33話 薬草栽培
33話 薬草栽培
朝、食堂に来たマオはリリィに話しかけた。
「リリィよ、どうじゃ!似合っておるか?」
昨日の夜に大輝が作りマオにプレゼントしたリボンが、余程嬉しかったのか朝からリリィに見せていた。
「……え、ええ、とても似合っていますよ」
リリィはリボンを見た瞬間驚愕したが全力で平然を装っていた。
「そうか!やはり似合っておるか!」
マオは浮かれていてリリィの変化に気づいてはいなかった。
「リリィ、こないだのを真似て作ってみたけど、どうかな?」
「!?大輝さん、これは貴方が作ったんですか!?」
「そうだよ、この色を出すのに苦労したよ」
大輝はリリィが何に対して驚いているのか分かっておらず、見当違いな苦労話をし始めた。
「大樹さん!そんな事はどうでもいいんです。あれは魔道具じゃありませんか!?」
「?、そうだよ。あの青色は水の魔石を利用したんだよ」
「……水の魔石って、普通の清水石ではあんなに魔力が出ませんよ」
「そりゃ、清水石ではなく流水石を使ったからね。どうせ作るなら上位の魔石を使わなきゃね」
リリィは大輝があまりにも普通に話している事に呆れていた。この世界ではまだ流水石はあまり数が発見されていない。その貴重な魔石をリボンの色を出す為に使ったと言ったのだ。
「……大輝さん、どこで流水石を採掘したかは知りませんが、貴重な魔石を色を出す為だけに使用するのはどうかと思いますけど…」
「いやいや、流石に色を出す為だけじゃないよ!ちゃんと魔道具としての効果も付けたよ」
「付けた!?大輝さん流水石を合成しただけでなく、効果も持たせる事が出来たんですか?」
「ん?合成する以上、当たり前じゃないか?」
リリィは大輝がいかに凄い事をやっているかを理解していない事に気が付いた。流水石などの上位の魔石は合成素材にするだけでも相当の腕が必要なのだ。それでも上位の魔石はそれだけで効果はある。マオの流水のリボンが水の加護を持っているのがその例だ。そこに任意の能力を持たせる事が出来る者は世界でも数名なのだ。
「…大輝さん、貴方は話に聞いていた以上に我々の常識が通じない人ですね」
「聞いていた?誰に?」
リリィのため息交じりの言葉に大輝は反応した。大輝達がこの国に来てから魔道具作りをしたのは初めてである。いくらリリィがギルドから情報を聞けるとはいえ、ない話を聞く事は出来ないはずなのである。
「実は私はセイバのビックルさんと交流があるんですよ。そこで常識を無視した物を作る人だと聞いたんですよ。……実際にこんな魔道具を見るまでは話半分で聞いていたんですけどね」
「ああ、ビックルさんと、納得しました。確かにビックルさんの前ではいろいろ見せましたからね。でもリリィと初めて会った時には、既にマオは魔道具を2つ持っていましたよ?なんで今更驚いたんですか?」
そうマオはこの国に来た時には炎の杖と炎の指輪を装備していたのだ。魔道具としての質はそんなに差がないはずなのにリリィは普通に接していたのだ。
「実は大輝さん達がこの国に来た時にギルドに来たらこの宿にそれとなく誘導してくれるように頼んでいたんですよ。私はビックルさんから炎の杖と指輪の話は聞いていたので表情には出す事なく接する事が出来たんです。正直、一般の人でも長時間マオちゃんの魔道具を見ていれば、その異常性に気が付いてしまい大騒ぎになってしまうと聞いていたんですよ。その判断は間違っていないと思っています」
「でもリボンにはかなり驚いていたようだったけど?」
「先ほども言いましたけど貴方が作ったと言う話は半信半疑だったんです。私はてっきりどこかのダンジョンで手に入れたアーティファクトを持っていると思っていたんです。ですが昨日見せたリボンに似せた魔道具を作って見せられたら信じるしかなくなったんですよ」
この世界の強力な魔道具は基本は大きなダンジョンで生まれ、それを冒険者などが持ち帰った物がアーティファクトと呼ばれ人々に広がっていったのである。そして大輝の作った魔道具は十分アーティファクトと呼べるに値する物だった。確かに勇者ユキナの持っていた聖剣など最高位のアーティファクトと比べると見劣りはするが、高いお金を出して手に入る物と比べると1段も2段も格上の物なのである。そんな物を一晩で作られたらリリィが驚きを隠しきれないのも仕方がない事であった。
