまだ1匹残ってる!油断しないで」
大輝は前衛のジェームズよりも前にいてその手には巨大なランスが握られていた。
「後1匹なら大丈夫です!」
ナビコスは落ち着いてクリスタルドックに向かって腰の小刀を振り抜き両断した。その振り抜くまでのスムーズな動きは余程練習していたのであろう無駄のない良い動きであった。
「もう刀を使いこなしているね。びっくりしたよ」
大輝が戻ってきてナビコスに声を掛ける。その手には既にランスはない。
「私こそびっくりしましたよ。声を掛けた瞬間モンスター2匹が消えて、大輝さんはかなり前にいるんですから」
「ははは、…作った魔道具の実験をして見たんだけど加減が難しくて行きすぎちゃったよ」
「ふふふ、相変わらず常識が通じませんね」
既に免疫が出来ているナビコスは笑って済ましているが他の人はそうはいかなかった。特にほとんど接点を持っていなかったドライブはまた驚きのあまり立ち止まってしまった。
「ほれ、また動きが止まっておるぞ」
「…い、いや!何なんですか今のは!後ろにいた大輝か次の瞬間前にいたんですよ!なんで普通なんですか!?」
「あれはただ加減を間違えただけじゃ。そんな事より遅れるぞ」
「あれをそんな事……?、ジェームズさんもナビコスも普通にしているって事は俺が変なのか?」
そんな自問自答を繰り返しながらドライブは歩いて行く。
その後も何度かクリスタルドックに襲われるが苦もなく乗り越えていく。そうして第一の休憩ポイントに着いた。
「ここで少し休憩だ。俺達も休むが警戒は解くなよ」
「…しかし、クリスタルのダンジョンと言っても全然クリスタルがありませんね」
そう周りは普通の岩の洞窟だ。大輝達の想像では壁一面がクリスタルで出来ていると思っていたのだ。
「このダンジョンの1階層はモンスター以外にクリスタルはないな。2階層から徐々に取れるようになるから採掘の場所が2階層にある訳だ」
「このダンジョンボスはどんなモンスターなんですか?」
「出会った事はないがジャイアントクリスタルゴーレムだ。単純にでかいクリスタルゴーレムだが力と硬さが段違いに強いらしいぞ」
「大きいのはそれだけで脅威ですもんね。…そう言えばクリスタルの使い道って何なんですか?やっぱり武器とか防具かな」
「ははは、ここで取れるクリスタルは割れやすいから武器には不向きだよ。加工してアクセサリーにするんだよ。一応は破邪の効果あるから売れるらしいぞ」
「破邪か。少し興味が出てきたな」
「よし!休憩は終わりだ。出発するぞ。隊列は戻すぞ、ドライブはナビコスの方に戻れ。異論はないな?」
ドライブは素直に認めるしかなかった。マオと左側の警護に着いたがモンスターが見付けるとその瞬間、炎の矢が飛んでいき倒してしまうのだ。ドライブはここまで何もしていない、マオの前では盾の意味が全くないのだからまだナビコスの所にいた方が役に立てると思ったのだ。
「それじゃあ、行くぞ。そろそろ2階層への階段が見えるはずだ。そこからが本番だ、気合い入れていくぞ!」
そうして大輝達は移動を始めた。
「ナビコス、あいつ等は何なんだ?」
「?、師匠達の事?」
「そうだ、あいつ等は9級の冒険者だろ?何なんだあの異常な強さは、お前も見ただろ攻撃!一瞬で50メートルは移動していたぞ!」
ドライブは時間をおいた事で冷静になり疑問をナビコスにぶつけたのだ。
「凄かったよね。流石、師匠達だよ」
「それだけ!?いやいや、ありえんだろ!マオの炎の矢1発をとっても見た事もない攻撃力だったぞ。それを3発同時に操ったのだぞ!」
「でも師匠はまだ本気を出してないよ?私の知っているかぎりでは全部で4つの炎を操るからね。それにたぶんだけどセイバの国で噂になっている<赤髪の爆炎姫>は師匠の事だと思うんだよね。師匠は知らない事だと思うけどね」
「<赤髪の爆炎姫>!あの国を滅ぼそうとしていた魔王を勇者が来る前に殲滅した炎の使い手か!?一撃で十数匹のゴブリンを焼き払い、1匹も近づく事も出来なかったと聞いたあの<赤髪の爆炎姫>か!?」
「…たぶんね。でも師匠達には内緒だよ。あの人達は目立たず生きる事を目標としているから、迷惑を掛ける事をしたくないんだよね」
ドライブはナビコスの話を聞いてその実力から疑う事は出来なかった。そして噂が真実ならマオは魔王を倒した者となる。そんな者に自分が対抗意識を持っていた事に恥ずかしくなってしまい、しばらくはマオの顔をまともに見る事が出来なくなってしまったのだった。