「実際どこまでの効果があるか分からないけど、たいした効果はないよ。多分火の杖ぐらいなら完全に防げると思うけどね」
大輝は簡単に言ったが、火の杖はこの世界の魔導士が持つ魔道具のほとんどがこれなのである。それを完全に防げると言う事は、そうゆう魔導士が束になっても敵わないと言える事なのだ。
「ははは、…現在の流行りの装備を完全に防げる魔道具がたいした効果じゃないなんてね…」
リリィは小声で呟いたので大輝の耳には入らなかった。
「そう言えば大輝よ、薬草の方はどうするのじゃ?」
マオが落ち着きを取り戻したようで大輝に薬草の話を持ちかけた。
「ああ、そうだよね。……リリィこの辺りで太い地脈の上にあって借りれる畑か花壇って知らないかな?」
「太いかは分かりませんが、この宿も地脈の上に建っていますので裏の花壇で良ければ使ってもらって構いませんが……何をするつもりですか?」
リリィの中で大輝は非常識な人と認識されてしまったのか、やや疑った目で見られている気がする。
「き、昨日話していた薬草の栽培をやってみようかと思って土地を探したんだよ」
「ああ、それで!……でも大輝さんの事だからただ植えるだけではないですよね?」
「………少々土を改良します……駄目でしょうか?」
リリィの疑り目が大輝をロックオンして離さない。そして疑われた事をやろうとしているのだから大輝はリリィから目を見る事が出来なくなっていた。
「……分かりました。ただし宿に迷惑が掛かるような事はしないと約束してくださいね」
「それは大丈夫です。……たぶん」
「…た、ぶ、ん?」
笑顔なのに目が笑っていない状態のリリィがやさしい声で大輝に聞き返した。
「いえ!?大丈夫です!もしもの時は僕が責任を持って対応しますので安心してください!」
大輝はリリィの迫力に負けて今にも敬礼をしそうな勢いで弁解した。
「…分かりました、許可します。マオちゃんもしっかり見張っていてくださいね」
「わ、分かったのじゃ、妾も全力でフォローすると誓おう」
マオもリリィの雰囲気に押されていた。
そうして大輝達は宿の裏にある花壇に向かった。
花壇は横に2メートル奥行きが50センチぐらいで周りに石で仕切りを入れている。今は何も植えていないらしいが雑草などは生えておらず手入れが出来ていた。
「それで何をするんですか?」
「昨日手に入れたこの<地霊石>を使って、ここの土を改良するんだよ」
「地霊石って…そうですよね、大輝さんの腕では当たり前に使用できる素材なんですね」
地霊石の合成難易度を知っているが、大輝ならやれるとすぐに気付き、今日何度目かのため息交じりの言葉を吐いた。
「…じゃあやるよ」
大輝は地霊石の加工難易度から強化を使用して合成を行った。地霊石と花壇の土は輝き、その光が収まった時地霊石はなくなり、花壇は魔力を放っていた。
「成功したかな?一先ず薬草1つで実験してみようかな」
薬草を取り出し2つに裂き植えてみた。暫く見ていたが枯れる様子はなく、徐々にだけど根元から再生が始まっているようだった。
「成功のようじゃが、この様子じゃと半日は掛かるかのぅ」
「まー半日で倍に増えると思えば大成功なんじゃないかな」
「そうじゃな。…しかし増産の目処がたったのならポーションにでも加工してみたらどうじゃ?」
「ポーションって薬草から作るの?」
「確か薬草の成分を水に溶かして濃縮したのがポーションのはずじゃ」
確かに今の大輝達は薬草の回復力では心許無い。それが解消されるならやらない理由はない。
「…えーと、それは凄い物なんですか?」
薬草の存在も知らなかったリリィは当然の事ながらポーションが何なのか分からないようだ。
「簡単に言えば薬草の強化版じゃ。おそらく7級クラスの冒険者までなら瀕死でも飲ませれば完全復活出来るはずじゃぞ」
「…そんな奇跡みたいな事が起こるんですか?…一概には信じられません」
奇跡、確かに骨が折れたり深い裂傷でも一瞬で回復したらそれは奇跡としか言えないかもしれない。それを言葉で聞いただけで信じるのは無理があるのは確かだった。
「まあそれは見てから判断すればよかろう」
「とりあえず残りの薬草も増やす為に植えるね。……後は増えるのを待つだけだね」
「ならギルドに行って依頼探しでもするかのぅ」
「そうだね。ギルドで聞いてみたい事もあるから行ってみようか」
「…あまり無茶な依頼を受けないでくださいね」
そうして大輝達は花壇から冒険者ギルドに向かうのであった。




